知財が関わる買収と競争当局の関係

ある一定の条件を満たす知財権の買収は一部のM&Aと同じように競争当局への報告義務があります。アメリカでは競争当局(competition authority)として Federal Trade Commission (FTC)と United States Department of Justice (DOJ)がありますが、両当局とも、M&Aに適用される同じ法律の下、知財権の関わる買収も取り扱います。

また、通常の知財権が関わるM&Aの他にも、exclusive patent licenseや商標ライセンスも一定の条件を満たす場合、Hart-Scott-Rodino Antitrust Improvements Act of 1976 (HSR Act) のもと競争当局が関わる場合もあります。一般的に通常のnon-exclusive ライセンスに対する競争当局はほぼありませんが、2013年に、FTCがほぼすべての権利を移行するnon-exclusive pharmaceutical patent licensesに関しては報告の義務があるということを示しました。

通常のM&Aと知財が関わるM&Aにおける当局の対応の違い

原則はどちらのケースでも変わりません。しかし、知財の買収の場合、当局は競争への影響を上流のテクノロジー市場から製品の市場まで幅広い分野で調査を行うことがあります。

また、場合によっては、買収によるR&Dへの影響も考慮されます。しかし、R&Dへの影響を懸念する動きは製薬業界にしか今のところなく、他の業界におけるM&Aの場合、R&Dへの影響という点はほぼ考慮されません。

競争当局が知財の関わるM&Aを承認しない場合とは?

 知財の関わりがあってもなくてもM&Aによる競争への影響を評価する原則は同じです。

例えば、同業者が合併する場合、知財の所有権が1つにまとまることにより、テクノロジーのレイヤーで競合関係だった同業者同士の競争がなくなり、そのことによって、競争が減少することは懸念される点の1つです。

また、合併による知財権の統一で、競合他社へライセンスを行うインセンティブがどう変わるのかなどもよく評価される点です。

具体的には、2011年と2012年に、DOJ が standard-essential patent (SEP)やOpen-source製品に関わる特許を含む大きな特許ポートフォリオの移行が含まれる取引について調査を行いました。最終的には、DOJ はその取引を了承しましたが、新しい権利者が今後のライセンスへの取り組みを公に示したことで、承認が得られたようです。

競争当局がM&Aに難色を示した場合

知財が関わるM&Aも通常のM&Aと同様に売却や行動による救済措置が行われます。

例えば、合併する会社の1つが関連する市場への参入を妨害するような特許を持っていた場合、合併における競争の低下を抑えるため、合併した会社に参入を妨害している特許を新規参入者にライセンスするように求めることもあります。

また、反競争的なM&Aによっては、知財などの財産を売却するように命令する場合もあります。

また、上記の例のように、SEPやOpen-source製品に関わる特許など重要な特許を競合他社も含む企業や組織にライセンスしていくという方針を明確に、公の場で示すことを要求されることもあります。

まとめ作成者:野口剛史

元記事著者: Kate M. Watkins and Lisa Kimmel. Crowell & Moring LLP (元記事を見る

ニュースレター、公式Lineアカウント、会員制コミュニティ

最新のアメリカ知財情報が詰まったニュースレターはこちら。

最新の判例からアメリカ知財のトレンドまで現役アメリカ特許弁護士が現地からお届け(無料)

公式Lineアカウントでも知財の情報配信を行っています。

Open Legal Community(OLC)公式アカウントはこちらから

日米を中心とした知財プロフェッショナルのためのオンラインコミュニティーを運営しています。アメリカの知財最新情報やトレンドはもちろん、現地で日々実務に携わる弁護士やパテントエージェントの生の声が聞け、気軽にコミュニケーションが取れる会員制コミュニティです。

会員制知財コミュニティの詳細はこちらから。

お問い合わせはメール(koji.noguchi@openlegalcommunity.com)でもうかがいます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

OLCとは?

OLCは、「アメリカ知財をもっと身近なものにしよう」という思いで作られた日本人のためのアメリカ知財情報提供サイトです。より詳しく>>

追加記事

企業機密
野口 剛史

提携会社によるデータブリーチリスクのアンケード調査

2018年11月, Ponemon Instituteという会社が1000以上のITセキュリティ専門家から得られたアンケート調査を元に提携会社によるデータリスクに関するレポートを発表しました。このレポートによると、提携会社によるデータブリーチへの関心は高いものの、実務的なレベルでの対応策が後れています。

Read More »
rejected-trash
再審査
野口 剛史

並行訴訟の非侵害確定でIPRの控訴が認められず

申立人によるIPRの控訴は「当たり前」のように行われていますが、特殊な事実背景によっては、IPRの控訴が認められない可能性があります。今回紹介する判例では、並行している特許訴訟における非侵害の判決と、その後の特許権者による非侵害判決の非控訴によって、IPRの控訴ができなくなってしまいました。

Read More »
訴訟
野口 剛史

アメリカ初の著作権小額訴訟法廷誕生間近

米国著作権局は、米国初の著作権小額訴訟法廷である「Copyright Claims Board (CCB)」を作り、そのウェブサイトを開設しました。CCBが実際に稼働するのは今年夏の予定ですが、それに先駆けて関連する情報を公式サイトで提供しはじめました。

Read More »