SEPの問題は通信業界に限ったものではありません。今後はSEPと無関係だった業界でも複雑なSEP対策を行わないといけないようになってくるでしょう。SSO、FRAND、国の政策、主要国の矛盾など、SEP対策で考慮しないといけない問題は多岐に及びます。対策には時間がかかるので、いまのうちから準備をはじめるといいでしょう。
このSEPに関する記事は全6パートでTLC内で共有されたものです。今回は特別にそのパート1だけをOLCでも公開します。
人工知能、バーチャルリアリティ、IoT、ビッグデータとともに、5Gはスーパーコネクテッド革命の火付け役となっています。自動車やテレビといったものから、吸入器やキッチン家電、ゴミ箱といった予想外のものまで、あらゆる業界の企業がスマートでコネクテッドな製品を作ろうと努力しています。
スマートでコネクテッドな製品の爆発的な増加に伴い、通信およびネットワーキング技術の標準的な必須特許をめぐる複雑なライセンス交渉や訴訟への対応が求められています。
SEPを取り巻く最近の動向
エスカレートするSEPバトル
多くの標準設定機関(standard-setting organizations)は、メンバーに対し、公正かつ合理的で差別のない条件でSEPを提供したり、ライセンスを供与したりすることを要求しています。このような条件は一般的にFRAND条件と呼ばれていますが、何が FRAND 条件を構成するのかは、長い間、世界中の企業交渉担当者、裁判所、政府機関を当惑させてきています。
特に、当事者の一方が SEP/FRAND ライセンシングに新規参入した会社である場合、この問題の難易度は上がります。例えば、自動車メーカーや医療機器メーカーは、一般的にスマートフォンメーカーのようなFRANDライセンシングの経験がありません。2018年までは、SEP訴訟のほとんどはスマートフォンの競合他社やチップサプライヤーが関与していました。しかし、その流れは変わりつつあり、Nokia Corp.やQualcomm Corp.などの通信大手が、Daimler AGやVolkswagen AGなどの自動車メーカーを提訴しているのが今況です。
次世代のコネクテッド・ビークルをはじめとする様々なスーパーコネクテッド製品には、5Gが提供するような高速で安定したネットワークが必要です。2020年1月までに、世界で5Gに関連する9万5,000件以上の出願と付与された特許が宣言されており、Huawei Technologies Co. Ltd., Samsung Electronics Co. Ltd., LG や Nokiaなどが上位を占めています。
特定の産業を対象としたパテント・プールが出現したことで、NPE(nonpracticing entities、パテントトロールとも呼ばれています)が SEP の戦いに参加しています。例えば、Avanci LLC は、業界プレーヤーからのセルラー標準(2G、3G、4G)の SEP を集約し、自動車メーカーなどの IoT デバイスメーカーにライセンス供与しています。Avanciのライセンサーには現在、Qualcomm、Nokia、InterDigital Inc.のほか、Sisvel SpA、Unwired Planet、ConversantなどのNPEが含まれています。Avanciは、Audi、Volvo、Volkswagen、Porsche、Peugeot、Lamborghiniと契約を結んでいます。車一台あたり15ドルの料金が公平、合理的、または差別的ではないと考える業者に対し、Avanciとそのメンバーは法廷に訴えました。
最近では、AvanciのメンバーであるConversantがNokiaから取得した携帯電話のSEPに基づいてテキサス州でTeslaを提訴しました。その後、他のメンバーであるSharpがTeslaを日本で提訴しています。さらに、別のメンバーであるSisvelがTeslaをDelaware州で提訴。その一方で、自動車部品サプライヤーのContinental社は、先発メーカーレベルでのライセンス供与のみを行うという同社の慣行に基づき、FRANDの約束違反やその他の反競争的行為を行っているとして、Avanci社とそのメンバーを提訴しています。
欧州では、Huaweiが英国特許に基づいてUnwired PlanetからグローバルなFRANDライセンスを取得することを英国の裁判所が命じることができるかどうか、あるいは英国の差し止め命令を受けることができるかどうかについて、英国最高裁判所の判決が注目されています。ダイムラーは、コンチネンタルや他の数社のオートコネクティビティ・モジュール・サプライヤーと共に、Nokiaとの独占禁止法違反訴訟を継続しています。Nokiaはドイツの3つの特許裁判所でDaimlerを相手に10件の侵害訴訟を起こしていますが、まだAvanciのロイヤリティ要求に応じるようにはなっていません。
これらはすべて始まりに過ぎません。スーパーコネクテッド・ワールドに参加するアクターが増えるにつれ、SEPの戦いは、より多くの業界のより多くのプレーヤーのアジェンダとなっていくでしょう。
解説
SEP(Standard Essential Patentの略。日本語では 規格必須特許)の問題は、無線通信の事業で特に大きな問題になっていたので、従来は通信機器メーカやスマートフォンメーカーなどある一定の業種に関する問題でした。
しかし、5Gの普及が進む中、すべてのものが「つながる」ことにより、今まではSEP問題は関係なかった自動車メーカーや医療機器メーカーもSEPの問題に対応しなければいけない時代に変化してきました。
SEPのライセンスには、公正かつ合理的で差別のない条件(FRAND条件。fair, reasonable and non-discriminatoryの頭文字を取った名称 )が要求されます。しかし、何が FRAND 条件を構成するのかは明確ではありません。そのため、SEPの問題は訴訟に発展することも珍しくなく、裁判所もどう扱うっていいのかがわかっていません。
長年SEP問題を扱ってきた通信事業者同士でも未だに解決できていない問題に、SEPとは無縁だった業者が参入してきたので、SEPに関する争いは更に複雑化しています。上記の自動車メーカーやサプライヤーに対する通信SEP関連の特許訴訟を見れば、そのことがよくわかります。
このようにSEP問題はより広範囲の業種における課題に発展していくので、SEP対策というのはどのような業種の知財部であっても知っておきたい内容です。
パート2以降では、以下のようなテーマについて話していきます。
- 最近の方針転換 – 「エッセンシャル」は特別なものになるのか?
- 2019年の声明の舞台裏
- 標準設定機関参加者への注意
- 交渉時の考察
- 進化するルールとフォーラム間の矛盾
質問:あなたの業界ではこれから2年の間にSEP問題が増えていくと考えていますか?コメント欄で答えてみてください。
TLCにおける議論
この話題は会員制コミュニティのTLCでまず最初に取り上げました。TLC内では現地プロフェッショナルのコメントなども見れてより多面的に内容が理解できます。また、TLCではOLCよりも多くの情報を取り上げています。
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まとめ作成者:野口剛史
元記事著者: Erik R. Puknys and Michelle (Yongyuan) Rice. Finnegan, Henderson, Farabow, Garrett & Dunner, LLP(元記事を見る)