NDAだけでは役不足。コラボレーションするときに知っておきたい4つのポイント

近年、他社と共同開発や共同研究をする機会が増えてきましたが、契約面が重視されず、NDAだけとりあえず結んでいるケースもかなりあるのではないでしょうか?今回はNDAだけで共同開発をした結果、訴訟になってしまったSiOnyxケースを参照しつつ、知財面からコラボレーションコラボレーションをするときに気をつけたい4つのポイントを紹介します。


他社とのコラボレーション時に知的財産を保護するために気をつけたいポイントはどのようなものでしょうか?今回は実際にあったSiOnyxケースに照らし合わせて、コラボレーションをする際に気をつけたい点について考えてみます。

コラボレーションの際にNDAに頼るのはリスクが高い

私の回想は、特許所有権の問題ではなく、残念ながらあまりにも身近な背景にある事実のパターンによって促されたものです。簡単に説明すると、SiOnyx社は、米国で最初の特許出願後、ブラックシリコンの開発と製品化を目的として設立されました。浜松ホトニクスは、シリコンベースの光検出器デバイスを製造しています。両社は、SiOnyx社から同社の技術について簡単な説明を受けるために会談しました。会談後まもなく、両社は、SiOnyxの技術を浜松のフォトニックデバイスに組み込むための潜在的なアプリケーションの評価や共同開発の機会に関する機密情報を共有するためのNDAを締結したとされています。訴訟が長引き、費用がかさむ中、SiOnyx社は有利な判決を得ました。SiOnyx LLC et al. v. Hamamatsu Photonics K.K. et al., Nos. 2019-2359, 2020-1217 (Fed. Cir. Dec. 7, 2020) [http://www.cafc.uscourts.gov/sites/default/files/opinions-orders/19-2359.OPINION.12-7-2020_1697100.pdf]。

残念なことに、当事者間で開示されたすべての情報は秘密にされなければならないため、どのような状況でもNDAが十分な合意であるという誤った理解をもっている人がいます。しかし、共同開発プロジェクトや技術応用調査で他社と協力している場合、NDA はほぼすべてのケースにおいて不十分です。NDA は技術の所有権を扱うことはできますが、共同研究や共同開発に従事している場合には、ほとんどの場合、知的財産の所有権を考慮したニュアンスのある方法で扱うことができません。

コラボレーションを急ぐと意図しない結果を招く可能性がある

しばしば、適切な契約を結ぶのではなく、「とりあえず」契約を成立させようとするプレッシャーや焦りがあります。多くの場合、企業は、背景にある事実、既知のソリューション、既存の技術、潜在的な技術革新など、あるいはその後に開発された技術革新を十分に検討し、特定し、理解を深めることをせずに、所有、ライセンス、共有、または、譲渡したいと考えます。おそらく、開発段階にすぐに移行したい(そしてその後すぐに商業化を期待したい)という明白な誘惑が、NDAが唯一必要な契約上の取り決めであるというSiOnyxの間違った判断させてしまったのかもしれません。残念なことに、SiOnyxにとってより思慮深いアプローチとより良い保護を提供するようなNDAの後に続くような契約はありませんでした。

イノベーションの前の評価

当事者は、最初の会議で、すでに商業的に入手可能な非機密技術を用いることで共同研究の目的を達成することができるかを検討する機会を逃していました。これは、一方の当事者が他方の当事者の非機密技術を制限なく使用して共同研究の目的を達成できるように、守秘義務の対象ではなく、市場で入手可能な既存の技術を使用することができるかを考えるものです。非機密技術には、特許を取得した技術等の独自仕様技術も含まれる可能性があるので、そのような場合は、使用のためにライセンスを受ける必要がでてきます。おそらく、SiOnyxはこのようなライセンスを付与することで上記の訴訟を避けることができたかもしれません。

開発した知財の事業戦略を念頭に置いて

満足のいく既存技術が存在しない場合には、共同研究の目的を達成するために、新たな技術革新、 技術、または既存技術の適応策の開発について議論し、その概要を説明することが必要です。この開発努力に関連する各プロジェクトについては、開発された技術に関連するマイルストーン、責任、インプット、 義務、知的財産の配分などを概説した合意書を作成しておくべきでしょう。

そのような合意書の重要なトピックは、開発されたイノベーションや技術に関連する知的財産の配分です。開発されたすべての技術の共同所有権をデフォルトにしないよう、当事者に奨励するべきです。これは通常、一見すると簡単な解決策のように見えます。しかし、開発された技術には既存の知的財産が含まれていることが多いため、そのような既存の知的財産の所有者は、共同所有権の下では(少なくとも米国では)相手企業が所有者に会計処理をすることなく、開発された技術を使用、ライセンス、利用することができるため、うっかり権利を無意味に手放してしまう可能性があります。そうではなく、共同の努力から生じる可能性のあるイノベーションの種類について、公平な根拠となる規則を考えてみましょう。例えば、どちらの会社が開発したかに関係なく、一方の会社ともう一方の会社に割り当てられる発明の種類と、共同で所有する発明の種類を特定することができます。この配置は、各当事者の事業戦略に関連した特定の分野に技術を集中的に割り当てることによって達成されます。

このような仕分けにより、どちらかの当事者にとって中核的なものではないイノベーションの種類に限定されるため、残りの部分は共同で所有することができます。困難な状況では、隣接する分野での使用の自由をある程度制限してライセンスバックを行うなどの対応が可能です。

ここでは、共同研究の際にIPを保護するための4つの戦略をご紹介します。

  • 秘密保持契約だけに頼らない
  • 権利の流れを考慮して、自社の知的財産を守るために最適な契約を熟慮して検討する
  • 知的財産の共同所有にこだわらず、どちらかの当事者のコアではないイノベーションに限定する
  • 共同開発された技術の所有権を、各当事者の事業戦略に関連する特定の分野に割り当てる

結論として、共同研究の取り決めについて、より思慮深くアプローチをとることで、長引く費用のかかる訴訟の可能性を減らすことができます。

解説

他社と共同開発を行う場合、NDAだけでは不十分です。今回例に挙げられたSiOnyxの判例はそのことを如実に物語っています。

コラボレーションをすることに急ぎすぎると、お互いがすでに持っている技術や製品、そして達成したい目的やその達成方法を十分議論する機会が得られない可能性があり、その結果、意図しない結果になり、コラボレーションのパートナーと訴訟という最悪の事態になりかねないので、重要なコラボレーションほど、時間をかけて話し合う必要があるでしょう。

その話し合いの結果、非機密技術を使用して目的を達成できる見通しが立つのであれば、それほど複雑ではない契約の元、すぐに成果が得られることでしょう。そうでない場合、別途共同開発契約(JDA)が必要になるので、新しく開発される発明がどちらに帰属するかも含め、細かい部分まで予め決めておくことで、後の訴訟リスクを軽減することができます。

様々な業種で競争が激化する中、他社とのコラボレーションをして差別化を試みる企業が増えていますが、今回のSiOnyxの事例などを事業部の社員と共有して、NDAの限界や知財の重要性、共同開発の際の正しい契約と訴訟リスクに関して共通の認識を得ることが大切になってきます。

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まとめ作成者:野口剛史

元記事著者:Michael J. Turgeon. Vedder Price PC(元記事を見る

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