新型コロナウイルス(COVID-19)のリスクを軽減する戦略の1つとして、自宅から働いていても契約がスムーズに行くよう電子署名の活用が注目されています。アメリカでは2000年の法改正から電子署名が広く使えるようになりましたが、今回の惨事でより普及率が高まりそうです。
今が変えるチャンス
手書きの署名がスタンダードとしている会社は、法律でそのようにしているというよりも、前からの習慣でそのようにしているところが大半です。しかし、COVID-19の影響で実際に人が会って契約を結ぶことが困難になった今日、法律で可能であれば、電子署名に切り替えることによって、不必要な人との接触を省け、リモートワークであっても作業の効率を高めることができます。
注意点
電子署名に関する法律は国ごとに様々なので、アメリカの組織以下との契約を行う場合、関係する国や地域におけるルールを分析し、電子署名を行えるかを確認する必要があります。例えば、他の国では、特定のセキュリティープロトコルを使った技術を用いて電子署名を行わなければいけないなどの決まりがあるところもあります。また、国単位ではなく、現地の地域レベルでの規制もあるかもしれません。
アメリカの法律ではほとんどの商用書類の契約に電子署名が使える
アメリカで電子署名に関わる法律はElectronic Signatures in Global and National Commerce Act (ESIGN), 15 U.S. Code §§ 7001 et cet. (連邦レベルの法律)とUniform Electronic Transactions Act (UETA)という47の州とDCが(一部変更して)適用している州法のモデルがあります。注意: New Yorkなどの一部の州はUETAを適用せず、独自の電子署名に関する法律を作っています。
これらの法律では、電子署名(electronic signatures)が通常の自筆の署名(“wet ink” signatures)と同じ法的なステータスを持っているとされています。それにより、例外や他の法律が自筆の署名などを必要としない限り、ほとんどの商用書類の契約に電子署名が使えます。
ESIGNとUETAでは技術の特定はなし
ESIGNとUETAでは電子署名に対して特に形式を特定してはいません。また、UETAのコメントを見ると、有効な署名を作るために特定の技術を使う必要はないと書かれています。
つまり、極端な話、当事者同士が電子署名の使用に合意していれば、スキャンされたまたは電子化されたPDFに書かれた署名は、電子署名として認識されます。また、 “I accept”など同意を示すようなボタンをクリックした場合でも有効な電子署名として認められます。
電子・リモート公証(notarization)が有効かは州によって異なる
ESIGNとUETAは、適用される州法の条件をクリアーできていれば、電子プロセスによる公証を認めています。
公証とは?: JETROによるアメリカのサイン証明に関する説明を参考にしていください。
つまり、電子プロセスによる公証が可能かどうかは、関わる州のnotary lawによります。リモートで公証ができるような法整備も進んでいて、The National Notary Associationという団体が関連法のリストや適用の状況に関して州単位での情報を公開しています。
プロセスが大切
電子署名を進めていく際に大切なことは、将来に契約が問題になったときに証拠として提出した際の様々な攻撃に耐えられるようにすることです。電子署名を導入する際、それぞれの契約時の状況を踏まえ、プロセスを導入していく必要があります。最小限、どのように契約する当事者の身元や書類のコンテンツを認証するかなどをプロセスに織り込むことが必要です。
解説
今回紹介した記事は、知財に特化した内容ではないので、多少一般的ではありますが、知財における契約にも応用できるものだと思ったので紹介しました。アメリカに関わる知財案件の場合、出願や訴訟は代理人がいるので、署名に関しての問題はあまりないと思いますが、大きなところでは、ライセンスを含めた契約関係だと思います。
JDAや訴訟の和解契約、大口のライセンス契約などは金額やリスクの面から必ずしも電子署名にする必要はないと思いますが、NDAなど頻繁に結ぶ契約であれば、電子署名にすべて移行しても問題ないと思います。
特にアメリカの場合、電子署名ができる契約であれば、特に特別なツールはいらないので、まだ紙ベースで契約書を取り交わしているなら、ボリュームが多く、知財や法律面でのリスクが低いものから電子化を導入するにはいいタイミングかもしれません。
また、Kilpatrickでは、COVID-19に関する様々な法律系の情報を専用ページを設けて配信しています。雇用に関することから知財、プライバシー、税金まで幅広くカバーしています。
まとめ作成者:野口剛史
元記事著者: Joshua S. Ganz, Christina M. Gattuso, Jon Neiditz, Amanda M. Witt, Vita E. Zeltser and John M. Brigagliano. Kilpatrick Townsend & Stockton LLP (元記事を見る)