機密情報を守るために今からできるNDAをより効果的に活用するための4つのステップ

企業は、買収者、コンサルタント、その他の第三者と交渉時に共有する機密情報を保護するために、機密保持契約(NDA)を日常的に使用しています。しかし、企業は単にNDAに頼って情報を保護することはできません。企業は、情報を「機密」と指定するためのNDA上の手続きを理解し(遵守を徹底し)、NDAと州の営業秘密法に関わる守秘義務を把握しなければなりません。

よくある交渉と法的な問題

あなた(当事者A)は、買収やパートナーシップの可能性を話し合うために、他社(当事者B)との間でNDAを締結したところです。NDAでは、どのような文書であっても “Confidential Information “とみなされるためには “Confidential “と指定されなければならず、また、情報が口頭で開示された場合には、開示時に “Confidential “と特定され、後に書面にして “Confidential “と指定されなければならないとします。このような文言はNDAで一般的に見られるものです。

そのようなNDAがあった状態で、当事者Bは、NDAの下で「機密」として初期の文書をいくつか作成します。その後に、最初の文書と同様の情報を含む追加の文書を作成しますが、それらの情報は「秘密」として指定されませんでした。

ここで問題です。当事者Bは、後に作成された文書の秘密扱いを放棄したのでしょうか?問題が訴訟に発展した場合、当事者間の守秘義務に関してどのような判決が下るのでしょうか?

実際の判例

これらの問題は、カリフォルニア州法を適用した連邦政府の事例である Convolve, Inc. v. Compaq Computer Corp. 527 F. App’x 910 (Fed. Cir. 2013)で争われました。当事者は、原告が被告の製品の 1 つに搭載された技術のライセンス供与を求めるライセンス交渉の目的で、機密情報を共有するために NDA (上記と同様の条件で) を締結しました。当事者は会議を行い、原告は「機密」と指定された初期文書を開示しました。その後、当事者は追加の会議を行い、原告は追加の関連文書を作成した。しかし、これらの後に作成された文書は、NDAの下で「秘密」として指定されていませんでした。

最終的に提案されていたライセンス契約は失敗に終わり、原告は、被告が後に作成された情報を独自の技術に使用したと主張し、契約違反、詐欺、企業秘密の不正流用などを主張して被告を提訴しました。

原告は、NDAの条件にかかわらず、後に作成された情報は当事者の事前の行動に基づいて「秘密」とみなされることがお互いに理解されていたと主張しました。しかし、原告の主張を退け、裁判所は、NDAの条項が当事者の意図を明確にしていると判断しました。裁判所はまた、初期生産および会議が「秘密」に指定されていたが、その後の会議は「秘密」に指定されていなかったという事実は、NDAの下で保護されるべきものが何であるかについての当事者の理解を明確に示していると判断しました。

その後、原告は、被告の守秘義務はNDAではなく、カリフォルニア州統一営業秘密法(「CUTSA」)にあり、CUTSAは営業秘密を書面で「秘密」と指定することを要求していないと主張しました。しかし、その主張も退けられ、裁判所は、書面によるNDAが当事者間の暗黙の守秘義務に取って代わるものであると判断しました。裁判所は、CUTSA を引用し、「営業秘密が秘密保持義務を生じさせる状況下で取得された場合には、不正使用が発生する」ことを指摘し、同法廷で争われている本案件では、問題となっている機密情報の秘密保持義務を生じさせる「事情」はNDAの条項に基づいていると結論付けました。裁判所は、このケースでは、問題となっている秘密情報の秘密保持義務を生じさせる「状況」はNDAの条項によって規定されたものであり、それ以外の何ものでもないと結論付けました。

Convolve判決は様々なNDA裁判に適用されている

このConvolve判決 は、その後、他の法域や異なる文脈の裁判所にも応用されてきました。例えば、Pawelko v. Hasbro, Inc. 2019 WL 259117 (D.R.I. Jan. 18, 2019)では、当事者が守秘義務を管理するNDAを締結しており、原告は被告に対して営業秘密の不正利用があったと主張しました。この判例では、被告の「業界標準の守秘義務違反」が被告の不正利用とNDA違反の状況証拠になるか?という事柄について原告の2人の専門家が証言する予定でしたが、被告がその証言を取り消す申し立てを行いました。判事は、”争点となっている業界標準の証拠は、不正利用の事実上の問題についての裁判で関連性があり、認められる可能性がある “と判断し、被告の申し立てを却下し、それを不服とした被告が連邦地裁に上訴します。

連邦地裁において、被告は、Convolve判決 を用いて、NDAの守秘義務のガイドラインが管理されているため、業界の守秘義務の基準に関する証言は無関係であると主張しました。連邦地裁判事はこの主張を受け入れ、支持しました。裁判所は Convolve 判決を引用して、「NDA は当事者間の義務を支配するものであり、NDA にはない「業界基準」を支配するものではない」と判断し、したがって「業界における機密性や不正使用の基準に関する専門家の証言は、NDA の下での主張とは無関係である」と判断しました。

判例に学ぶNDAをより効果的に活用するための4つのステップ

このようなNDAに関連する判例を見てみると、機密情報の交換と指定を規定する NDA をより効果的に使用するための以下のような 4 つのステップが見て取れます:

  1. NDA の指定手順に必ず従う。あなたが NDA をドラフトする当事者であるならば、あなたの会社が一貫して指定手順に従うことができるように指定手順を調整してください。NDA がすべての機密情報を「機密」として指定することを要求しているにもかかわらず、指定を怠った場合、機密扱いが失われたとみなされる可能性があります。
  2. 過去の行動や指定だけを頼りにして、今後の機密扱いを示唆するようなことはしない。むしろ、常に機密扱いが適用されることを書面で明示的に表示するべき。
  3. NDAがある場合、機密保持に関する「業界標準」だけに頼らない。
  4. 州の営業秘密法だけに頼って、他の当事者に守秘義務を課さない。自分の利益を保護するためにNDAや文書化されたポリシーを使用し、それに従うべき。

解説

NDAは「形式的」に行っている企業が多いのが実態だと思います。NDAはないよりもあった方がいいのですが、頻繁に「とりあえず」やっているとコンプライアンスへの意識が低くなってしまうのは人間としては仕方がないのかもしれません。

しかし、Convolve判決のようにNDAに書かれている手続きが遵守され、業界標準や常識が通用しづらい判例トレンドを知った今、NDAに示された通りの手順で、会社が一貫して従うことができるような対策をすることは重要です。

特に、リモートワークが進む中で、社内の情報の行き来が電子化され見やすくなっています。このリモートワーク改革の動きに乗じて、NDAや機密情報の取り扱いをシステム化するのもいいかもしれません。働き方が大きく変わる中、その変化と共に今までなかなか手を着けられなかったNDA対策も合わせて行えると、従業員(特に営業)の反発もなくスムーズにNDAに沿った機密情報の取り扱いを「当たり前」にすることができると思います。

まとめ作成者:野口剛史

元記事著者: Kazim Naqvi. Sheppard Mullin Richter & Hampton LLP  (元記事を見る

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