特許デマンドレター規制法案

2018年7月13日、Michael Burgess議員 (R-Tex.), Chairman of the House Energy and Commerce Committee’s Subcommittee on Healthが、特許デマンドレターを規制する法案(the Targeting Rogue and Opaque Letters (“TROL”) Act (H.R. 6370))を提出しました。2015年にもTROL Actの法案は提案されまいたが、審議までには至りませんでした。

法案の概要

この新しいTROL Actでは、悪質な特許関連のデマンドレターに対する規制を設けています。簡単に言うと、このTROL Actが成立すれば、米国連邦取引委員会(Federal Trade Commission (FTC))が悪質な特許デマンドレターを送っている組織に対して訴訟を起こすことができるようになります。また、成立すれば、TROL Actは、州レベルでの特許デマンドレターに対する規制に取って代わるものになり、混乱を招く州ごとの規制をなくし、連邦レベルでの取締が行われます。訴訟を起こせるのは、FTCだけで、個人や企業がTROL Actの下、訴訟を起こすことはできません。しかし、州検事はFTCに代わり訴訟を起こすこともできます。

禁止事項

このTROL Actでは、アメリカ特許に関する悪意のある(“bad faith”)コミュニケーションを違法とします。法案では、 “bad faith” は、間違いであることを知りつつ、ウソの情報や誤解する内容を知らせるということと提議されています。特に、法案では、以下の行為について、悪意のある行為(つまり、間違えと知りつつ、以下のような表明をする)を禁止しています:

  • The sender is a person with the right to license or enforce the asserted patent(特許をライセンスする、または、権利行使する権利を持っている)
  • A civil action for infringement has been filed against the recipient(受け取り相手に対して訴訟を起こした)
  • A civil action for infringement has been filed against others (他の会社・組織に対して訴訟を起こした)
  • Legal action for infringement will be taken against the recipient (受け取り相手に法的な手続きを取る準備がある)
  • The sender is the exclusive licensee of the asserted patent (特許の単独ライセンシーである)
  • Others have purchased a license for the asserted patent (他社はすでに特許のライセンスを受けている)
  • Others have purchased a license, but fails to identify that it is unrelated to the asserted patent (他社は特許のライセンスを受けているが、その特許は、今回のものとは関係がないことを開示していない)
  • An investigation of the recipient’s alleged infringement occurred (受け取り相手の侵害の調査をした)
  • The sender previously filed a civil action for infringement based on the same activity identified in the letter, when the sender knew such activity was held to be non-infringing (同じ特許に関して訴訟を起こしたが、その結果が非侵害だったということを開示しない)

また、この法案は、悪意のある賠償請求も禁止しています:

  • A patent that has been held to be unenforceable or invalid in a final determination (特許が権利行使不可、または、無効)
  • Recipient’s activities after the expiration of the asserted patent (特許満了後の受取人の活動についての賠償)
  • Recipient’s activities that the sender knew were authorized by a person with the right to license the patent (送り相手が受取人が適切なルートでライセンスを得ていたことを知っている)

最後に、この法案では、以下のことをデマンドレターから省略することを禁止しています。

  • The identity of the person or entity attempting to license to enforce the patent, including all parent entities, unless the person or entity is a public company and is identified(実質的な当事者の特定)
  • The identity of at least one patent alleged to be infringed(少なくとも侵害が疑われている特許を1つ特定)
  • The identity of at least one allegedly infringing product, service, or activity(少なくとも侵害製品、サービス、活動の1つを特定)
  • A description of how the accused products, services, or activities allegedly infringe(侵害理由・分析)
  • Contact information for the person the recipient may contact about the letter’s assertions(連絡先)

もしTROL Actが成立すれば、悪質なデマンドレターの横行に歯止めがかかるでしょう。FTCによる民事訴訟では、法律違反となった場合、最高で$5Mの賠償請求が認められます。

TROL Actにおける条文は、以前に提出された法案 the STRONGER Patents Act of 2017と重なる点もいくつかあります。現在、議会は新しい最高裁判事の選考や、中間選挙でいそがしいですが、特許侵害に関わるデマンドレターの問題は議会でも注目している問題です。今後も、議会で何らかの動きがあると思われるので、引き続き、法案の進展には注目していく必要があります

まとめ作成者:野口剛史

元記事著者:Vladimir J. Semendyai. Ropes & Gray LLP (元記事を見る

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