知的財産業界におけるAI活用の可能性に焦点を当てた重要な内容を提供します。

知財業界での教育革命:AIが切り拓く新時代の実務スキル

弁理士の日記念ブログ企画2024」の一環として、最近取り組みを始めたOA対応における生成AI活用の検証記事を紹介させていただきます。この取り組みが知財業界における新しい教育のきっかけになれば幸いです。


知的財産業界が大きな転換期を迎えていることは、皆様もひしひしと感じておられることでしょう。人工知能(AI)の急速な進化により、これまで我々の専門性に依存してきた多くの業務が、AIの支援を受けて驚くべきスピードで効率化されつつあります。日々の業務で使用する特許検索ツールや翻訳ソフトに、いつの間にかAI機能が実装され、その精度の向上に驚かされた経験をお持ちの方も多いのではないかと思います。

しかし、この変革の波はまだ序章に過ぎません。私達知財プロフェッショナルの多くは、AIをいかに実務に取り入れるべきか、模索を続けている段階です。一部の先進的な特許事務所や企業では、すでにAIツールを積極的に導入し、業務プロセスの抜本的な再構築に着手しています。その一方で、AIの可能性に対して慎重な見方も依然として存在します。

このような状況下で、AIの実務活用を推進するにあたり、最も効果的なアプローチは何か。私は様々な検討を重ねた結果、「アメリカの特許OA対応へのAI活用」に大きな可能性を見出しました。

なぜアメリカのOA対応なのか。AIを導入することで、どのような具体的なメリットが得られるのか。検証結果はいかなるものだったのか。

本稿では、実際にアメリカにおける特許OA対応へのAI活用を検証してわかったこれらの問いに対する答えを簡単に紹介していきます。この取り組みをきっかけに、AIが切り拓く知財業界の新時代の姿を共に探求していきましょう。

アメリカの特許OA対応へのAI活用:可能性と実践

なぜアメリカのOA対応なのか

アメリカの特許OA対応がAI活用に適している理由は主に3つあります:

1.費用対効果の高さ:アメリカの代理人費用は非常に高額です。AIを活用して日本側で作業の一部を行うことで、現地代理人の負担を軽減することができれば、大幅なコスト削減が可能となります。例えば、AIを使用して下書きを作成し、現地代理人がレビューするだけで済むようなワークフローが可能になれば、大きな費用対効果が期待できます。

2.言語の壁の克服:英語で書かれたOAへの対応には通常高度な英語力が必要ですが、AIの支援により、英語が得意でない担当者でも効率的に作業を進められます。実際の検証では生成AIを使用することでほぼすべての作業を日本語で行うことができました。

3:情報の機密性の低さ:OAが発行される時点では、多くの場合、特許出願はすでに公開されています。そのため、AIツールを使用する際の情報セキュリティの懸念が比較的少ないです。また、このようなリスクが低いタスクに対するAI活用の取り組みはステークホルダーの理解が得やすく、社内や事務所内に生成AIの文化を導入する最初のプロジェクトとして適しています。

このようにアメリカの出願する特許に関するOA対応は、導入の敷居が明細書作成などの他の業務よりも低いにも関わらず、コスト削減や人材面でのポテンシャルが高いことがわかります。

検証活動の紹介

このような実務面でのメリットを踏まえ、今年の5月半ばからOA対応に関するAIの活用の検証を始め、これまでに5本の検証記事をアップしました。検証記事ではすでに公開されているアメリカの特許出願をサンプルケースとして用い、実際の業務でも行う手続きに関する生成AIの活用の可能性を模索しています。単なるコンセプトや「正解」しか書いていない記事とは異なり、様々な要素に対するAIの活用を実際のプロンプトや生成AIのアウトプットも公開しているので、読者が実際に自分の手で生成AIを簡単に試せるような仕様になっています。

今までの検証でわかったこと

検証したいことは山程あり、知見もまだまだ浅い状態ですが、その中でもアメリカのOA対応におけるAI活用についてわかったことがあります。各検証において記事で詳しくコメントしていますが、ここではその中から5つ紹介させていただきます。

1. 作業時間の短縮:生成AIを活用することによって、OA対応の下書き作成時間が大幅に短縮されました。特に、審査官による拒絶理由の内容や引用文献のOAと関連性の高い技術内容の理解、そしてクレームと引用文献の比較や分析に生成AIを使うことによって、通常よりもより効率的にOA対応の本質に関わる部分を理解・整理することができました。

2. 日本語での作業:また、生成AIを使うことによって、上記のほぼすべての作業を日本語で行うことができ、言語の壁を大きく低減できました。英語を日本語に翻訳したり、英語の文献を直接読んで理解しなくてもほとんどの作業ができたので、いままでよりもスムーズなOA対応が可能になりました。生成AIの場合、言語よりもAIにわかりやすい明確な指示や質問をしたり、そのアウトプットを評価するというスキルが大事になってくることを検証を通して学びました。

3. ハイブリッド方式の有効性:しかし、その一方で検証の結果、AIは万能ではないこともわかりました。AIは大量のデータ処理や分析、文章生成が得意なものの、法的判断や戦略的思考といった高度な意思決定は人間が行う必要があります。また、クレーム補正の提案まではAIと一緒に考えることはできたのですが、実際のクレーム補正はマニュアル作業でした。このように、AIと人間の適切な役割分担が重要で、どのようなタスクをどちらに割り当てるか、今まで以上に作業を細分化してく作業も大切なノウハウで、今後もいろいろと検証していく重要性を感じました。

4. AIの限界の認識:また、AIの出力をそのまま鵜呑みにするのではなく、担当する弁理士の専門知識を活かして批判的に検討し、必要に応じて修正を加えることの重要性も実感しています。特に、AIによる回答は一見説得力があったり、論理的に見えたりしますが、最終的には弁理士側に裁量権があり、適切な判断や補正・修正を行うことが求められます。また、最終的な成果物の責任は常に弁理士側にあるので、成果物の品質管理や評価がより重要視されていく点であることもわかりました。

5. 期待値を上げすぎない:検証記事を読んでもらえればわかると思いますが、1つのプロンプトで完璧なOA応答文が生成されるということはありません。また、生成AIのアウトプットが必ずしもベテラン弁理士のOA応答文と同等のレベルかというとそうではありません。しかし、生成AIを使って比較的効率よく拒絶理由を解消できるような応答のドラフトを作成するのは十分可能です。このようにしてできた余裕をより付加価値の高いOA対応の検討をする時間として使えれば、今までは難しかった質と量のバランスのいいOA対応ワークフローが可能になります。

まだまだ検証するべき事柄は多岐に渡りますが、実際に案件に取り組んだ経験からも日本の弁理士にとって、アメリカの特許OA対応へのAI活用は大きな可能性を秘めていると言えます。今後は、より複雑な特許出願にも挑戦し、AIの活用範囲を広げつつ、そこから得られたノウハウと経験をなるべくわかりやすく紹介していく予定ですので、今後のOLCのAI検証記事にご期待ください。

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まとめ

本稿では、知財業界におけるAI活用の可能性、特にアメリカの特許OA対応へのAI導入の利点と実践について探ってきました。AIは確かに業務効率化や言語障壁の克服など、多くのメリットをもたらします。しかし、同時にAIの限界を理解し、人間の専門知識と適切に組み合わせることの重要性も明らかになりました。我々知財プロフェッショナルは、AIを単なるツールとしてではなく、パートナーとして活用する新しいスキルを磨く必要があります。この変革期を乗り越え、AIと人間の強みを融合させることで、クライアントにより高い価値を提供し、知財業界全体の発展に貢献できるでしょう。今こそ、私たち一人一人が積極的にAIと向き合い、新時代の知財業務のあり方を模索し、実践していく時なのです。

参考情報

  • 本記事は「弁理士の日記念ブログ企画2024」の一環として作成されました。詳細はこちらをご覧ください。

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