通常特許の権利行使を受けた際、IPRやPGRといったシステムを使って特許庁(PTAB)で問題の特許の再審査を行うことができます。しかし、ライセンス契約等でそのようなPTABにおける再審査を受ける権利を放棄することは可能なのでしょうか?
背景
ライセンス契約で、ライセンシーは以下の文言に同意していました。
6.4 MerchSource shall not (a) attempt to challenge the validity or enforceability of the Licensed IP; or (b) directly or indirectly, knowingly assist any Third Party in an attempt to challenge the validity or enforceability of the Licensed IP except to comply with any court order or subpoena.
また、その契約書にはforum selection clauseもあり、すべての論争に関してカリフォルニア州の裁判所で取り扱う旨が書かれていました。
THE PARTIES AGREE THAT … DISPUTES SHALL BE LITIGATED BEFORE THE COURTS IN SAN FRANCISCO COUNTY OR ORANGE COUNTY, CALIFORNIA.
しかし、ライセンシーは特許が無効という主張からロイヤルティーの支払いを止めます。その対策として、ライセンサーである特許権者は契約に従いN.D.Cal. Federal Courtにおいて、特許侵害と契約違反でライセンシーを訴えます。
その後、ライセンシーは特許を無効にするため問題になっていた特許に対してIPRとPGRを特許庁に申請しますが、連邦地方裁判所がIPR/PGRの申し出を取り下げるよう仮差止の命令を下しました。これを不服にライセンシーは仮差止の命令をCAFCに上訴します。
特許無効に関する争いは契約が発端だった
しかし、Dodocase Vr, Inc. v. Merchsource, LLC (Fed. Cir. 2019) において、CAFCは地裁の判決を是正しました。その理由として特許無効に関する争いはライセンス契約がきっかけで起こった問題なので、契約の規約上、カリフォルニア州の裁判所で取り扱うべきであるということを示しました。その際に、CAFCが引用した判例は2000年の Texas Instruments Inc. v. Tessera, Inc., 231 F.3d 1325 (Fed. Cir. 2000)でした。
CAFCは今回の判決をnon-precedential(判例として扱わない)としましたが、以下の2つの点で重要です。
CAFCは特許の有効性に関する問題は原則、契約のforum selection clauseに従うべきという考え方であること。
引用されたTexas Instrumentsの時代にはAIAによるPTABでの再審査制度がなかったこと。Texas Instrumentsの判例ではITCへの申し立てが問題になっていましたが、今回はforum selection clauseがPTABにおける再審査を制限するものなのかが問題になっています。
現在、この案件はen bancによる公判の申請中です。
まとめ
ライセンス契約では、よくこのDodocase の案件で起きたような問題が発生します。アメリカでは幅広いことがらが契約で決められるので、特許ライセンスをアメリカの法律の下、行う際は、ロイヤルティー等の他にも(1)契約でIPRで特許を無効にする権利を放棄することはできるのか?、(2)またできる場合、どのような状況下でなら放棄できるのか?、(3)その場合の適切な契約の文言はどのようなものか?などを最新の判例も考慮しながら検討していく必要があります。
まとめ作成者:野口剛史
元記事著者:Dennis Crouch. Patently-O(元記事を見る)