省庁によるSEPに関わるFRANDライセンスの政策の廃止で見えてくる今後の課題

2022年6月8日、司法省、USPTO、米国標準技術局(NIST)(以下、省庁)は、FRANDライセンスに関する新しい声明(2022声明)を発表し、特許権者に利益をもたらすべき標準必須特許(SEPs)に関する一定の方針を示さないことを明らかにしました。

この声明を発表し、2021年ドラフトポリシー(2021 Draft Policy)の採択を拒否する(関連記事)ことで、省庁はSEPライセンシングに関する方針を事実上無力化し、SEPライセンシングの議論において当事者に対して何の指針も提供しないという方向転換を行いました。

しかし、明確なガイダンスはないものの、省庁はFRANDライセンス交渉を監視し、案件によっては訴訟という形で介入する権利を留保しており、FRANDライセンスの交渉において、当事者の担当者はどのような行為や規約が省庁の怒りを買い介入されるかがわからない状態で、交渉を行う必要があります。

今回の2022年声明の主な収穫の1つは、省庁が、意図的に知的財産ライセンシングの論争的で極端なポジショニングを避け、中立を保ちたいと考えているようであることです。バイデン政権は、SEPイノベーターよりもSEP実施者を優遇する2021年政策草案を採用することが広く予想されていました。

しかし、2019年の「自主的なF/RANDコミットメントの対象となるSEPの救済に関する政策声明」(2019声明)(関連記事)の代替方針を掲げることは同時に、SEPイノベーターかSEP実施者のどちらかに有利な政策方針を掲げるということなので、何の代替もなく捨てたことは、このような政策による方針は、方針の内容によって、SEPイノベーターかSEP実施者のどちらかの怒りや不満を覚えることを当局が認識したということなのでしょう。

SEPの差止請求の可能性について意見を述べない当局

2013年、司法省とUSPTOは、SEPライセンス交渉に向けた三部作の最初の方針(2013 Policy)を発表しました。最初のポリシーには、排除命令を含む差止命令による救済は、「公共の利益と相反する可能性がある」という記載を理由にSEP保有者が利用できないと考える人が多数派でした。しかし、2019年、このことがもたらす冷え込みに対応するため、これらの機関は最初のポリシーを撤回し、(NISTとともに)SEP保有者が不本意なライセンシーに対して差し止めによる救済を受けられるべきとの見解を示す新しいポリシーを発行しました。しかし、2021年に省庁は2021年ドラフトポリシーを発表し、再び差止命令による救済を推奨せず、SEP交渉と関連訴訟に不確実な未来をもたらしていました。

2022年声明によれば、2019年政策を代替なしに撤回することは、「標準化エコシステムにおける競争とイノベーションの両方を促進するための最良の行動」であると述べています。これは、洗練された当事者が独自のSEPライセンスを交渉し、その交渉がうまくいかなかったときにあらゆる形の救済を追求することを認めるという、当局の明確なシフトを示唆しています。さらに、政権が変われば、SEPライセンスに関するガイダンスが常に変化する可能性があることを認識していることを示唆しているでしょう。

司法省は依然としてケースバイケースで介入してくる可能性がある

司法省による正式な方針が削除されたにもかかわらず、司法省は、FRAND交渉に関与する当事者による反競争的行為をケースバイケースで検討し起訴することを表明しています。

DOJの反トラスト部門の検事総長補佐は、2022年声明において、「反トラスト部門は、法律に違反して競争を阻害する恐れのあるあらゆる市場関係者による行為を、特に中小企業や高度に集中した市場に不相応に影響を与える乱用行為に重点を置いて慎重に精査している。」と述べています。また、2022年声明では、「バイデン大統領の大統領令に基づき、各省庁は、競争、標準開発、知的財産権の交差点に影響を与える事柄について、適宜、協力を継続する予定である」と記しており、省庁のSEP政策に関する話し合いは終わっていないことを示唆していると思われます。そのため、司法省がこの新しい方向性をどのように適用するのか、見守る必要があります。

結論

省庁によるFRANDライセンスに関する政策の方針は二転三転し、政権が変わるたびに変更されるなどの経緯があり、とても不安定なものでした。そのため、今回の政策を「白紙」に戻した表明はよかったのかもしれません。ただ、今後の政権次第では別のポリシーが掲げられる可能性もあるので注意が必要です。

また、省庁による明確な声明がなくなったことにより、FRANDライセンスにおけるガイドも失ったことになります。そのため、FRANDライセンスの当事者は、それぞれの管轄地の契約法、連邦反トラスト法、また、各国のFRANDライセンスの取り扱いや判例などを考慮し、交渉に望む必要があります。これらの情報には矛盾があったり、グレーゾーンが多いなどの問題がありますが、FRANDライセンスは世界規模の問題なので、主要法律の理解と世界情勢の把握は、交渉を成功させるためには不可欠な事前作業です。

さらに、今回の省庁の動きを見て、規格開発機関(SDOs)や規格設定機関(SSOs)が、その関連規格へのコミットメントに関わる交渉を管理するためのポリシーを公布する可能性もあります。国による明確な政策がない状態では混乱が生じる可能性もあるので、機関レベルでのポリシーや方針を明確にすることによってある程度のガイダンスを提供するという動きも十分考えられます。

しかし、個別案件で見ると、民間の当事者が、それぞれの交渉の席で、何が誠意ある競争促進的な行為となるかを判断することになるので、手探りな作業になると思われますが、それぞれの交渉の場で、最善の手を尽くすことが求められます。

参考文献:DOJ Breaking with Big Tech Approach to SEPs

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