すべてがつながっていくこの時代、標準規格と関連するSEP特許 (Standard Essential Patent)の取り扱いには一貫した方針が求められます。しかし、アメリカでは政権交代によって省庁の方針が変わることが珍しくなく、米司法省(Department of Justice. DOJ)反トラスト局のSEPに対する方針も同様です。
米司法省反トラスト局は実装者寄りに
2021年4月、米司法省反トラスト局は、2020年版サプリメントで示したSEP保持者有利な方針を正式なガイダンスから単なる「アドボカシー」に格下げ。これにより、2020年版サプリメントで効力がなくなっていた2015年BRL(Business Review Letter)が再び権威として引用される可能性があります。
2015年BRLは、SEP保有者が利用できる法的手段を制限することを支持する内容なので、実質、米司法省反トラスト局は実装者に有利な見解を示したと言ってもいいでしょう。
トランプ政権下とは真逆
2016年にトランプ政権になり、その前の政権下での方針である2015年BRLを訂正する形で、2020年版サプリメントが発行されていました。
しかし、2021年の政権交代でバイデン政権になり、トランプ政権下で発表されたSEP保持者有利な方針である2020年版サプリメントが格下げ。
このように、アメリカでは政権の交代により米司法省反トラスト局のSEPに対する方針が頻繁に変わっています。
SEP保有者による差し止めが困難に
2020年版サプリメントは、SEP保有者が差止命令による救済を求めたり、合理的なロイヤルティ率を交渉したりする権利を制限することを支持しないことを明確にしました。
しかし、今回の2020年版サプリメントの格下げを受け、米司法省反トラスト局の方針は2015年BRLにおける方針に戻ったと考えることができます。
そうすると、SEP保持者による差し止め等が困難な環境になることが想定できます。
政権交代による方針の変更は不透明さにつながる
SEP保有者と実装者のパワーバランスには正解はありません。しかし、規制する行政がどこに線を引くかを明確にし、一貫した方針を取ることができれば、業界での規格統一やその中での取り決めもスムーズにいきます。
しかし、今回のようにDOJの方針が短期間で変わるとさまざまな規格団体のSEPに関わるライセンスポリシーの有効性が疑問視されることにもなりかねず、業界で混乱を招く恐れがあります。