Toyotaの24,000件にも及ぶ電気自動車関連特許のロイヤルティーフリーライセンスや2014年にTeslaが発表した特許誓約は注目を集めましたが、実際にそのようなプログラムを活用し、ライセンスを受ける場合、どのようなことに気をつければいいのでしょうか?
ToyotaやTeslaの動きをどう見るか?
このように自社特許で守られた技術を積極的に開放していく行動をどう見るか?業界でも意見が割れています。単なる宣伝と位置づける人もいれば、EVの普及を加速するためにとった手段と見る人もいるし、特許侵害を悩まずにより自由な環境を業界に提供する行為と捉えている人もいます。
どのような見方であれ、このようなプログラムを活用するということは、特許ライセンスを受けるという意味なので、ライセンスという観点において気をつけたいポイントを5つ紹介します。
1.ロイヤルティー
ライセンスで重要になる項目の1つがロイヤルティーです。Teslaの誓約にはライセンス料について詳しくは書かれていませんが、Toyotaの特許はロイヤルティー料が発生しません。特許ライセンスを受けるにもかかわらずその対価に一部であるロイヤルティー料を支払わないで済むのはいいですね。しかし、Toyotaの技術を取り込むというのは特許だけで不十分かもしれません。
上記のToyotaやTeslaの誓約には必ずしもノウハウに関することがらがライセンスに含まれていません。ノウハウは特許に明記された技術を導入する上で重要な役割を担う可能性があります。Toyotaは有料でテクニカルサポートを提供するようですが、ノウハウに関してはどうやら無料のライセンスには含まれず、有償で教わる必要があるようです。
ということで、このような特許誓約の活用を自社で検討する場合、担当の技術者に対象の特許の公開内容だけで自社活用ができるのか?それともライセンサーから有償のテクニカルサポートが必要なのかを事前に議論する必要があります。
また同時に、特許の内容に活用に関する記述が明らかに欠けている場合、特許自体を無効にできる可能性もあります。しかし、無効手続きにはリソースも時間もかかるので、そのような特許がライセンスに含まれているなら、交渉時にそのことを指摘し、自社に有利な形でライセンス交渉を進めていくというのがいい活用方法だと思われます。
2.グラントバック条項
ToyotaやTeslaの技術導入を考えているということは、自社でも同じようにEV開発を行い、自社で特許を取得していることでしょう。
しかし、ToyotaやTeslaの特許誓約のようなライセンス形式では、ライセンスを受ける側が開発した技術の所有権をライセンス元に譲渡するというGrant-back clausesが含まれている可能性があります。
このような“Open-source”型の特許ライセンス形式では、ライセンスを受けた技術を元に自社で開発した発明や知的財産の所有権や使用権がどうなるのか、慎重に協議し、契約上の文言を確認する必要があります。
たとえライセンスが無償であっても、グラントバックの条件によってはライセンスを受けない方がいい場合があるので、この点は特に重要です。
3.Freedom-to-operate (FTO)
ToyotaもTeslaも自社の特許を開放しているだけであって、彼らの技術を導入した製品が第三者の知的財産を侵害する可能性はあります。
ここは勘違いされやすいところですが、特許を持っているからといって、その特許を活用した製品が第三者の特許を侵害していないという補償はどこにもありません。仮に、自転車に関する基本特許を持っていて、自社で特許に開示されているような自転車を作っても、使われている車輪やギヤー、ブレーキシステム等が第三者の特許を侵害することは十分ありえることなのです。
なので、ToyotaやTeslaからライセンスを受けるからといって、他社からの権利行使を回避できるということにはなりません。
4.Good faithの問題
これはTeslaの誓約に明記されているもので、TeslaはGood faithで技術を使っているのであれば特許訴訟を起こさないとしています。しかし、Good faithという言葉は主観的でTeslaの解釈によって変わるものです。
この点については、OLCの過去の記事「Teslaに学ぶオープン&クローズ戦略」 に詳しく書かれています。簡単にまとめると、Teslaの誓約を活用すると、Teslaに対しても、また、電気自動車関連企業に対しても知財による権利行使ができなくなるので、とても大きな制約になります。
5.補償
無償のライセンスだからといってDue diligenceを怠ることなく、特許の所有者の確認や特許の有効性を確認する作業を行うことは大切です。
また、ライセンスを受ける特許の所有者がライセンス元ではない、または、特許に価値がないことを知ってライセンスを行っていた、などが発覚するリスクをヘッジするためにも、無償のライセンスであっても、ライセンス元からこれらのことがらが起こったときの補償等をライセンスに明記することが大切です。
まとめ
このような特許のOpen-source戦略には提供元の様々な思惑が垣間見られます。無償だからライセンスを受けるという簡単なものではなく、TeslaやToyotaの公開されている技術を取り入れるということは大きなリスクも存在します。そのリスクと得られる利益のバランスを見ながら慎重にDue diligenceをおこなうことが大切です。
今回はTeslaやToyotaに注目しましたが、このような戦略はどの業界でもあり得るので、ライセンスを検討する際は、上記5つのポイントに気をつけてみてください。
まとめ作成者:野口剛史
元記事著者:Terence Broderick. UDL Intellectual Property(元記事を見る)