Covenant Not to Sueが特許訴訟を遅らす

アメリカでは特許ライセンスにおける問題がライセンサーとライセンシーの特許訴訟に発展することがありますが、今回は契約の際のCovenant Not to Sueが特許訴訟手続きを遅らせることになりました。

バックグラウンド

この案件のきっかけは、Laser Band社がWard Kraft社に特許で守られたいくつかの製品の製造と販売を許可した契約から始まります。この契約には、両社によるCovenant Not to Sueと契約に関連する問題はすべてthe United States District Court for the Eastern District of Missouri, Eastern Divisionに提出するというForum selectionに関する規約が定められていました。この契約の大部分は特許の権利満了と共に失効するものでしたが、上記のCovenant Not to SueとForum selectionは特許満了後も有効とされていました。

その後、Zebra社はライセンサーであるLaser Band社を買収し、特許侵害も含めたクレームでWard Kraft社とTypenex Medical社をイリノイ州で訴えます。

その訴訟に対しWard Kraft社とTypenex Medical社は、Covenant Not to Sueがあるため無効と反論。また、両社は契約違反をMissouri州で訴え、Zebra社による訴訟は上記の契約に関わるものであることを判決するようdeclaratory judgmentを求めました。それと同時に、Ward Kraft社は、Missouri州の裁判が終わるまで、Zebra社によるイリノイ州での訴訟の一時停止を裁判所に求めました。

この一時停止の求めを受け、Zebra社が反論。Zebra社は、特許訴訟で問題になっている製品はライセンス契約には関係ないこと、また、関連があったとしても、Covenant Not to SueやForum selectionは元々の契約当事者であるLaser Band社とWard Kraft社にしか適用されないと主張しました。

判決内容

イリノイ州における特許訴訟の一時停止を判断するために、裁判所は以下の3つの点を考慮しました。

(1) unduly prejudice or disadvantage Zebra,
(2) simplify the issues and streamline the case, and
(3) reduce the burden of litigation on the parties and the Court.

第1のZebra社への不当な不利益ですが、認められませんでした。その理由として、裁判所は、訴訟の遅延だけでは十分な理由にならないこと、Zebra社はpreliminary injunctionなどの緊急処置を求めていなかったこと、Zebra社は侵害の事実を訴訟を起こす2年前から知っていたことなどを挙げました。

第2の案件の簡素化ですが、裁判所はMissouri州の裁判で結論が出れば、イリノイ州での訴訟が簡素化される、または、イリノイ州での訴訟そのものがなくなるとしました。

最後の当事者と裁判所の負担軽減ですが、 covenant not to sueが適用される場合、イリノイ州における訴訟が大きく簡素化され負担が軽減されるのは明白なので、そのような負担の軽減は、当事者や裁判所の負担軽減につながるとしました。

このような分析の結果、Missouri州における判決が下るまで、イリノイ州における訴訟の一時停止が認められました。

教訓

契約を結ぶ際に、契約期間が終わった後にでも効果が継続する規約に注意する必要があります。上記のようなForum selectionやchoice of lawなどの項目は一見重要ではないようにみえますが、訴訟の際に訴訟に大きな影響を与える可能性があります。

場合によっては、今回のように裁判所が訴訟を一時停止する可能性があるので、訴訟を止めたくない場合、上記の3つの点を考慮した際に一時停止するべきではないと判断されるような証拠を早めに集めておくことが大切です。

まとめ作成者:野口剛史

元記事著者: John C. Paul, D. Brian Kacedon, Cecilia Sanabria, Clara N. Jimenez and Safiya Aguilar. Finnegan, Henderson, Farabow, Garrett & Dunner LLP(元記事を見る



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