連邦企業機密保護法(DTSA)のポイント

連邦企業機密保護法(The Defend Trade Secrets Act of 2016、略してDTSA)は2016年5月に制定されました。これまで、企業秘密に関する問題は、州法でのみ守られていて、連邦レベルにおける保護はありませんでした。今回は、DTSAの知っておきたいポイントをまとめました。

DTSAにより、企業機密所有者は「企業機密」(“trade secret” )の「横領」(“misappropriation”)を連邦裁判所で訴えることができるようになりました。

重要な定義:

「企業機密」(“trade secret” ):この「企業機密」(“trade secret” )ですが、広く定義されており、形式やタイプにかかわらず財務、ビジネス、化学、技術、経済、工学に関わる情報(“all forms and types of financial, business, scientific, technical, economic, or engineering information”)で、かつ、所有者が情報を秘密にするために合理的な方法を取っていて、その情報が経済的な恩恵をもたらし、その情報から恩恵を受けられる他者が合法な方法でその情報を知ることができないものとなっています。(if the owner “has taken reasonable measures to keep such information secret” and “the information derives independent economic value, actual or potential, from not being generally known to, and not being readily ascertainable through proper means by, another person who can obtain economic value from the disclosure or use of the information.)

「横領」(“misappropriation”):また、 「横領」(“misappropriation”)は、不適切な方法で企業機密が得られたことを知りつつ(または、知っているべき)その情報を取得した人の行為、または、不適切な方法で企業機密を取得し、その企業機密を開示・使用した人の行為や、どのように企業機密が取得されたか特定の知識を持っている人の行為などが対象になります。(the trade secret’s acquisition by a person who knows, or has reason to know, that the trade secret was acquired by “improper means,” or the trade secret’s disclosure or use by a person who used improper means to acquire the trade secret or possessed certain specified knowledge as to how the trade secret was acquired. )

「不正な方法」(”Improper means” ):不適切な方法は、窃盗、賄賂、詐称、機密義務の違反やその誘引、スパイ行為も含まれます(“theft, bribery, misrepresentation, breach or inducement of a breach of a duty to maintain secrecy, or espionage through electronic or other means”)。しかし、リバース・エンジニアリング、独自開発、他の合法的な情報の取得などは、不正な行為の範囲外です。

ポイント:

DTSAで注目すべき点は、連邦裁判所が企業機密が漏れ広まることを防ぐために必要な資産の差し押さえを命令できることです。この差し押さえ命令ですが、緊急を要する特殊なケースの場合、被告人側の主張などを待たずex parteで行えることがあります。

また、回避不可能な開示原理(inevitable disclosure doctrine )はDTSAでは有効ではありません。回避不可能な開示原理(inevitable disclosure doctrine )とは、機密情報の横領の疑いが欠けられている被告人が雇用されることを止めるものです。しかし、実際に機密情報の横領が懸念される場合は、裁判所は雇用に制限をかけることもありますが、単に機密情報の横領の疑いが欠けられているだけでは、裁判所が雇用に制限をかけることはありません。

最後に、DTSAは、内部告発に関する保護が明記されており、例え告発内容に機密情報があったとしても、告発者は保護されます。

DTSAは、州法における機密情報保護に取って代わるものではなく、共存する形で存在するので、場合によっては、企業機密に関する訴訟が州裁判所、連邦裁判所の両方で行われることもあります。

まとめ作成者:野口剛史

元記事著者:Edwin F. Chociey, Jr. and Thomas M. Kenny. Riker Danzig Scherer Hyland & Perretti LLP

http://riker.com/publications/the-defend-trade-secrets-act-of-2016-an-overview-and-analysis-of-the-statute-establishing-a-federal-civil-cause-of-action-for-trade-secret-misappropriation-and-notable-case-law-to-date

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