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アメリカ政府は特許法で薬価を制御できるか?深掘り分析

アメリカにおける医療費の増加、特に薬の価格の高騰は大きな問題となっています。政府は薬価の抑制を急務と捉えており、解決策として特許法を用いることを考えており、これまでほとんど使われてこなかったバイ・ドール法のマーチイン権を注目しています。この法律に基づき、連邦政府から資金提供を受けた研究に関する特許について、政府が価格制御を目的とした「強制」ライセンスの発行を加速させる動きがあります。

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バイデン政権が新たに行った提案は、連邦政府機関が、連邦政府が資金提供した発明の対象となる製品を製造する権利を代替生産者に与える仕組みにおいて、価格の高騰を理由の1つにできるようにするものです。

2023年12月7日、ホワイトハウスは様々な「競争促進による医療費と処方箋薬のコスト削減のための新たな行動」を発表しました。この中には、連邦政府が資金提供した研究から生まれた発明の特許権を規定するバイ・ドール法(Bayh-Dole Act)に基づく「マーチイン権」(“march-in rights”)の行使を検討する際に、各機関が従う要素に薬価を明示的に含めることにより、「より低価格の税金投入医薬品への公平なアクセスを促進する」ことが含まれています。ホワイトハウスの発表に関連して、商務省の国立標準技術研究所(NIST、National Institute of Standards and Technology)は、マーチイン権の行使を検討するための省庁間ガイダンスフレームワーク案(Draft Interagency Guidance Framework for Considering the Exercise of March-In Rights)(「フレームワーク案」)を2024年2月6日までパブリックコメントのために公表することを発表しました。重要なのは、このフレームワーク案が、連邦政府から資金提供された発明について、バイ・ドール法に基づくマーチイン権の適用を評価する際の機関のプロセスの複数の段階において、価格設定を考慮事項として追加していることです。

マーチイン権の概要

1980年に制定されたバイ・ドール法は、連邦政府から資金提供を受けた研究開発業務(その全部または一部を問わず)の遂行において、連邦政府から資金提供を受けた者が開発した発明の所有権およびライセンス権を配分するものです。35 U.SC. § 200ほか参照。バイ・ドール法は、資金提供の受領者が発明の所有権を保持することを認める代わりに、マーチイン権を含む発明のライセンス権を政府に与えています。すなわち、政府は、資金提供の受領者に対し、「状況に応じて合理的な条件で、責任ある出願人または申請者に、あらゆる使用分野における非独占的、部分的独占的、または独占的ライセンスを付与する」ことを要求する権利を有しています35 U.S.C. § 203(a)。同法は、資金提供機関がマーチ・イン権を行使できる状況として、(1)契約者の不作為(contractor inaction)、(2)健康上または安全上の必要性(health or safety needs)、(3)公共利用のための満たされていない要件(unmet requirements for public use)、または、(4)適用されるライセンス要件の違反(a breach of applicable license requirements)、の4つを挙げています。

しかし、現在まで連邦政府機関がマーチイン権を行使したことは一度もなく、それを求める請願も比較的少ないです。その背景には、マーチイン手続きを規定する規則には、どのような場合にマーチイン権を主張するかについての実質的な指針は含まれていないことが指摘されています。37 C.F.R. § 401.6参照。

今回提案された「フレームワーク案」の概要

薬価引き下げを目的としたマーチイン権の行使の可能性は、長い間、提唱活動(advocacy efforts)の対象となってきました。2023年3月、商務省と保健福祉省は合同で、省庁間ワーキンググループが「価格を含む様々な要因が各省庁の評価において考慮される可能性がある場合、その判断のための指針となる基準とプロセスを明確にしたマーチイン条項の実施のための枠組みを開発する」と発表しました。

フレームワーク案では、マーチイン権の行使の可能性を評価する際に、各省庁が検討すべき一連の質問が記述されています。

  1. まず、バイ・ドール法は適用されるのか。例えば、関連する発明は、連邦政府の資金提供契約の履行において着想されたのか、あるいは実際に初めて実用化されたのか。 35 U.S.C. § 201(e)参照。
  2. 第二に、バイ・ドールが適用される場合、マーチイン権の行使は、(a)「対象発明の実用化の達成」、(b)「健康上又は安全上の必要性の緩和」、(c)「公共利用のための(規制上の)要件の充足」、又は(d)「米国内での製造奨励という法定目的の実現」のために必要であるかを検討すること。35 U.S.C. § 203(a)。この各法定基準について、フレームワーク案は、各省庁が検討すべき一連の質問を提示しています。
  3. 第三に、法定基準のいずれかが満たされる場合、マーチイン権の行使はバイ・ドール法の政策と目的を支援するかを検討すること。この質問を評価する際、フレームワーク案では、イノベーション、発明への一般公開、健康と安全、競争、官民協働といったハイレベルな目的だけでなく、新規ライセンシーが特定の発明を具現化した製品を市場に投入することの実現可能性といった現実的な検討事項も考慮するよう、各省庁に促しています。

さらに、フレームワーク案では、バイオテクノロジー、建設技術、交通安全、新疾病治療、(パンデミックの文脈における)呼吸マスク、浄水器など、多様な分野における8つのシナリオ例を論じています。フレームワーク案では、各シナリオについて、関連する可能性のある法的基準、マーチイン権行使の可能性を評価する際に当局が分析する可能性のある具体的な検討事項の例、マーチインに有利・不利となる可能性のある事実の詳細やさらなる疑問点を挙げています。

注目すべきは、フレームワーク案が、価格設定に関連する検討を何度も取り上げていることで、提案されているエージェンシーの評価プロセスの複数の段階で、価格設定が検討される可能性があることを示唆しています。まず、フレームワーク案では、2つの法定基準(対象発明の実用化と安全衛生に関するもの)に関連して、具体的な価格設定に関する質問が挙げられています。第二に、フレームワーク案では、2つの例示的シナリオ(浄水器と呼吸用マスクに関するもの)において、価格設定について論じています。

結論

これまで連邦政府機関は、マーチイン権を主張する決定に関して実質的な指針を持たずに運用してきました。従って、意見募集期間後にどのような形で実施されるか、またその後の訴訟の可能性によっては、このフレームワーク案により、バイ・ドール法の下でのマーチイン権の行使によるライセンス付与という初の事象が発生するかもしれません。NISTは、フレームワーク案に関する公開ウェビナーを2023年12月13日(水)に開催し、フレームワーク案に対するコメントは2024年2月6日(水)までNISTに提出することができます。

参考記事:White House Proposal Floats Pricing as a Basis for Allowing Alternative Manufacturers under March-In Rules | WilmerHale

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