Teslaに学ぶオープン&クローズ戦略

2014年、TeslaのElon MuskがTesla特許をOpen sourceにすると宣言しましたが、この宣言には様々な制約があります。業界に問わず知財の Open/Closed 戦略は重要課題であると思うので、今回はTeslaの特許 Open Source 宣言について詳しく見ていきたいと思います。

まず発表で、MuskはTesla特許をOpen source化することによって電気自動車業界のさらなる発展に貢献するだろうと発言しました。この時点では詳細は不明でしたが、TeslaのPatent Pledge ページで詳細が発表されました。このページにはMuskが掲げた宣言に沿い、誠実である限り電気自動車や関連器具に関するTesla特許の侵害について訴訟は起こさない(Tesla “will not initiate a lawsuit against any party for infringing a Tesla Patent through activity relating to electric vehicles or related equipment for so long as such party is acting in good faith.”)としています。

この特許宣言にはTeslaの350以上の特許が含まれていて、技術範囲も熱管理からドアハンドルにかかわるものまで幅広い分野の特許があります。このようなTeslaの特許をロイヤルティーを払わずに使えるのは魅力的ですが、Teslaの特許技術を使う代価は大きいので、この特許宣言を活用するためにはまず、その条件を確認し、自社にとって有益なものか判断する必要があります。

上記のように、「誠実である限り訴えない」とありますが、この「誠実である」(acting in good faith)という条件を満たすには、以下のことを行わないことが前提になっています。

  • Teslaに特許やその他の知的財産の権利行使を行わない、また、電気自動車業界の第三者にも特許による権利行使を行わないこと(asserted, helped others assert or had a financial stake in any assertion of (i) any patent or other intellectual property right against Tesla or (ii) any patent right against a third party for its use of technologies relating to electric vehicles or related equipment)
  • Teslaの特許を無効化するような手続きはおこなわない(challenged, helped others challenge, or had a financial stake in any challenge to any Tesla patent;)
  • Teslaの模倣品を作らない、その材料を提供しない(marketed or sold any knock-off product (e.g., a product created by imitating or copying the design or appearance of a Tesla product or which suggests an association with or endorsement by Tesla) or provided any material assistance to another party doing so.)

この3つの制約は、Teslaの特許技術を使う上で大きなハードルになります。

例えば、1つ目の制約です。前半には、「Teslaに特許やその他の知的財産の権利行使を行わない」と書いてあるので、この特許宣言を活用するのであれば、自動的に自社特許をTeslaに権利行使できなくなります。また、その他の知的財産の権利行使も含まれているので、Teslaにより著作権の侵害や商標の侵害があっても、権利行使できなくなります。例を挙げると、Teslaが自社のソースコードを文字通りコピーしても著作権の侵害で訴えることができなくなってしまいます。自動運転の分野などではソフトウェアは重要で、社員の流動なのでソースコードが自社からTeslaに渡ってしまっても著作権の侵害や機密情報の搾取などで訴えることができなくなってしまいます。

また、1つ目の制約の後半も影響が大きいです。「電気自動車業界の第三者にも特許による権利行使を行わないこと」となっているので、実質競合他社にも特許による権利行使ができなくなってしまいます。電気自動車業界では、その会社の知的財産が会社の価値に直結する場合があります。スタートアップの場合、そのようなケースがほとんどです。しかし、このTeslaの特許宣言を活用してしまうと、会社の特許による権利行使がほぼ不可能になるので、会社の強みである知財が一瞬にして価値のないものになってしまいます。(権利行使できない特許にはなにも価値がありません。)Teslaの技術が使えても、自社の知的財産が使い物にならなければ、市場で有利な位置に付くことは難しいです。

2番目の特許無効化の主張も影響が大きいです。このような文言は特許ライセンスにはよくありますが、実際に使っている特許だけに限らず、Teslaが持っているすべての特許に対するものなので範囲がとても広いです。また、financial stake という文言も広く解釈され、場合によっては自社の顧客がTeslaの特許の無効主張を行ったときにも適用される可能性があります。そうなってくると自社の方針だけではなく、顧客やサプライチェーン全体が特許宣言の制約を守る必要があるので、現実的に難しい話になってきます。

最後に模倣品ですが、その定義ははっきりしていません。開示されている例を参考にすると、Teslaの車体と互換性のあるようなパーツは模倣品と判断される可能性があります。また、デザインもTeslaのものと似たものでないようにする必要があります。これに関しては明確な境界線がないので、自社製品がこの制約を満たすかを判断するのは難しそうです。

まとめ

このようにTeslaの特許Open Source 宣言は電気自動車業界の成長に貢献するようなものである可能性もありますが、この宣言を活用する企業にとっては大きな制約にもなります。知財のOpen/Closed戦略に正解はありませんが、自社の市場でのポジションや市場の成長スピードなどを考えるとTeslaのような戦略をとることも悪くはないと思います。自社が業界の第一人者で後続企業が乱立する状態であれば、訴訟の回避などにもつながるので、有効な知財のOpen/Closed戦略だと思われます。

まとめ作成者:野口剛史

元記事著者:Nicholas Collura- Duane Morris LLP(元記事を見る

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