ソフトウェアライセンス契約書における知的財産の取り扱いで大切な3つのポイント

ソフトウェアライセンス契約の知財に関しては、以下のようなポイントに注意する必要があります。1)契約関係の一部としてライセンス、または、作成された知的財産権の所有権に関して、当事者の意図を正確に反映させること。2)ライセンスされた知的財産権に関してライセンサーの責任範囲を限定すること。3)ライセンシーがライセンスされたソフトウェアおよび基礎となる知的財産権を使用する際の適切な制限が含まれていること。以下で詳しくその理由を解説します。

知的財産権の所有権はライセンス後に開発されるもの、フィードバックを考慮する

ソフトウェアライセンス契約には、知的財産の所有権に関する基本的なルールを定めた既定条項が含まれていることがよくあります。これらの規定は通常、(i) 各当事者が自身の既存の知的財産の所有権を保持すること、(ii) 各当事者が開発するものの知的財産を所有すること、および (iii) ライセンサーがライセンスソフトウェア内のすべての知的財産の所有権を保持することを定めています。

よくあることですが、慎重に作成されない既定条項は、しばしば意図しない問題を引き起こします。ソフトウェア・ライセンス契約は、ライセンサーがそのソフトウェアに含まれるすべての基本的な知的財産の所有権を保持することを規定するだけでなく、ライセンサー(またはその顧客)が契約関係の一部として開発する可能性があるものについても、既定の所有権ルールを慎重に設定する必要があります。

また、ソフトウェアのライセンサーは、ライセンスされたソフトウェアの修正、更新、アップグレード、機能強化(「アップデート」)を開発し、すべての顧客にそのようなサービスを一斉に提供することがよくあります。ライセンサーは通常、ライセンス付与全体の一部としてこれらのアップデートをライセンスすることに問題はありませんが、ライセンサーがそのようなアップデートの所有権を顧客(ライセンシー)に譲り渡すことを意図していることは稀です。しかし、これらのアップデートに含まれる知的財産の所有権を保持するためにライセンス契約においてアップデートに関する権利の所在を明確にしておかないと、不注意にもその所有権を顧客に譲渡していると解釈されることもあります。また、ライセンサーが所有すべきライセンス対象ソフトウェアの修正または追加を顧客(ライセンシー)が作成することが許可されている場合、ソフトウェアライセンス契約は、かかる修正/追加の所有権を明確に取り上げ、かかる修正/追加におけるライセンシーからライセンサーへの譲渡(“Customer hereby assigns…”などの文言で、明確に現時点での譲渡を示す文言)を含める必要があります。

また関連する話題として「フィードバック」があります。

顧客(ライセンシー)がライセンサーのソフトウェアを改善する方法についてライセンサーにアイデアを提供することはよくあることです。ライセンサーは、顧客から提供されたアイデアを使用してソフトウェアを改善した場合、顧客の知的財産を侵害するのではないかと心配することが多いです。その心配はほとんど根拠がありませんが(知的財産関連の法の基本的な考えとして、一般的に、 単なるアイデアは保護対象外になります)、ライセンサーに有利な文言としては、ライセンサーがソフトウェアを改善するために用いられるフィードバック とアイデアを使用する権利とライセンスを含むこと、また、用いられるフィードバック とアイデアが顧客(ライセンシー)の秘密情報ではないことを示す条項が含まれているのが理想でしょう。

ときにソフトウェア・ライセンサーが特定の顧客用にカスタマイズされた開発を含むような場合もありえます。

例えば、顧客はその事業に特化した特定の機能を必要とする場合があったり、または顧客がライセンサーに自分のニーズまたは事業に特化したカスタマイズされた機能を開発するよう支払うような場合があります。カスタム開発が契約の一部として含まれ、顧客がそのような開発に対して特別に支払う場合、顧客はしばしばそのようなカスタム開発の基礎となる知的財産を所有することを期待するでしょう。このような状況では、ソフトウェア・ライセンス契約において、(i) カスタマイズされた開発を具体的に特定し、(ii) かかるカスタマイズされた開発の所有権を顧客に付与し(それ以外のものは付与しない)、かつ (iii) 所有権の付与を開発における著作権に限定する(特許権を含むと、付与する権利が希望以上に拡大する場合がある)条項を慎重にかつ狭く定める必要があります。 

ライセンサーが責任を取る表明と保証(representations and warranties)は限定的であることを明確に示す

交渉によるソフトウェアのライセンス契約には、ほとんどの場合、ソフトウェアの基礎となる知的財産に関する表明と保証(representations and warranties)が含まれています。通常、これらの表明および保証は、契約に基づいてライセンス供与されたソフトウェア (および顧客によるその使用) が第三者の知的財産を侵害しないという非侵害を扱っています。そのため、知的財産に関する表明および保証 は、(i) 当事者による契約締結時にのみ適用され、 (ii) 顧客がライセンサーおよびライセンス契約の要件に従ってソフトウェアを使用することを要求し、 (iii) 当事者によるライセンス契約締結時に有効な各管轄区域における知的財産に限定することが重要です。

ライセンサーは、このような表明および保証を、第三者の著作権および企業秘密の権利の非侵害に限定することも検討できます。さらに、ソフトウェア・ライセンス契約は、非侵害の表明/保証に違反した場合の具体的、排他的、かつ限定的な救済策を顧客に提供する必要があります。一般的に、これらの救済措置には、ソフトウェアを非侵害にするための修正、非侵害の代替ソフトウェアの調達、またはライセンス契約に基づいて顧客が支払った顧客料金の払い戻しが含まれます。

最後に、顧客が契約に違反してソフトウェアを使用した場合、文書に従って使用しなかった場合、ソフトウェアを修正または変更した場合、あるいは使用することを意図していない第三者の技術に関連して 使用した場合、またはライセンサーが別途承認していない場合に、非侵害の表明/保証の適用を明確に除外する必要があります。

著作権保護だけに頼らず契約上でソフトウェアと基礎となる知的財産の使用に関する制限を明確にする

最後に、ソフトウェア・ライセンス契約の形式には、顧客によるソフトウェアと基礎となる知的財産の使用に関する制限を含める必要があります。ソフトウェア・コードは、企業秘密、著作権、および特許法の下で保護することができますが、多くの場合、当事者はIP保護の第一形態として著作権法に依存しています。

著作権所有者は、著作権法に基づいて多くの権利を有しており、その中には二次的著作物を作成する重要な権利も含まれています。この権利は著作権者に明確に付与されているため、顧客が二次的著作物を作成することは、(契約書に文言がない場合でも)法律で禁止されていると言えるでしょう。

しかし、この法律は、当事者がリバースエンジニアリング、逆アセンブル、逆コンパイル、その他ソフトウェアのソースコードを発見しようとする権利については、必ずしも言及していません。したがって、ソフトウェアライセンス契約には、ソフトウェアとその基礎となる知的財産の顧客による使用に関する一定の制限が含まれていることが極めて重要であり、そのような規定は、顧客がソフトウェアで派生物を作成する能力(たとえ適用法の下で間違いなく保護されていても)、およびソフトウェアのソースコードをリバースエンジニア、分解および再組み立て、逆コンパイルまたはその他の方法で発見しようとする能力を明確に制限すべきものです。

さらに、強固な契約上の使用権の制限なしに著作権法による保護に頼ることは、米国最高裁が2021年に下したGoogle LLC v. Oracle America, Inc.の判決以降、さらに危険なものとなっています。多くの法律の専門家やコメンテーターが、Google 以降のソフトウェアに対する著作権法の適用可能性に起こりうる影響について議論しています。 

関連記事:Google v. Oracleから垣間見るソフトウェア保護のあり方

参考文献:How to Improve Your Company’s Form Software License Agreement – Part 9: Intellectual Property

ニュースレター、公式Lineアカウント、会員制コミュニティ

最新のアメリカ知財情報が詰まったニュースレターはこちら。

最新の判例からアメリカ知財のトレンドまで現役アメリカ特許弁護士が現地からお届け(無料)

公式Lineアカウントでも知財の情報配信を行っています。

Open Legal Community(OLC)公式アカウントはこちらから

日米を中心とした知財プロフェッショナルのためのオンラインコミュニティーを運営しています。アメリカの知財最新情報やトレンドはもちろん、現地で日々実務に携わる弁護士やパテントエージェントの生の声が聞け、気軽にコミュニケーションが取れる会員制コミュニティです。

会員制知財コミュニティの詳細はこちらから。

お問い合わせはメール(koji.noguchi@openlegalcommunity.com)でもうかがいます。

OLCとは?

OLCは、「アメリカ知財をもっと身近なものにしよう」という思いで作られた日本人のためのアメリカ知財情報提供サイトです。より詳しく>>

追加記事

先行例文献
Uncategorized
野口 剛史

仮出願を特許無効審査で使う方法

原則、仮出願自体は、先行文献になりませんが、本出願の開示やクレームによっては、本出願の先行文献としての有効日を仮出願の出願日までさかのぼらせることができます。

Read More »
money
訴訟
野口 剛史

アメリカにおける第三者による訴訟資金提供の実態

訴訟が頻繁に起こるアメリカでも5年前までは第三者による訴訟資金提供は滅多にありませんでした。しかし、近年この市場が急速に拡大し、数億ドル(100s M)規模の市場になっており、契約違反、独禁法違反、知財訴訟などに資金を提供するファンドへの投資が増えてきています。

Read More »
契約
野口 剛史

特許使用料を決定するかもしれない継続中の控訴案件

特許ライセンスに払うべき対価はいくらか?と言うのは一概には言えません。特にロイヤリティ計算のベースになるものが何か?というのは今まで多くの議論を呼んできました。そこで、最小販売特許実用単位(SSPU)というコンセプトが出来上がってきたのですが、まだ不透明な部分が多く、特許訴訟でもライセンス契約訴訟でも問題になっています。今回は、現在継続中の特許使用料に関する案件を見ながら、SEP特許ライセンスの課題を深堀りしていきます。

Read More »