On Sale barとは、出願の1年前より以前に発明の販売 (発明が適用されたものの販売や販売のための申し出)があると、アメリカでは特許権が消滅してしまうという仕組みのことをいいます。(日本を含む多くの国では、1年の猶予期間はなく、販売と同時に権利が抹消します)。アメリカでは、2011年に制定されたAIAにより、それ以前のOn Sale barとAIA後のOn Sale barの違いが議論されたことがありましたが、以下の2つの判例を見ると、少なくとも非公開の販売に対しては、AIA以前も以後もルールは変わらないようです。
非公開の販売とは?
非公開の販売(private sale)とは、アメリカの特許法における特殊な点で、販売の内容が公知になっていないもの、または、販売自体が公知になっていないものを言います。そのような販売でも、On Sale barの対象になり、出願の1年前より以前に行われた非公開の販売(private sale)がある場合、アメリカでの特許の権利化はできなくなります。このようは販売は、公開されていないので、特許権者が自発的に情報を開示しない限り、特許庁における審査で考慮することは難しく、またそれは同時に、第三者がその特許を評価する際も、非公開の販売の事実がわからないので、正確な特許の有効性が判断できません。
判例1:Helsinn Healthcare S.A. v. Teva Pharmaceuticals USA, Inc
このケースは、新しく発明された製薬の販売契約に関するものです。ここでは、出願の1年以上前の特許権者と代理店の間の契約が問題になりました。この契約の存在は、株主に対するcorporate disclosuresで開示されていたものでしたが、契約の詳細は非公開でした。この契約は、実際にの販売は出願前にはなかったものの、法律的に拘束力のある販売の申し出(offer for sale)として解釈されました。
その理由として、裁判所は、1)研究は十分進んでおり、契約した段階ですでに特許として出願できるだけの情報を持っていたこと、2)一般的に、たとえ契約書が発明を公開させるようなものでなくても、法律的に拘束力のある供給契約は特許権を消滅させること、3)2011年に制定されたAIAでは、On Sale barの基準は変わらなかったことの3つを上げました。
判例2:The Medicines Co. v. Hospira, Inc.,
このケースは、公開、非公開にかかわらない販売に関するものです。ここでは、Angiomaxという製薬を発明した企業The Medicines Co. (or MedCo.) と製薬販売会社ICS AmerisourceBergen Corp. (or ICS)の間の契約が問題になりました。この契約は、特許が出願される1年以上前に結ばれていました。この契約で、MedCoは、ICSに新薬Angiomaxの提供を一定の条件で行うことが明記されていました。CAFCは契約自体が発明を一般に公開するものなのか否かにかかわらず、この契約を販売の申し出(an offer for sale)だと判断。契約の条項には、料金スケジュールや両や予定に関してもある程度の記載がされていました。
この判決で、On Sale barが適用されるには、販売自体が公開されている必要がないことが明確になり、アメリカでの権利化において、どのような販売の申し出であっても、その時点ですでに特許にできるだけの情報を保持していれば、On Sale barが適用されることになります。この on saleに対する考え方は、AIA以前と変わりません。
しかし、例外もあり、例えば、委託製造業者(contract manufacturing)など、権利が他者に移行しない場合、On Sale barは適用されません。MedCo.判例を参照。
教訓:
日本のように販売により、特許の権利が抹消されてしまう国では、販売に関して敏感なところも多いと思います。しかし、アメリカでは1年間の猶予期間があるものの、非公開の販売(private sale)でもOn sale barの対象になってしまうので、この非公開の販売にも対応した会社全体での取り組みが必要だと思います。
まとめ作成者:野口剛史
元記事著者:Nicholas J. Landau and Jake Neu. Bradley Arant Boult Cummings LLP
https://www.bradley.com/insights/publications/2018/03/can-i-sell-my-invention-the-courts-confirm-on-sale-bar-to-patenting