[化学・製薬限定]化学系クレームの自明性テストLead Compound Analysisとは?

2000年ごろから、CAFCは、化合物の特許性を判断するためにLead Compound Analysis(主要化合物分析)というテストを適用しています。Lead Compound Analysisは、以下2つの事柄を吟味し、対象の化学系クレームが自明であるかを判断するテストです。

  1. 当業者が更なる開発のために先行例化合物を主要成分として選ぶ動機はあるのか( whether a person of ordinary skill in the art would have had reason to select a prior art compound as a “lead compound” for further development)と
  2. 当業者が、合理的な成功予測の下、その先行例化合物を変えることでクレームされた化合物を作ることができると思えるような動機はあるか?(Whether a person of ordinary skill would have been motivated to modify the lead compound to make the claimed compound with a reasonable expectation of success.)

Lead Compound Analysisが使われた場合、自明性を証明するには、この2点を満たす必要があります。

このテスト、特に1つ目の条件に関して、化学系クレームの自明性を証明するのに注目すべき特徴があります。

“lead compound” (主要化合物)とは何か?:

まず、“lead compound” (主要化合物)とは何か?また、どのように選ばれるのかを見ていきます。化合物が“lead compound” (主要化合物)として特定されるには、1)製薬開発の流れにおける自然な選択の場合(if it is a natural choice for drug development )、または、効果を向上させるうえで最も期待できる化合物(if it is “most promising” to improve its activity)である必要があります。これは、化合物の特性や入手のしやすさ、他の既知化合物の特性などの事実に基いて案件ごとに判断されます。特性の例を上げると、化合物の活動、安定性、副作用といったものです。

注意したい点:

上記のテストで、「効果を向上させるうえで最も期待できる化合物(if it is “most promising” to improve its activity)」と書いてありますが、この「最も期待できる」(“most promising”)という標記は、必ずしも1つの最も期待できる製薬候補(the single most promising drug candidate)である必要はありません。そうではなく、自明性に関する問題に限っては、複数の化合物が“lead compound” (主要化合物)として考慮される場合もあります。

この複数の化合物が“lead compound” (主要化合物)として考慮される例が、Pharmaceutical, Inc. et al. v. Novartis AG, IPR2016-00084 (PTAB Jan. 11, 2018)です。

経緯:

PTABにおいて、U.S. Patent No. 5,665,772 (the ‘772 patent)のclaims 1-3 と 8-10が自明という判決がなされました。その中で、クレーム10で示されているeverolimusに関して、当業者が先行例のrapamycinという化合物を“lead compound” (主要化合物)として選ぶことで、rapamycinの派生化合物であるeverolimusにたどり着くであろうという主張がなされました。

特許権者であるNovartisは、1)中毒性のある免疫抑制剤 (immunosuppressant)として知られていること、2)他の免疫抑制剤 (immunosuppressant)も効果があることは報告されていて、大きな副作用もないことから、rapamycinを“lead compound” (主要化合物)として選ぶのは適切ではないと主張。それに対して、特許無効を狙うPharmaceuticalは、rapamycinは、他の代替化合物よりも潜在力が高かったことを主張。また、Pharmaceuticalは、この対象特許が出願された時期、研究者は、すでにrapamycinを候補をして製薬開発を進めていたと主張しました。

PTABは最終的に、他の免疫抑制剤は独自の弱点があったので、中毒性の問題によって、rapamycinが“lead compound” (主要化合物)としての候補から外れることはないとしました。PTABは、当業者である研究者は、このような個々の弱点を考慮し、免疫抑制剤を向上する化合物としてrapamycinを選び、開発を行なっていただろうと判決。

ここで注目したい点は、PTABが他の代替化合物が“lead compound” (主要化合物)となっていた可能性を排除していない点である。つまり、他の代替化合物を“lead compound” (主要化合物)として選び、開発が行われている可能性があっても、「最も期待できる」( “most promising”)として先行例化合物による自明性が問えることになります。

このテストは、生み出されたCAFCだけでなく、PTABでも採用し始めたので、化学・製薬系の特許の権利化と権利行使に関わる仕事に携わる人は必見です。

教訓:

特許の無効を狙うチャレンジャーは、自分が選んだlead compoundを弁護する必要があります。一方、特許権者は、少なくとも、Lead Compound Analysisによる自明性のチャレンジにおいて、証明が必要になる2点を相手方は満たしていないと主張する必要があります。

まとめ作成者:野口剛史

元記事著者:Malissa C. Eng. Fredrikson & Byron PA

https://www.fredlaw.com/news__media/2018/03/06/1825/selecting_a_lead_compound_a_balancing_act_in_the_chemical_obviousness_inquiry

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