意匠特許の自明性判断に関する重要な大法廷判決。意匠特許の実務に大きな影響を与えると予想。解説:Rosen-Durlingテストの背景、LKQ Corp. v. GM Global Tech. Operations事件の概要、CAFCの大法廷判決の内容、今後の影響と考察。

意匠の常識が変わる:CAFC大法廷が意匠特許の自明性判断により柔軟な判断基準を採用

2024年5月21日、米国の連邦巡回区控訴裁判所(United States Court of Appeals for the Federal Circuit、CAFC)は、LKQ Corp. v. GM Global Tech. Operations事件において、意匠特許(design patent、デザイン特許)の自明性(obviousness)判断基準に関する重要な大法廷判決(en banc)を下しました。この判決は、意匠特許の有効性を評価する際に長年用いられてきたRosen-Durlingテストを覆すものであり、意匠特許の実務に大きな影響を与えると予想されます。

Rosen-Durlingテストは、1982年のIn re Rosen事件と1996年のDurling v. Spectrum Furniture Co.事件に由来する2段階の判断基準で、意匠特許の自明性を判断する際に、主要先行技術(primary reference)が出願デザインと「基本的に同一」であることを要求するなど、厳格な基準を設けていました。しかし、今回の大法廷判決は、このテストが不適切に厳格的であり、2007年の最高裁判所によるKSR International Co. v. Teleflex Inc.事件の判決で示された自明性判断の基準に沿っていないと判断しました。

CAFCは、意匠特許の自明性判断においても、実用特許(utility patent)の場合と同様に、より柔軟なアプローチを採用すべきであると結論付けました。この新たなアプローチでは、主要先行技術が出願デザインと「基本的に同一」である必要はなく、より広い範囲の先行技術が考慮されます。また、複数の先行技術を組み合わせる動機付けも、先行技術自体だけでなく、当業者の常識や設計上の需要など、様々な観点から評価されます。

この判決は、意匠特許の有効性の判断基準に大きな変更をもたらすものであり、今後の意匠特許の出願や訴訟に重要な影響を与えると予想されます。本稿では、Rosen-Durlingテストの背景、LKQ Corp. v. GM Global Tech. Operations事件の概要、CAFCの大法廷判決の内容、および今後の影響と考察について詳細に解説します。

40年以上続いたRosen-Durlingテストの背景

Rosen-Durlingテストは、意匠特許の自明性判断において40年以上にわたり用いられてきた2部構成のテストであり、1982年のIn re Rosen事件1996年のDurling v. Spectrum Furniture Co.事件に由来しています。このテストの第1部(Rosen)は、「主要先行技術(primary reference)」の選定に関する基準を定めており、第2部(Durling)は、「副次的先行技術(secondary reference)」の適用に関する基準を定めています。

第1部(Rosen): 主要先行技術は、クレームされたデザインと「基本的に同一」でなければならない

Rosen-Durlingテストの第1部では、主要先行技術として選定される先行デザインが、クレームされたデザインと「基本的に同一(basically the same)」でなければならないと規定しています。この「基本的に同一」の基準は、かなり高いハードルであり、クレームされたデザインと主要先行技術との間に実質的な類似性が要求されます。

第2部(Durling): 副次的先行技術は、主要先行技術と「密接に関連」していなければならない

第2部では、主要先行技術が特定された後、その主要先行技術を修正するために用いられる副次的先行技術が、主要先行技術と「密接に関連(so related)」していなければならないと規定しています。つまり、副次的先行技術に示される特徴を主要先行技術に適用することが自然に示唆されるような関連性が必要とされます。

適格な主要先行技術が見つからない場合、自明性の分析が早期に終了するという厳格な要件

Rosen-Durlingテストの最も特徴的な点は、適格な主要先行技術が見つからない場合、自明性の分析がそこで終了してしまうという厳格な要件です。言い換えれば、クレームされたデザインと「基本的に同一」の先行デザインが存在しない場合、たとえ複数の先行技術を組み合わせることでクレームされたデザインに到達できたとしても、自明性における拒絶や無効化が認められないことになります。

この厳格な要件により、Rosen-Durlingテストの下では、意匠特許の自明性を立証することが非常に困難となっていました。この点が、今回のCAFCの大法廷判決において、Rosen-Durlingテストが不適切に硬直的であると判断された主な理由の一つです。

LKQ Corp v. GM Global Tech. Operations事件

本事件の発端は、GM Global Technology Operations LLC(以下、GM)が所有する意匠特許D797,625に関するものでした。この特許は、2018年から2020年のシボレー・エクイノックス車両のフロントフェンダーのデザインを保護するものです。

LKQは当該特許に対してIPR(当事者系レビュー)を請求し、先行技術に基づく自明性を主張

LKQ Corporation及びKeystone Automotive Industries, Inc.(以下、LKQ)は、GMの意匠特許D797,625に対して、米国特許商標庁(USPTO)の特許審判部(PTAB)に当事者系レビュー(IPR)を請求しました。LKQは、先行意匠特許であるD773,340(通称「Lian」)単独、あるいはLianに2010年のヒュンダイ・ツーソンのフロントフェンダーのデザインを開示した販売用カタログを組み合わせることにより、D797,625号特許のデザインが自明であると主張しました。

PTABはRosen-Durlingテストに基づきLKQの自明性の主張を退け、「基本的に同一」の主要先行技術がないと判断

PTABは、Rosen-Durlingテストを適用し、Lianが主要先行技術として「基本的に同一」のデザインを開示していないと判断しました。具体的には、Lianとクレームされたデザインとの間には、車輪アーチの形状、ドアカットラインの位置、特徴的な凹凸や湾曲など、複数の相違点が存在すると指摘しました。その結果、PTABはLKQの自明性の主張を退け、D797,625特許が自明ではないと結論付けました。

CAFCの3人の判事による審議は、Rosen-Durlingの先例を認め、PTABの判断を支持

LKQはPTABの決定を不服としてCAFCに控訴しました。しかし、3人の判事による審議(通常のCAFCによる審議の体制、今回のen banc とは異なる審議)は、先例であるRosen-Durlingテストを有効なテストと認め、PTABの判断を支持しました。よってこの時のCAFCの判決は、最高裁判所からRosen-Durlingテストを覆す明確な指示がない限り、下級審としてこの先例に従う必要があると判示していました。

CAFCの大法廷がKSR判決に照らしてRosen-Durlingテストを再考するため事件を再審理

LKQは、CAFCの大法廷に対して再審理を請求しました。LKQは、2007年の最高裁判所によるKSR International Co. v. Teleflex Inc.事件の判決が、Rosen-Durlingテストの有効性に影響を及ぼすと主張しました。CAFCは、KSR判決がRosen-Durlingテストに与える影響を検討するため、本事件の再審理を認めました。これにより、意匠特許の自明性判断基準に関する重要な判断が下される舞台が整いました。

CAFCの大法廷判決

CAFCの大法廷は、Rosen-Durlingテストがデザイン特許の自明性判断において不適切に厳格であり、最高裁判所のKSR判決で示された自明性の判断基準と矛盾すると判断しました。多数意見(majority opinion)は、Rosen-Durlingテストが特許法第103条の広範かつ柔軟な自明性の基準と相容れないことを指摘し、同テストを覆しました

意匠特許の自明性判断に、実用特許の基準に沿ったより柔軟な枠組みを採用

「基本的に同一」の要件に代わり、主要先行技術の類似技術テストを導入

多数意見は、主要先行技術がクレームされたデザインと「基本的に同一」である必要はないとし、代わりに類似技術テスト (analogous art test) を導入しました。この新たなテストでは、先行意匠がクレームされたデザインと同一の分野に属するか、あるいは関連する分野に属する場合、主要先行技術として認められます。

動機付けは、先行技術自体だけでなく様々なソースに基づき得る

多数意見は、KSR判決に従い、複数の先行技術を組み合わせる動機付けが、先行技術自体だけでなく、当業者の常識、設計上の需要、市場の圧力など、様々なソースに基づき得ると指摘しました。

クレームされたデザインと先行技術との差異は視覚的に評価される

多数意見は、クレームされたデザインと先行技術との差異を評価する際、デザイン全体の視覚的印象を比較すべきであると指摘しました。この評価は、当業者の観点から行われるべきであるとしています。

2次的考察(商業的成功、模倣等)は依然として関連性を有する

多数意見は、Graham判決で示された2次的考察、すなわち商業的成功、長年の未解決のニーズ、他者の失敗など、自明性の間接的な証拠が、意匠特許の自明性判断においても引き続き関連性を有すると確認しました。

一定の不確実性は認めつつも、Rosen-Durlingテストは法の条文と判例法の趣旨に合致しないと判断

多数意見は、Rosen-Durlingテストを覆すことで一定の不確実性が生じる可能性を認めつつも、同テストが特許法の条文と最高裁判所の判例法の趣旨に合致しないと結論付けました。

同意見は結論に同意しつつ、Rosen-Durlingテストは覆すのではなく修正すべきだったと指摘

ローリー判事(Circuit Judge Lourie)の同意見(concuring opinion)は、多数意見の結論に同意しつつも、Rosen-Durlingテストを完全に覆すのではなく、KSR判決に沿って修正すべきだったと指摘しました。同意見は、Rosen-Durlingテストの基本的な枠組みは正しいが、その適用において柔軟性を欠いていたと述べています。

今後の影響と考察

意匠特許の取得はより困難に、無効化はより容易になる可能性

CAFCの大法廷判決は、意匠特許の自明性判断基準を大きく変更するものであり、今後の意匠特許の取得と無効化に重大な影響を与える可能性があります。より柔軟な基準の下では、意匠特許の取得がより困難になる一方で、既存の意匠特許の無効化がより容易になることが予想されます。

より広範な類似先行技術を考慮する必要性

新たな判断基準では、主要先行技術の選定において、「基本的に同一」という高い基準が撤廃されました。これにより、意匠特許の出願人と権利者は、より広範な類似先行技術を考慮する必要性に迫られます。先行技術調査の範囲を拡大し、関連するデザインの分野まで調査することが重要になるでしょう。

戦略的なクレーム作成と非類似技術の主張が出願人にとって重要な課題に

出願人は、先行技術との差異が明確になるようなクレームを戦略的に作成することが求められます。また、審査段階で、クレームされたデザインと先行技術が非類似であることを主張し、自明性の拒絶理由に対抗することがより重要になります。

特許の有効性に異議を唱える際、無効審判請求人は自明性の理由を活用すべき

特許の有効性に異議を唱える者にとって、新たな判断基準は追い風となります。無効審判請求人は、より広範な先行技術を組み合わせて自明性を主張することが可能になります。IPR(当事者系レビュー)などの無効化手続きにおいて、自明性の理由をより積極的に活用すべきでしょう。

新たな基準が確立されるまでの間、当面は一定の不確実性が増大する

CAFCの判決は、意匠特許の自明性判断に関する新たな基準を示しましたが、その具体的な適用方法はまだ明確ではありません。今後、下級審の判断や USPTOの審査実務を通じて、新たな基準が確立されていくことになります。この過渡期においては、一定の不確実性が増大することが予想されます。

新たな枠組みの運用次第で、デザイン・イノベーションへの影響が変わる

新たな自明性の判断基準が、デザイン・イノベーションにどのような影響を与えるかは、今後の運用次第で大きく変わることが予想されます。より柔軟な基準は、一方では模倣的なデザインの排除に寄与する可能性がある一方、真に革新的なデザインの保護を困難にする恐れもあります。そのためバランスの取れた運用が今後求められてくることになります。

意匠特許の自明性判断に関するCAFCの大法廷判決は、デザイン特許の実務に重大な影響を与えるものです。特許の出願人、権利者、無効化を求める者は、新たな判断基準を踏まえて、適切な対応を取ることが求められます。また、新たな基準の運用が、デザイン・イノベーションに与える影響にも注視が必要です。

結論

今回のCAFCの大法廷判決は、意匠特許の自明性判断基準を大きく変更するものであり、意匠特許の実務に重大な影響を与えると予想されます。より柔軟な基準の導入により、意匠特許の取得と維持がより困難になる一方、無効化がしやすくなることが予想されます。

この判決を受けて、特許の出願人、権利者、無効化を求める競合は、新たな判断基準に適応した戦略を検討する必要があります。また、新たな基準の運用が、デザイン・イノベーションの促進と保護のバランスに与える影響についても注視が必要です。意匠特許の実務関係者は、この重要な判決の影響を十分に理解し、適切な対応を取ることが求められています。

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