AI革命における知的財産の課題と機会

人工知能(AI)は、21世紀において最も変革的なテクノロジーのひとつとなりました。AIは、知的財産(IP)の創造と保護の方法に革命をもたらし、知的財産の専門家やコンテンツ制作者に課題(challenges)と機会(opportunities)の両方をもたらしています。AIが生成した創作物やAIが支援する発明がますます普及するにつれて、すべての利害関係者が知的財産権の保護、執行、収益化への影響を理解し、それに応じて適応することが極めて重要です。

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AIが生み出す創作物の増加とそれに伴う知財の問題

音声、コード、画像、テキスト、音楽、シミュレーション、動画などのコンテンツを作成できる生成的AIアルゴリズム(Chat GPTやGoogle Bardなどの大規模言語モデル(「LLM」)を含む)の出現は、最近の最も重要な動きの一つです。このようなAIが生成する創造的な作品は、従来の知的財産概念の境界を押し広げ、知的財産の所有権と保護に関する重要な問題を提起しています。

著作権に関する2つの大きな問題

著作権法にとって、ジェネレーティブAIの利用は、文章コンテンツやアートワークを含む著作物(オリジナルの著作物を保護するもの)の創作と流通に大きな影響を与えることでしょう。現在の法律では、コンピュータは創作プロセスを補助する道具であると考えられているため、コンピュータを使用して作品が作成された場合も含めて、人間の創作者に著作権が認められていますが、AIが生成した作品はこの「今までの常識」に疑問を投げかけており、そのようなAIが生成した作品の著作権を誰が所有するのかについて熱心な議論が行われています。著作権はAIに入力を提供した人に帰属すべきなのか、AI開発者に帰属すべきなのか、はたまたAI所有者自身に帰属すべきなのか、この議論の結論は次世代の著作権に大きな影響を与えることでしょう。

さらに、AIによって生成された作品の独創性についても考慮しなければなりません。作品の大部分は人間の入力なしにAIによって生成されるため、機械が生成した作品には著作権保護に必要な人間の創造性が欠けているのでは?という議論もあります。この議論に関しては、アウトプットは著作権で保護されるべきではなく、誰でも自由に使用できるようにすべき、という主張をよく見ますが、慎重な議論が求められる部分でもあります。極論を避ける代替的立場としては、AIが生成した作品は、人間の入力と指導の結果であれば独創的でありうるという考え方もあると思われます。未だに明確な指針や方針がない状況ですが、生成AIによる作品の急増とその商業的重要性を考えれば、議会や’裁判所が必ずこれらの疑問に対する答えを早急に示すことが期待されています。

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特許に関する発明者問題

また、AIは特許法にも大きな影響を与えています。

AIは新しい発明の開発を容易にしており、AIはその過程で先行技術の大部分を考慮に入れて新しい特許発明を見出すことができるようになるでしょう。アイデアを思いつき、そのアイデアを口述し、AIを使って特許出願を行うというアイデアは、かつてはSF小説の世界だったかもしれませんが、今や現実のものとなりつつあります。とはいえ、その反面、AIが新たな特許の氾濫をもたらすという懸念もあります。企業が特許の状況を把握し、潜在的な抵触や侵害のリスクを特定することがより困難になる可能性があるため、企業の技術革新が困難になるかもしれません(もちろん、企業はこの問題を回避するためにAIを利用するかも知れませんが…)。

また、著作権法と同様に、発明プロセスへのAIの関与が増え続けることで、特許法上、誰が発明者とみなされるべきかという問題も生じます。これは特に、AIシステムが既存の知的財産に対してトレーニングされた場合に関連し、発明が真に新規かつ非自明であるかどうかを判断することが困難になる可能性があります。

このような疑問のいくつかは、既存の知的財産法の枠組みに基づいて最近検討されています。

米国では、スティーブン・ターラー(Stephen Thaler)が開発したAIシステムによって生み出された新規な発明(ドリンクホルダー装置と非常灯ビーコン)の特許を、AIを発明者として、出願しました。しかし、米国特許商標庁(USPTO)は、特許は人間の発明者にしか付与されないという理由で特許の付与を拒否しています(USPTOの決定はバージニア州東部地区裁判所によって支持され、最近、連邦最高裁判所はThalerの上訴を却下しました)。興味深いことに、ターラーは英国最高裁判所への上告許可を得ており、英国最高裁判所の判決が待たれるところでもあります。) ターラーは南アフリカで特許保護を認めましたが、南アフリカのIPOは寄託制度(depository system)を採用しており、特許出願の有効性が徹底的に審査されるのは、その後に第三者によって異議申し立てがなされた場合のみです。

さらに、異なる司法管轄区が発明の所有権にどのようにアプローチするかは、より広範な経済的、さらには地政学的な影響を及ぼす可能性があります。AIが生み出した発明をより有利に保護する法律を持つ国は、革新的な産業からの投資を促すかもしれません。AIを構築し、テストし、利用する上で世界最高の場所として自国を位置づけようとする地域が、地理的・政治的競争を繰り広げる可能性もあります。知的財産法の基本的な目的のひとつがイノベーションの促進であることを考えれば、社会を進歩させ、社会に利益をもたらす発明を生み出すAIの使用とAIへの投資を十分に奨励すべきであるという説得力のある主張もできるでしょう。

関連記事:AIと特許法: 発明と発明者のバラン連邦巡回控訴裁が「発明者」はAIではなく人間でなければならないことを確認

AIによる知的財産権の侵害

もう一つの重要な問題は、AIによって生み出された侵害作品に対する既存の知的財産権の行使です。例として、AIが有名人や公人の声や人格を模倣するように設計されている場合、そのような権利が存在する法域では、その人物のパブリシティ権や人格権を侵害するリスクがあります。

別の例として、企業がインターネットから著作権で保護されたコンテンツをスクレイピングし、自らの目的のために再利用するために使用するAIアルゴリズムを考えてみましょう。英国と米国の両方で、写真や映像コンテンツを提供するGetty Imagesは、AIによる画像認識と分析を専門とするStability AI社に対して知的財産権侵害の申し立てを行いました。この紛争の核心は、Stability AI社がAIアルゴリズムを訓練するために、Getty Imagesの膨大なコレクションから著作権で保護された数千枚の画像を不正に使用したと主張していることにあります。Getty Imagesは、Stability AIが必要なライセンスや許可を得ることなく、同社のウェブサイトからかなりの数の著作権保護された画像をスクレイピングしてダウンロードし、Stability AIがこれらの画像を使用してAIを搭載した画像認識ソフトウェアを訓練し、改善したと主張しています。この裁判は法廷での審議が続いており、法律とAIの融合が始まったばかりのこの段階におけるその他の判決と同様、大きな注目が集まっています。

関連記事:AI自動生成ツールは「侵害」するのか?3つの訴訟に注目ジェネレーティブAIは著作権を侵害しないと作れないのか?フェアユースか侵害か、機械学習は著作権を尊重する必要があるのか?

しかし、裁判所がAIと知的財産を取り巻く法的問題に取り組み続ける中、Getty事件は、AI主導のイノベーションがもたらす特有の課題に対処する明確なガイドラインと法的枠組みの必要性を物語るものとなっています。そのような法的・規制的枠組みは、この業界の成長を考えれば、必然的に早く到来するべきものであり、そのような枠組みが、既存の知的財産権の保護と、AI技術の開発と進歩を奨励する環境の育成との間で、適切なバランスを取ることが望まれています。

知的財産権の保護と行使にAIを活用

課題はあるものの、AIは知的財産権保有者にとって多くの機会をもたらすものです。

AIは、潜在的な侵害の検出を自動化し、権利行使のプロセスを合理化することで、知的財産権の権利行使において重要な役割を果たすことでしょう。AIを搭載したツールは、オンライン・マーケット、ソーシャルメディア・プラットフォーム、その他のデジタル・チャネルを分析して知的財産権侵害の可能性を特定し、企業が知的財産権を保護するための迅速な措置を講じることを可能にするでしょう。

同様に、AIは特許を評価し、潜在的な侵害や、特許審査プロセスにおける新規性や自明性の問題を特定することができるようになるでしょう。とはいえ、例えば、侵害者の身元を特定するのが困難な偽のウェブサイトやソーシャルメディアのプロフィールを作成するなど、侵害者がその活動を隠すのを支援することで、知的財産権の行使をより困難にするためにAIが使用される可能性もあります。

また、AIは、知的財産権の行使における役割に加え、知的財産権の管理および戦略においても果たすべき役割を担っています。このように活用することで、既存の特許の強さと価値を評価し、潜在的なライセンシングの機会を特定し、研究開発投資の優先順位を決めることができるようになるでしょう。知的財産の管理と戦略にAIを活用することで、企業は知的財産資産を最適化し、急速に進化するイノベーションの状況において成功するためのより良いポジションを確立することができます。

これらの疑問と課題にどう対応するか

AIが知的財産の世界を変革し続ける中、立法者、裁判所、規制当局、知的財産専門家を含む全ての利害関係者が協力し、変化する状況に適応することが不可欠です。これには、AIによって生み出された著作物や発明がもたらす特有の課題に対処するために既存の知的財産法を更新すること、AI主導のイノベーションに対応するための新たな法的枠組みを開発すること、知的財産の管理と執行におけるAIの責任ある利用を奨励する環境を確立することが含まれます。関係者が協力してAIがもたらす課題と機会を乗り切ることで、知的財産権が強固で弾力性を保ち、企業やコンテンツ制作者が急速な技術革新の中で知的財産資産を保護し収益化し続けられるようにすることができることでしょう。

参考記事:Embracing the AI Revolution: Navigating Intellectual Property Challenges and Opportunities

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