弱い特許を比較的低コストで無効にできるIPRの登場で知財管理の考え方は大きく変わりつつあります。今までのような、大きな特許ポートフォリオは出願や維持、弁護士費用などに膨大なコストがかかり、頻繁に弱い特許で構成されています。つまり、今までの知財管理のかたちは、AIA後の新しい時代に、出願や維持に多くのリソースを費やしてしまうだけではなく、発明や新製品に対する投資を守ることができないという状況に陥っています。
このような現状の中で、無駄が多い現在の知財管理の状況に気づき、それを教訓にして無駄を省いた新しい知財管理のかたちが登場してきています。
無駄の原因:
典型的な知財管理に関連する主な無駄の原因とその影響を数値化するために、Global Prior Art, Incによるデータを見てみましょう。彼らが35年間のリサーチと15,000以上のトピックから導き出した数字は以下の通りです:
- 会社が保持する特許の50%以上は熟練したサーチャーによる比較的簡単な調査により無効化できる。
- 会社が保有する重要特許の90%以上は、一般的なレベルの調査結果を用いたIPRで無効にできる。
- IPRなどのチャレンジで特許が無効にならなかったとしても、残ったクレームには商業的な価値が残っていないことがほとんど。
- 企業が保有する特許の4〜5%のみがIPRなどの無効チャレンジに打ち勝ち、かつ、会社にとって有益。
このような無駄の原因は、大きなコストとIPリスクを生むことになる。また、Global Prior Art, Incによると、一般的なレベルの調査を事前に行うことで、(全体の50%にもおよぶ)弱い特許を戦略的に取り除くことができると同時に、残りの出願する特許案件に対しては十分な先行文献の知識からより強いクレームが書けるようにななります。さらに、市場や競合他社の分析情報を加えることで、更にフィルタリングを行い、よりピンポイントな特許ポートフォリオができます。
費用:
ここでは、$1 billionの収入があるビジネスを例にとって、典型的な知財管理をした場合の費用(コスト)について考えてみます。このような費用を算出するには、American Intellectual Property Law Association (AIPLA) が毎年発行しているReport of the Economic Surveyのような市場データを参考にするのがいいでしょう。例えば、IAM Yearbook 2016 articleによると、$1 billionの収入がある部門は、年間で100件の特許ファミリーを出願するといいます。このような規模のポートフォリオの場合、$25 million から $40 million の特許を取得するまでの費用と、$7.5 millionほどの特許を維持する費用がかかることが予測されます。そのほかにも以下のような間接的な費用が予測されます:
- 特許侵害訴訟やライセンス問題の弁護費用:年間$6.6 million から $13.2 million ($6.6 millionという数字は、AIPLAによる$25 million以上のリスクがある場合のSection 337による特許侵害訴訟を弁護する際の見積もり費用です。また、このシナリオでは、年間のライセンス費用が訴訟弁護費用の$6.6 millionと同じような金額になると仮定すると、訴訟とライセンスコストの合計で$13.2 millionになります。)
- 特許侵害の懸念から新しい製品を市場から取り下げる費用:$20 million から $50 million
- 無駄な開発やR&D活動のコスト: R&D費用の10%、または、 $10 million
- 乏しい特許とIPリスク、または、無駄の合計費用:$36.6 million から $73.2 million
このような金額が示すことは、無駄のないスマートな特許ポートフォリオを目指すことは、単に出願や維持にかかる費用を節約するだけでなく、訴訟やR&Dなど間接的なコストセービングにも貢献することができるということです。このように、戦略的に忠実に知財管理をすることで、弱い特許をなくし、強い特許を生み出すことができ、訴訟リスクを減らすことができ、それは最終的に会社の利益に貢献することになります。
まとめ作成者:野口剛史
元記事著者:Bruce Rubinger. Global Prior Art Inc
http://www.iam-media.com/industryreports/detail.aspx?g=15a4d4c9-d57e-4de2-bbfa-8b2a99541f54