カリフォルニアの連邦地裁で、規格必須特許(standard essential patents (SEP)))に関する重要な判決が下されました。これはpartial summary judgmentですが、その中で裁判所は、ライセンス希望会社が部品メーカー、最終製品メーカーなどにかかわらず、FRAND条件のロイヤルティーを支払う意向であるならそのすべてのライセンス希望会社にライセンスをおこなうべきとしました。
今回の案件は、携帯コミュニケーションに関するスタンダードに関するSEPを対象にした判決ですが、他の規格に関わるSEPにも同じように適用される可能性があります。そのため、規格に関わる企業はこの判例が今後どのように発展するか注目する必要があります。
今回の案件は、 the US Federal Trade Commission (FTC)が携帯コミュニケーションに関するスタンダードのSEPを持っている特許権者を相手に起こした独禁法訴訟です。この判決で、FTCはよりSEP保有者へのFRAND条件のライセンス強化に乗り出すことが予測されます。
この判決はQualcomm、11月6日、 FTC v. Qualcomm, Inc., No. 17-cv-00220, 2018 US Dist. LEXIS 190051 (N.D. Cal. Nov.6, 2018)において、Qualcommに対して下され、携帯通信規格に関わる知財のライセンスを希望者すべてにおこなうように命じたものです。
この訴訟は、SEP問題でよくある特許侵害訴訟やライセンスの契約違反ではなく独禁法違反の疑いで、FTCがQualcommを2017年1月に訴えたことから始まります。ここでFTCが問題視したのがOualcommが他のモデムチップメーカに対してSEPのライセンスを拒んでいたことです。Qualcommは携帯用のモデムチップを自社で生産・販売しているので、他のモデムチップメーカがSEPライセンスを受けられないとQualcommが市場を独占してしまうという恐れがありました。
Qualcommは携帯コミュニケーションに関わる規格団体(the Alliance for Telecommunications Industry Standards (ATIS) and the Telecommunications Industry Association (TIA) )に所属していて、その規格団体のルールに基づき、FRAND 条件において自社のSEPをライセンスすることを宣言していました。しかし、Qualcommは、携帯の最終製品メーカーにライセンスをおこなえばその義務は達成され、モデムチップなどの部品メーカーにライセンスする義務はないという見解を示しました。
ライセンス対象を限定できるか否かの判断にあたり、裁判所は規格団体の知的財産に関わるポリシーとQualcommが自ら規格団体に示した声明を考慮しました。その結果、Qualcommが主張するような制限を許可するような文言はなく、すべての希望者に対してライセンスをFRAND条件のもとおこなうように書かれているとしました。
この判決により、今後SEPを保持する特許権者は自社が加入している規格団体の知財ポリシーをすべて確認し、FRAND条件のもとどのようなライセンスが可能か、特定の企業へのライセンスを拒否できるのか、各団体のルールを吟味しライセンスをおこなう必要があります。また、この判決は、ロイヤルティーの収入にも大きな影響を与えそうです。今まで最終製品をベースにロイヤルティーが計算されていましたが、今後は部品をベースに計算されてしまうとSEPホルダーのロイヤルティー収入が大きく減少する可能性があります。
まとめ作成者:野口剛史
元記事著者: Stefan M. Meisner and Lisa A. Peterson . McDermott Will & Emery (元記事を見る)