NDAを甘く見てはいけない

秘密保持契約(NDA)は頻繁に結ぶ契約書ですが、注意していないと自社で取得した特許がNDAで情報を開示した相手側の所有物になってしまう可能性があります。共同開発をする場合、NDAだけでは不足で、本格的な協力関係に入る前に共同開発契約(JDA)を結び、新しい発明の所有権を明確にしておくことが大切です。そうでないと今回の判例のように悲惨なことになりかねません。


概要

NDAに基づいて秘密情報を開示する当事者は、その特許が開示当事者から提供された秘密情報から生じたものである場合、そして、NDAの条件で、受領当事者の従業員が特許発明に貢献していたとしても、秘密情報(confidential information)から生じた特許はすべて開示当事者が所有することが規定されている場合、受領当事者が出願した米国特許および外国特許の所有権を有することができる。

判例

SIONYX LLC v. HAMAMATSU PHOTONICS K.K.

背景

SiOnyx LLCは、新たな電子特性を持つシリコンの製造プロセスの特許を事業化することを目的として設立されました。Hamamatsu社は、SiOnyx社との間で秘密保持契約(NDA)を締結し、技術の共同開発について協議し、秘密情報を受領しました。このNDAでは、機密情報に関する特許権の所有権は開示者(つまりはSiOnyx社)に帰属することを規定していました。Hamamatsu社は最終的にSiOnyx社の独自プロセスを使用しませんでした。しかし、Hamamatsu社はその後もSiOnyx社の機密情報を利用した光検出素子の開発を続け、米国をはじめとする数カ国で出願し、特許を取得しました。

Hamamatsu社が製品化を開始した後、SiOnyx社は、契約違反、不当利得(unjust enrichment)、特許侵害、米国特許の発明者性の是正(correction of inventorship)を求めてHamamatsu社を提訴しました。裁判の結果、陪審員はSiOnyxを支持し、特にHamamatsu社がSiOnyxの機密情報を使用してNDAに違反したこと、そして、SiOnyxの創設者の一人がHamamatsu社の米国特許の共同発明者であることを認めました。裁判後のmotionにおいて、SiOnyx社はさらに、Hamamatsu社の米国特許および外国特許の単独所有権の決定などの救済を求めました。連邦地裁は、Hamamatsu社の米国特許の所有権に関するSiOnyxの申し立てを認めましたが、外国特許に関する申し立ては却下しました。

控訴された連邦巡回控訴裁では、米国特許の所有権を移転する連邦地裁の決定を支持し、外国特許については判決を覆しました。連邦巡回控訴裁は、NDAの下では、契約に基づいて交換された開示当事者の機密情報から生じた特許は、開示当事者が所有していると判断しました。また、Hamamatsu社は、NDAの条件の下で、SiOnyx社から転用した情報以外の機密情報を特許に提供したという証拠を示すことはできませんでした。裁判所は、陪審員が共同発明者(co-inventorship)であると認定したことは、浜松の従業員が請求された発明に貢献したことを暗示している可能性があると指摘しましたが、発明者(inventorship)であることと所有権があること(ownership)を区別しました。さらに、従業員の権利は、NDAの契約当事者であるHamamatsu社に移転したと判断しました。また、SiOnyx社の機密情報を基にした請求項を、Hamamatsu社の従業員の貢献により変更したことは、衡平法上の救済(equitable remedy)を否定するものではないと判断しました。Hamamatsu社の外国特許については、連邦巡回控訴裁は、SiOnyxが米国特許を単独で所有していたことを証明する証拠が外国特許の所有権にも適用され、連邦地裁はHamamatsu社に対する裁判所の権限の行使として外国特許の所有権の移転を強制することができると判断しました。

解説

NDAは様々な場面で使われ毎日のようにNDAが結ばれていますが、今回の判例を見るとNDAの文言は注意深く見る必要があり、法務や知財のレビューがあるべきでしょう。特に、今回のような共同開発(または共同研究)の話がある場合、NDAの文言には注意する必要があります。また、共同開発を行うのであれば、NDAの間に共同開発契約(JDA)の協議を行い、JDAがNDAを上書きする形で知財周りの規約を明確にすることが望ましいです。さらに理想を言えば、実際にJDAが締結されるまでは実際の共同開発作業は行わず、技術的な秘密情報(confidential information)の交換は必要最低限にするのがベストでしょう。

今回のケースは、共同開発にも関わらずNDAしか結ばれておらず、また、秘密情報も一方的に与えられているだけで、NDAにおいて明確に特許権の所有権の帰属が示されていた、というある意味「特殊」なケースです。しかし、裁判ではHamamatsu社がSiOnyx社の秘密情報を悪用し自社の特許にしたというような印象があり、そのためHamamatsu社に対してかなり不利な判決になっています。

このような「最悪な状況」にならないためにも、NDAにサインする前には法務や知財がチェックを行い、共同開発や共同研究が予定されているのであれば、NDAにとどまらず、JDAも作成し、共同開発・研究から生まれる新しい発明に対する所有権がどちらの当事者に帰属するのかを明確に決めておくべきでしょう。

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まとめ作成者:野口剛史

元記事著者: Makoto Tsunozaki, Ph.D. and Nicole R. Townes. Knobbe Martens(元記事を見る

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