契約における知財保証の対応責任と保証責任

知財や技術に関する契約のほとんどに項目として入っている知財保証(IP Indemnification )について見ていきます。

背景:

知財保証は、当事者同士の必要から、ほぼすべての知財系の契約に存在する項目です。技術ライセンスを受ける側としては、それを提供するライセンシーが第三者による知財クレームの対応をし、継続してライセンスを受けた技術を(コストを上げないで)使えるようにしたい思惑があります。また、ライセンスを提供するライセンシーとしては、提供する技術に対する知財訴訟をコントロールして、ライセンシーが許可なしに和解したり、知財の価値を下げるような行動をおこさないようにしたいという思惑があります。

知財保証は一般的ですが、その文言がどのように書かれているかにより、ライセンスを受け使用する側(ライセンシー)とライセンスを提供する側(ライセンサー)の訴訟リスクが変わってきます。今回は、知財保証の対応責任と保証という点について話します。

対応責任 (Responsibility to Defend)

上でも説明した通り、知財保証のほとんどには第三者の知財クレームに対する対応責任があります。しかし、どのような文言が使われるかによって、対応責任に対する見込まれるコストやリスクが異なってきます。例えば契約に含まれる知財権が世界を対象にしたもの7日、アメリカに限定したものなのか、特許の他に、商標や著作権、機密情報も含むのか?また、対応責任には、代理人を選ぶ権利が含まれているのか、ライセンシーが独自の代理人を選んだ場合、どちらが支払うのか?また、和解をする場合、ライセンシーが独断で決められるのか、それとも、ライセンシーも知財コストの増加などを理由に和解を妨害することができるのか?など考える点は数多くあります。

ここで、よくある対応責任の文言に対する問題点を見てみましょう。一般的な知財保証の1つとして、ライセンシーがライセンスを受けている知財に関わるクレームをライセンサーに知らせる義務と、知財訴訟に関してライセンシーに協力する義務が示されていることがよくあります。このような文言の問題点を上げるとすると、ライセンシーに知らせるタイミングや協力する際に発生する費用の負担責任が不明確な場合が多いです。また、文言にライセンサーによる免責がライセンシーの報告の義務と協力の義務が満たされた際に行われる( “provided that”という文言が入っている)場合、ライセンシーが報告や協力を行わない場合、ライセンサーによる免責が受けられない場合があります。

保証責任 (Indemnification Responsibilities)

どの免責・保証でも同じですが、使用者(ライセンシー)としては、知財侵害に関わる免責・保証の範囲が広く、手厚く保障されることを望みます。例えば、第三者によるクレームに関連した損害、費用、被害、支払いなどの保証を求めるかもしれません。反対に、提供者(ライセンサー)としては、損害や和解金などの保証を制限し、派生費用などの二次的な被害に対する保証をしたくないと考えます。どこでお互いの保証責任に線を引くか(つまりどちらがどのようなビジネスリスクを負うか)は、交渉における重要なポイントです。

まとめ:

知財保証は一般的ですが、文言によっては、対応責任や保証責任のリスクが異なります。知財保証を含む契約を結ぶ場合、知財保証に関して十分交渉し、リスク管理をおこなうことが大切です。

まとめ作成者:野口剛史

元記事著者:Peter M. Watt-Morse and Michael R. Pfeuffer. Morgan Lewis & Bockius LLP(元記事を見る

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