特許訴訟で陪審員による特許侵害判定が行われる場合、陪審員の評決指示に注意が必要です。特に、カウンタークレームで特許無効を主張した場合、被告側は、陪審員への評決指示の内容を当事者間で調整する際に、陪審員への指示が侵害判断で終らず、非侵害と判断されても特許の有効性を判断するような評決指示を採用するよう主張することが大切です。
Flexuspine, Inc. v. Globus Med., Inc., Case Nos. 17-1188; -1189 (Fed. Cir., Jan. 19, 2018) (Prost, CJ).において、CAFCは、地裁による特許無効の判決拒否と特許無効のカウンタークレーム却下を支持しました。
経緯:
Flexuspineは、Globusが自社の5つの特許を侵害しているとして、特許侵害訴訟を起こしました。この申し立てに対抗し、Globusは、Flexuspineの特許の無効を主張し、陪審員による判断を希望しました。その後、IPRや略式判決(Summary judgement)などの結果、2つの特許のみが公判で争われることになりました。
公判の最中、両当事者とも独自の陪審員の評決指示を裁判所に提案。原告Flexuspineの評決指示案には、もし侵害に対して否定的な答えが導き出された場合、陪審員に特許の無効についての判断や賠償金の判断をさせない”stop instruction”が含まれていました。一方、被告Globusの評決指示案には、侵害に対して否定的な答えが導き出された場合でも、陪審員に特許の無効についての判断や賠償金の判断をするよう明記されていました。
判事と当事者を交えたチャージカンファレンス(charge conference)の際に、地裁はFlexuspineのstop instructionがある評決指示を採用。そのことに関して、Globusは異議を唱えませんでした。
その後、公判は進み、その結果、陪審員は侵害を認めませんでした。また、陪審員はそこでは終らず、特許が無効であることと損害賠償が$0であると回答。しかし、この回答は、採用された評決指示に沿ったものではなかったので、判事は、陪審員に与えられた評決指示通りに評決するように指示し、再度非侵害を評決しましたが、特許の無効や賠償金などに関する評決は行いませんでした。この時点で、Globusは異議を唱えました。
Globusは、陪審員の特許無効の評決を判決に含むよう、また、特許の無効の判決を下すよう裁判所に求めましたが、その申し立ては却下され、この問題はCAFCに上訴されました。
CAFCでは、地裁での判断を支持。陪審員が”stop instruction”を無視し一貫しない評決を出した場合、地裁は再度陪審員に正しい評決指示に従って評決を出すように指示できる裁量権があるとしました。
また、チャージカンファレンス(charge conference)において、地裁がFlexuspineのstop instructionがある評決指示を採用した際に、Globusが異議を唱えなかったことを指摘し、Globusは、陪審員に対して、特許無効(invalidity)という問題を積極的抗弁(affirmative defense)としてしか提示していなかった(カウンタークレームとして提示していれば、侵害・非侵害に関係なく、特許の有効性を判断するよう陪審員に指示し、stop instructionがある評決指示が採用された時点で、異議を唱えるべきであったという理由だと思われます)。
このように、陪審員への評決指示に関するやり取りで、異議を唱えなかったことで、被告のGlobusは、特許無効をカウンタークレームとして陪審員に評決してもらうチャンスを自発的に放棄した(waived)とみなされてしまいました。
教訓:
陪審員に評決書(verdict form)が手渡される前に、個別の事件で問題になっている事柄に合った評決書を提案することが大切です。もし最終的に採用される評決書に何らかの問題があった場合、その場で地裁にその不備を指摘することが大切です。その場で異議をしないと、陪審員にカウンタークレームに対して評決してもらうチャンスを自発的に放棄した(waived)とみなされてしまう可能性があります。
まとめ作成者:野口剛史
元記事著者:Sarah P. Hogarth. McDermott Will & Emery
https://www.lexology.com/library/detail.aspx?g=7ec9757a-8034-4e9f-855e-3638392f3a88