アメリカで特許に携わる人は、大きく特許弁護士(Patent Attorney)とパテントエージェント(Patent Agent)に分かれます。Patent Agentは、特許庁による試験に合格した技術系のバックグラウンドを持つ人で、米国特許庁に対する様々な業務の代行ができます。具体的には、特許明細書の準備、権利化はもちろん、PTABによる権利化後の手続きも行えます。特許弁護士(Patent Attorney)は、Patent Agentの資格に加えて、アメリカで弁護士資格がある人のことを呼びます。
Patent Agentは、出願関係の仕事に大きく貢献していますが、Patent Agentとそのクライアントの間のコミュニケーションがUSPTOやアメリカの裁判所において、秘匿特権で守られるかという問題は長年、不透明なままでした。
しかし、近年、アメリカ特許庁とCAFCにおいて、Patent Agentのコミュニケーションに対する秘匿特権に関して進展がありました。それは、特許庁から許可されている範囲の業務に関するコミュニケーションは、弁護士と同じように秘匿特権が適用できるというものでした。In re Queen’s University at Kingston。また、特許庁からは、AIA(米国特許法改正)における手続きに関する特権の範囲を明確にするルールが発表されました。また、特許庁の発表では、外国の実務家とアメリカの実務家同士、また、外国の実務家とクライアントの秘匿特権についても秘匿特権が適用できるとしました。
このような、アメリカ特許庁とCAFCによる発表はよいことですが、まだ保護の対象ではっきりしない点も多々あります。例えば、外国の提携事務所担当者と特許出願の準備と権利化に関係ないものへの保護が欠けています。また、特許庁やCAFCでの決定に影響されない州立裁判所では、保護されない可能性があります。このように、保護の対象でまだ明らかではない部分もあるので、Patent Agentとのコミュニケーションには注意が必要です。
例えば、特許庁は、外国実務家はアメリカ特許弁護士と同等の特権が与えられると示しましたが、連邦・州立裁判所では、外国実務家とのコミュニケーションに秘匿特権が適用されるかに対して何も言及していません。極端な例を上げると、PTABにおける手続きでは外国実務家とクライアントの間のコミュニケーションに秘匿特権が適用されますが、他の国や、連邦・州立裁判所では、同じコミュニケーションでも秘匿特権で保護されない可能性があります。
しかし、Patent Agentの秘匿特権で一番大きな問題は、特許庁から許可されている範囲の業務に関するコミュニケーションの範囲を超えてしまった場合です。特許庁のルールでは、Patent Agentの秘匿特権は、Patent Agentとして許されている業務に関わる範囲(“reasonably necessary and incident to the scope of the practitioner’s authority”)のコミュニケーションにしか適用されないとされています。また、In re Queens におけるCAFCの判決では、Patent Agentの特権は限定的で、訴訟を見据えた他社特許の有効性に関する鑑定や、特許の売買の際の分析、侵害に関する分析などには、Patent Agentの秘匿特権は適用されないとしました。このようなコミュニケーションが秘匿特権の対象外になった理由は、Patent Agentとして許されている出願業務に関わる範囲を超えてると判断されたためです。
ほとんどのPatent Agentは、自分の立場や提供できるサービスの範囲を心得ています。しかし、そのようなPatent Agentを部下として持つ(特許)弁護士は、Patent Agentの仕事やコミュニケーションがPatent Agentの秘匿特権の内に収まるものであることを随時確認する必要があります。もし、Patent Agentの秘匿特権の範囲に収まらない仕事をさせる場合、特許弁護士の指示でPatent Agentが作業を行い、特許弁護士がその作業のチェックや最終的な作業の責任を負い、クライアントとの連絡を特許弁護士が行うことで、特許弁護士の秘匿特権(attorney-client privilege)がPatent Agentの仕事に関して適用されます。
Patent Agentは、ほとんどの場合、特許明細書に関わる内容に限り、クライアントとのコミュニケーションが許されています。その他の内容に関わるものは、上司の特許弁護士経由でクライアントに連絡が行きます。このようにしておけば、ここで紹介したルールも満たすので、秘匿特権をフルに活用できます。
Patent Agentは、人件費が特許弁護士よりも安かったり、技術に長けていたり、元発明者だったりと、明細書を作成してもらうクライアント側としては、Patent Agentを使うメリットも大きいのは確かです。しかし、Patent Agentの業務範囲をよく理解し、Patent Agentの業務範囲を超えるものは、特許弁護士に問い合わせをするなどの使い分けが大切になってきます。
使い分けがしっかりできないと、訴訟の際に相手に手渡したくないコミュニケーションもdiscoveryで相手に渡ってしまう可能性があります。
また、これは、Patent Agentに限らず、特許弁護士にも当てはまるのですが、文章に残しておくと後々、discoveryで相手にその文章が渡ってしまう可能性があります。秘匿特権は、絶対的なものではなく、場合によっては、自ら放棄したり、放棄されたとみなされる可能性もあるので、文章に残すのではなく、電話など口頭のみでクライアントとコミュニケーションを取るという方法も常に検討しながら、日々のコミュニケーションを行なっていく必要があります。
まとめ作成者:野口剛史
元記事著者:Christopher M. Hall. Womble Bond Dickinson (US) LLP
http://siliconvalleypatent.blogspot.co.uk/2018/03/what-patent-attorneys-patent-agents-and.html