連邦企業機密保護法(DTSA)から2年、企業機密窃取の問題はどう変わったのか
連邦企業機密保護法(DTSA)のポイントの続きです。DTSAが制定されてから約2年。S戦略ポイントとDTSAに関わる判例をいくつか見てみましょう。 戦略のポイント: DTSAは、州法による保護と共存するので、DTSAを使って連邦裁判所で訴訟を起こすのか、または、州法を使い州立裁判所で訴訟を起こすのか、両方するのか、どう企業機密に関する訴訟を展開するべきなのか戦略を考える必要があります。州立裁判所にDTSAを含む訴状を出した場合、連邦裁判所にケースが移される可能性が高く、その移転による遅れで、暫定的差し止め命令(temporary restraining order)や仮差し止め(preliminary injunction)の判断が遅れてしまう可能性があります。 それだけではなく、連邦裁判所で行える差し抑え(seizure)を望むのかも考慮する必要があります。また、連邦裁判所では回避不可能な開示原理(inevitable disclosure doctrine。詳しくは、前記連邦企業機密保護法(DTSA)のポイントを参照。 )が適用されないという点についても考慮する必要があります。また、他の法律、例えば、the Computer Fraud and Abuse Act, 18 U.S.C. §1030, et seq., や the Stored Communications Act, 18 U.S.C. §2701, et seq.が適用できる事件なのかも戦略に影響を与えます。 地裁ケース:Henry Schein, Inc. v. Cook DTSAが制定されてから、連邦裁判所は少なくとも194回DTSAを引用しました。Northern District of Californiaで争われたHenry Schein, Inc. v. Cook, 191 F. Supp.3d 1072 (N.D. Cal. 2016)は最初のDTSAが争われたケースです。 このケースでは、HSIが元従業員のCook氏が機密情報を盗んだとして、DTSA違反、カリフォルニア州営業秘密法違反、雇用契約違反でCook氏を訴えました。具体的には、HSIはCook氏が、仕事用のメールから個人のメールに、顧客に関する報告書を送信した疑いがあり、その報告書には様々な部外秘、また、企業機密に関わる情報が記載されていたと主張。また、Cook氏は、会社PCの返却を2週間も怠り、退職した後も不正にコンピューターシステムにアクセスしていたと主張。HSIはCook氏が気密データにアクセス、使用、共有することを禁止する暫定的差し止め命令(temporary restraining order、略してTRO)と、Cook氏と現在の雇用主に対する早期discovery(expedited discovery)を求めました。 地裁は、ex […]
連邦企業機密保護法(DTSA)のポイント
連邦企業機密保護法(The Defend Trade Secrets Act of 2016、略してDTSA)は2016年5月に制定されました。これまで、企業秘密に関する問題は、州法でのみ守られていて、連邦レベルにおける保護はありませんでした。今回は、DTSAの知っておきたいポイントをまとめました。 DTSAにより、企業機密所有者は「企業機密」(“trade secret” )の「横領」(“misappropriation”)を連邦裁判所で訴えることができるようになりました。 重要な定義: 「企業機密」(“trade secret” ):この「企業機密」(“trade secret” )ですが、広く定義されており、形式やタイプにかかわらず財務、ビジネス、化学、技術、経済、工学に関わる情報(“all forms and types of financial, business, scientific, technical, economic, or engineering information”)で、かつ、所有者が情報を秘密にするために合理的な方法を取っていて、その情報が経済的な恩恵をもたらし、その情報から恩恵を受けられる他者が合法な方法でその情報を知ることができないものとなっています。(if the owner “has taken reasonable measures to keep such information secret” and “the information derives independent economic value, actual or potential, from not being generally known to, […]
今後の知財管理:無駄のないスマートな特許ポートフォリオを目指す
弱い特許を比較的低コストで無効にできるIPRの登場で知財管理の考え方は大きく変わりつつあります。今までのような、大きな特許ポートフォリオは出願や維持、弁護士費用などに膨大なコストがかかり、頻繁に弱い特許で構成されています。つまり、今までの知財管理のかたちは、AIA後の新しい時代に、出願や維持に多くのリソースを費やしてしまうだけではなく、発明や新製品に対する投資を守ることができないという状況に陥っています。 このような現状の中で、無駄が多い現在の知財管理の状況に気づき、それを教訓にして無駄を省いた新しい知財管理のかたちが登場してきています。 無駄の原因: 典型的な知財管理に関連する主な無駄の原因とその影響を数値化するために、Global Prior Art, Incによるデータを見てみましょう。彼らが35年間のリサーチと15,000以上のトピックから導き出した数字は以下の通りです: 会社が保持する特許の50%以上は熟練したサーチャーによる比較的簡単な調査により無効化できる。 会社が保有する重要特許の90%以上は、一般的なレベルの調査結果を用いたIPRで無効にできる。 IPRなどのチャレンジで特許が無効にならなかったとしても、残ったクレームには商業的な価値が残っていないことがほとんど。 企業が保有する特許の4〜5%のみがIPRなどの無効チャレンジに打ち勝ち、かつ、会社にとって有益。 このような無駄の原因は、大きなコストとIPリスクを生むことになる。また、Global Prior Art, Incによると、一般的なレベルの調査を事前に行うことで、(全体の50%にもおよぶ)弱い特許を戦略的に取り除くことができると同時に、残りの出願する特許案件に対しては十分な先行文献の知識からより強いクレームが書けるようにななります。さらに、市場や競合他社の分析情報を加えることで、更にフィルタリングを行い、よりピンポイントな特許ポートフォリオができます。 費用: ここでは、$1 billionの収入があるビジネスを例にとって、典型的な知財管理をした場合の費用(コスト)について考えてみます。このような費用を算出するには、American Intellectual Property Law Association (AIPLA) が毎年発行しているReport of the Economic Surveyのような市場データを参考にするのがいいでしょう。例えば、IAM Yearbook 2016 articleによると、$1 billionの収入がある部門は、年間で100件の特許ファミリーを出願するといいます。このような規模のポートフォリオの場合、$25 million から $40 million の特許を取得するまでの費用と、$7.5 millionほどの特許を維持する費用がかかることが予測されます。そのほかにも以下のような間接的な費用が予測されます: 特許侵害訴訟やライセンス問題の弁護費用:年間$6.6 million から $13.2 million ($6.6 millionという数字は、AIPLAによる$25 million以上のリスクがある場合のSection 337による特許侵害訴訟を弁護する際の見積もり費用です。また、このシナリオでは、年間のライセンス費用が訴訟弁護費用の$6.6 millionと同じような金額になると仮定すると、訴訟とライセンスコストの合計で$13.2 millionになります。) 特許侵害の懸念から新しい製品を市場から取り下げる費用:$20 million から $50 million 無駄な開発やR&D活動のコスト: […]
クレーム解釈が必要な場合、12(b)6棄却申し立ては受理されない
Pressure Specialist, Inc. v. Next Gen Mfg., Inc., No. 17 C 6582, Slip Op. (N.D. Ill. Jan. 24, 2018) (St. Eve, J.)において、St. Eve 判事は、被告人の12(b)6棄却申し立て (Fed. R. Civ. P. 12(b)(6) motion to dismiss )を却下しました。 問題の棄却申し立てでは、原告の特許クレームにおけるペイントボールガンのガス制御が注目されました。被告人は、クレームで必須のガイドスリーブが被告のガス制御装置に含まれていることを、原告が申立書で主張しておらず、また、今後訴訟が進んでも主張できないとし、ガス制御に関わる特許クレームを訴訟から取り下げるよう裁判所に申し出ました。 しかし、裁判所は、クレーム解釈が必要な事柄でRule 12 motionを判断するのは適切ではないという判例にそって、被告人の申し立てを却下しました。 コメント: この12(b)6棄却申し立ては、訴訟が起きてすぐにファイルされたものです。この記事を見ると、クレーム解釈が必要な理由で12(b)6棄却申し立てをするのはやめた方がいいでしょう。クレーム解釈が必要な場合、原告がクレームを取り下げるか、クレーム解釈をするMarkman hearing まで待って、summary judgementで非侵害が明確なクレームを今後の手続きから除外するという対応が必要になってくると思います。 まとめ作成者:野口剛史 元記事著者:R David Donoghue. Holland & Knight LLP Claims That Require Construction are […]
陪審員の評決指示に注意
特許訴訟で陪審員による特許侵害判定が行われる場合、陪審員の評決指示に注意が必要です。特に、カウンタークレームで特許無効を主張した場合、被告側は、陪審員への評決指示の内容を当事者間で調整する際に、陪審員への指示が侵害判断で終らず、非侵害と判断されても特許の有効性を判断するような評決指示を採用するよう主張することが大切です。 Flexuspine, Inc. v. Globus Med., Inc., Case Nos. 17-1188; -1189 (Fed. Cir., Jan. 19, 2018) (Prost, CJ).において、CAFCは、地裁による特許無効の判決拒否と特許無効のカウンタークレーム却下を支持しました。 経緯: Flexuspineは、Globusが自社の5つの特許を侵害しているとして、特許侵害訴訟を起こしました。この申し立てに対抗し、Globusは、Flexuspineの特許の無効を主張し、陪審員による判断を希望しました。その後、IPRや略式判決(Summary judgement)などの結果、2つの特許のみが公判で争われることになりました。 公判の最中、両当事者とも独自の陪審員の評決指示を裁判所に提案。原告Flexuspineの評決指示案には、もし侵害に対して否定的な答えが導き出された場合、陪審員に特許の無効についての判断や賠償金の判断をさせない”stop instruction”が含まれていました。一方、被告Globusの評決指示案には、侵害に対して否定的な答えが導き出された場合でも、陪審員に特許の無効についての判断や賠償金の判断をするよう明記されていました。 判事と当事者を交えたチャージカンファレンス(charge conference)の際に、地裁はFlexuspineのstop instructionがある評決指示を採用。そのことに関して、Globusは異議を唱えませんでした。 その後、公判は進み、その結果、陪審員は侵害を認めませんでした。また、陪審員はそこでは終らず、特許が無効であることと損害賠償が$0であると回答。しかし、この回答は、採用された評決指示に沿ったものではなかったので、判事は、陪審員に与えられた評決指示通りに評決するように指示し、再度非侵害を評決しましたが、特許の無効や賠償金などに関する評決は行いませんでした。この時点で、Globusは異議を唱えました。 Globusは、陪審員の特許無効の評決を判決に含むよう、また、特許の無効の判決を下すよう裁判所に求めましたが、その申し立ては却下され、この問題はCAFCに上訴されました。 CAFCでは、地裁での判断を支持。陪審員が”stop instruction”を無視し一貫しない評決を出した場合、地裁は再度陪審員に正しい評決指示に従って評決を出すように指示できる裁量権があるとしました。 また、チャージカンファレンス(charge conference)において、地裁がFlexuspineのstop instructionがある評決指示を採用した際に、Globusが異議を唱えなかったことを指摘し、Globusは、陪審員に対して、特許無効(invalidity)という問題を積極的抗弁(affirmative defense)としてしか提示していなかった(カウンタークレームとして提示していれば、侵害・非侵害に関係なく、特許の有効性を判断するよう陪審員に指示し、stop instructionがある評決指示が採用された時点で、異議を唱えるべきであったという理由だと思われます)。 このように、陪審員への評決指示に関するやり取りで、異議を唱えなかったことで、被告のGlobusは、特許無効をカウンタークレームとして陪審員に評決してもらうチャンスを自発的に放棄した(waived)とみなされてしまいました。 教訓: 陪審員に評決書(verdict form)が手渡される前に、個別の事件で問題になっている事柄に合った評決書を提案することが大切です。もし最終的に採用される評決書に何らかの問題があった場合、その場で地裁にその不備を指摘することが大切です。その場で異議をしないと、陪審員にカウンタークレームに対して評決してもらうチャンスを自発的に放棄した(waived)とみなされてしまう可能性があります。 まとめ作成者:野口剛史 元記事著者:Sarah P. Hogarth. McDermott Will & Emery https://www.lexology.com/library/detail.aspx?g=7ec9757a-8034-4e9f-855e-3638392f3a88
[化学・製薬限定]化学系クレームの自明性テストLead Compound Analysisとは?
2000年ごろから、CAFCは、化合物の特許性を判断するためにLead Compound Analysis(主要化合物分析)というテストを適用しています。Lead Compound Analysisは、以下2つの事柄を吟味し、対象の化学系クレームが自明であるかを判断するテストです。 当業者が更なる開発のために先行例化合物を主要成分として選ぶ動機はあるのか( whether a person of ordinary skill in the art would have had reason to select a prior art compound as a “lead compound” for further development)と 当業者が、合理的な成功予測の下、その先行例化合物を変えることでクレームされた化合物を作ることができると思えるような動機はあるか?(Whether a person of ordinary skill would have been motivated to modify the lead compound to make the claimed compound with a reasonable […]
On sale barは幅広い契約に適用されるので注意
On Sale barとは、出願の1年前より以前に発明の販売 (発明が適用されたものの販売や販売のための申し出)があると、アメリカでは特許権が消滅してしまうという仕組みのことをいいます。(日本を含む多くの国では、1年の猶予期間はなく、販売と同時に権利が抹消します)。アメリカでは、2011年に制定されたAIAにより、それ以前のOn Sale barとAIA後のOn Sale barの違いが議論されたことがありましたが、以下の2つの判例を見ると、少なくとも非公開の販売に対しては、AIA以前も以後もルールは変わらないようです。 非公開の販売とは? 非公開の販売(private sale)とは、アメリカの特許法における特殊な点で、販売の内容が公知になっていないもの、または、販売自体が公知になっていないものを言います。そのような販売でも、On Sale barの対象になり、出願の1年前より以前に行われた非公開の販売(private sale)がある場合、アメリカでの特許の権利化はできなくなります。このようは販売は、公開されていないので、特許権者が自発的に情報を開示しない限り、特許庁における審査で考慮することは難しく、またそれは同時に、第三者がその特許を評価する際も、非公開の販売の事実がわからないので、正確な特許の有効性が判断できません。 判例1:Helsinn Healthcare S.A. v. Teva Pharmaceuticals USA, Inc このケースは、新しく発明された製薬の販売契約に関するものです。ここでは、出願の1年以上前の特許権者と代理店の間の契約が問題になりました。この契約の存在は、株主に対するcorporate disclosuresで開示されていたものでしたが、契約の詳細は非公開でした。この契約は、実際にの販売は出願前にはなかったものの、法律的に拘束力のある販売の申し出(offer for sale)として解釈されました。 その理由として、裁判所は、1)研究は十分進んでおり、契約した段階ですでに特許として出願できるだけの情報を持っていたこと、2)一般的に、たとえ契約書が発明を公開させるようなものでなくても、法律的に拘束力のある供給契約は特許権を消滅させること、3)2011年に制定されたAIAでは、On Sale barの基準は変わらなかったことの3つを上げました。 判例2:The Medicines Co. v. Hospira, Inc., このケースは、公開、非公開にかかわらない販売に関するものです。ここでは、Angiomaxという製薬を発明した企業The Medicines Co. (or MedCo.) と製薬販売会社ICS AmerisourceBergen Corp. (or ICS)の間の契約が問題になりました。この契約は、特許が出願される1年以上前に結ばれていました。この契約で、MedCoは、ICSに新薬Angiomaxの提供を一定の条件で行うことが明記されていました。CAFCは契約自体が発明を一般に公開するものなのか否かにかかわらず、この契約を販売の申し出(an offer for sale)だと判断。契約の条項には、料金スケジュールや両や予定に関してもある程度の記載がされていました。 この判決で、On Sale barが適用されるには、販売自体が公開されている必要がないことが明確になり、アメリカでの権利化において、どのような販売の申し出であっても、その時点ですでに特許にできるだけの情報を保持していれば、On Sale barが適用されることになります。この on saleに対する考え方は、AIA以前と変わりません。 […]
特許訴訟で雇用契約の譲渡条文に頼るのは危険

特許権者にすべての発明者から発明の譲渡がされていないと、当事者適格(Standing)が認められません。当事者適格がないと、特許侵害訴訟を起こせない(起こしても、棄却されてしまう)ので、譲渡に関する書類は早い段階で発明者に署名してもらいましょう。また、発明者が譲渡を拒む場合、会社に全ての権利が移行せず、当事者適格(Standing)を満たさない場合があるので、注意が必要です。 Advanced Video Technologies LLC v. HTC Corp., et al., Case Nos. 16-2309; -2310; -2311 (Fed. Cir., Jan. 11, 2018) (Reyna J) (O’Malley, J, concurring) (Newman, J, dissenting)では、発明者の一人が譲渡を拒否したので、会社に全ての権利が移行せず、当事者適格(Standing)を満たせませんでした。 経緯: Advanced Video社はビデオコーデックに関わる特許の侵害でHTC社を地裁で訴えました。この特許は、元々Infochips Systems社のもので、いくつかの権利譲渡を経てAdvanced Videoが特許権者となっていました。この問題の特許には、3人の発明者が記載されていました。全員Infochips Systems社の従業員だったのですが、Hsiun氏は、雇用契約で譲渡の義務があるにも関わらず、彼女が持っている権利の譲渡を拒否。 その事実を知った被告HTC社は、Hsiun氏が訴訟の当事者として関わっていないことを理由にこの訴訟は当事者適格(Standing)を満たしていないとし、訴訟の取り下げを申し出ました。 それに対して、原告Advanced Video社は、Hsiun氏の雇用契約により、Hsiun氏の権利は Infochips 社に移り、その権利は、最終的にAdvanced Videoへ移ったと主張。ここで注目されたHsiun氏との雇用契約書には、3つの関連する条文がありました。 最初の “will assign” provision (譲渡条文)と“trust” provision (委託条文)で、Hsiun氏は彼女が発明したものを書面でInfochips社に開示し、Infochips社が保管すること、また、彼女のどのような発明に対する全ての権利を将来譲渡する(would assign)ということが書かれていました。また、 “quitclaim” provision(権利放棄条文)では、Hsiun氏は特許侵害に関する彼女の権利をすべて放棄することに同意していました。 しかし、この3つの関連する条文を考慮しても、Hsiun氏の権利は Advanced Video社に移行していないと地裁は判断。また、地裁は、対象特許に所有権を持つHsiun氏が訴訟の当事者として関わっていないことを理由に、この訴訟は当事者適格(Standing)を満たしていないとし、訴訟の取り下げを申し出ました。この判決を不服に思ったAdvanced Video社はCAFCに上訴。 上訴で、CAFCは、地裁の判決を支持。“will assign” provision (譲渡条文)では、Infochips社への即時の権利譲渡は行われていなかったと解釈。CAFCは、“will”という言葉は将来に何らかの行動をする意味であり、即座に譲渡をするものではないという地裁の理由を支持。 […]
Patent Agentとのコミュニケーションは秘匿特権で守られるのか
アメリカで特許に携わる人は、大きく特許弁護士(Patent Attorney)とパテントエージェント(Patent Agent)に分かれます。Patent Agentは、特許庁による試験に合格した技術系のバックグラウンドを持つ人で、米国特許庁に対する様々な業務の代行ができます。具体的には、特許明細書の準備、権利化はもちろん、PTABによる権利化後の手続きも行えます。特許弁護士(Patent Attorney)は、Patent Agentの資格に加えて、アメリカで弁護士資格がある人のことを呼びます。 Patent Agentは、出願関係の仕事に大きく貢献していますが、Patent Agentとそのクライアントの間のコミュニケーションがUSPTOやアメリカの裁判所において、秘匿特権で守られるかという問題は長年、不透明なままでした。 しかし、近年、アメリカ特許庁とCAFCにおいて、Patent Agentのコミュニケーションに対する秘匿特権に関して進展がありました。それは、特許庁から許可されている範囲の業務に関するコミュニケーションは、弁護士と同じように秘匿特権が適用できるというものでした。In re Queen’s University at Kingston。また、特許庁からは、AIA(米国特許法改正)における手続きに関する特権の範囲を明確にするルールが発表されました。また、特許庁の発表では、外国の実務家とアメリカの実務家同士、また、外国の実務家とクライアントの秘匿特権についても秘匿特権が適用できるとしました。 このような、アメリカ特許庁とCAFCによる発表はよいことですが、まだ保護の対象ではっきりしない点も多々あります。例えば、外国の提携事務所担当者と特許出願の準備と権利化に関係ないものへの保護が欠けています。また、特許庁やCAFCでの決定に影響されない州立裁判所では、保護されない可能性があります。このように、保護の対象でまだ明らかではない部分もあるので、Patent Agentとのコミュニケーションには注意が必要です。 例えば、特許庁は、外国実務家はアメリカ特許弁護士と同等の特権が与えられると示しましたが、連邦・州立裁判所では、外国実務家とのコミュニケーションに秘匿特権が適用されるかに対して何も言及していません。極端な例を上げると、PTABにおける手続きでは外国実務家とクライアントの間のコミュニケーションに秘匿特権が適用されますが、他の国や、連邦・州立裁判所では、同じコミュニケーションでも秘匿特権で保護されない可能性があります。 しかし、Patent Agentの秘匿特権で一番大きな問題は、特許庁から許可されている範囲の業務に関するコミュニケーションの範囲を超えてしまった場合です。特許庁のルールでは、Patent Agentの秘匿特権は、Patent Agentとして許されている業務に関わる範囲(“reasonably necessary and incident to the scope of the practitioner’s authority”)のコミュニケーションにしか適用されないとされています。また、In re Queens におけるCAFCの判決では、Patent Agentの特権は限定的で、訴訟を見据えた他社特許の有効性に関する鑑定や、特許の売買の際の分析、侵害に関する分析などには、Patent Agentの秘匿特権は適用されないとしました。このようなコミュニケーションが秘匿特権の対象外になった理由は、Patent Agentとして許されている出願業務に関わる範囲を超えてると判断されたためです。 ほとんどのPatent Agentは、自分の立場や提供できるサービスの範囲を心得ています。しかし、そのようなPatent Agentを部下として持つ(特許)弁護士は、Patent Agentの仕事やコミュニケーションがPatent Agentの秘匿特権の内に収まるものであることを随時確認する必要があります。もし、Patent Agentの秘匿特権の範囲に収まらない仕事をさせる場合、特許弁護士の指示でPatent Agentが作業を行い、特許弁護士がその作業のチェックや最終的な作業の責任を負い、クライアントとの連絡を特許弁護士が行うことで、特許弁護士の秘匿特権(attorney-client privilege)がPatent Agentの仕事に関して適用されます。 Patent Agentは、ほとんどの場合、特許明細書に関わる内容に限り、クライアントとのコミュニケーションが許されています。その他の内容に関わるものは、上司の特許弁護士経由でクライアントに連絡が行きます。このようにしておけば、ここで紹介したルールも満たすので、秘匿特権をフルに活用できます。 Patent Agentは、人件費が特許弁護士よりも安かったり、技術に長けていたり、元発明者だったりと、明細書を作成してもらうクライアント側としては、Patent Agentを使うメリットも大きいのは確かです。しかし、Patent Agentの業務範囲をよく理解し、Patent Agentの業務範囲を超えるものは、特許弁護士に問い合わせをするなどの使い分けが大切になってきます。 […]