AIを活用した特許出願準備における弁護士依頼者間の秘匿特権の維持

特許出願準備における大規模言語モデル(LLM)の使用は、多くの企業内および法律事務所のリーダーにとって最重要課題です。このトレンドは、法律領域における技術統合の広範な傾向を象徴しています。このような動きは効率性を高めるだけでなく、それと同時に、伝統的な法理論をめぐる新たな疑問も引き起こしています。その中でも注目したいのが、特許出願準備にLLMを利用すること、弁護士と依頼人の間の秘匿特権(attorney-client privilege)に不注意に違反する可能性があるかどうかということです。この秘匿特権は、基本的にクライアントとその弁護士との間の秘密のやりとりを保証するために設計されたものであり、信頼を育み、クライアントの発明を包括的に理解する上で極めて重要なものです。

弁護士-依頼者間の秘匿特権の本質

弁護士-依頼者間の秘匿特権の本質は、依頼者とその法律顧問との間の秘密保持を保証することです。この保証は、弁護士と依頼人の関係の基礎を形成するとても重要なものです。というのも、この基礎となる信頼関係がなければ、クライアントは特許出願準備に不可欠な詳細を完全に開示することをためらうかもしれません。この秘匿特権の侵害は、主として、このような機密のやり取りが外部の組織と共有され、情報が保護されなくなった場合に生じます

第三者ではなく道具としてのLLM

LLMは、法律調査のために特別に設計された計算ソフトウェアやデータベースのような道具の1つとして考えることができます。このような観点からLLMを見ることで、LLMのあるべき姿が明確になります。LLMは、特許出願の準備プロセスを容易にする高度なアルゴリズムであり、機密データを知り得る存在ではありません

LLMにクエリやテキストを送信することは、独立した理解や行動が可能な認知的第三者(例えば人間)に機密事項を伝えることとは似て非なるものです。その代わり、LLMはそのプログラミングとデータの系譜に基づいた入力を解釈し、人間の介入や独立した識別を必要としないコンテンツを提供します。この機械的な性質は、弁護士とクライアントのダイナミックな関係において、意識的な存在ではなく、ツールとしての役割を確固たるものにしています。

公への開示

弁護士と依頼人の間の秘匿特権を維持するために不可欠な側面は、秘匿特権のあるコミュニケーションが公にされるのを防ぐことです。この概念は、法律プロトコルの基礎となるものです。LLMに詳細を提供し、その後一般に公開または配布されることは、一般公開と誤解されるべきではありません。この文脈におけるLLMの役割は、文書作成における促進者であり、公開の能力はありません。

関連記事:生成AIの利用が弁護士と依頼者間の秘匿特権を脅かす? – Open Legal Community 

ChatGPTの利用は特許法上の「公開」にあたるのか? – Open Legal Community 

ChatGPTは特許の仕事を奪うものなのか? – Open Legal Community 

データのセキュリティと機密性

主要なLLMプロバイダーは、データのプライバシーを優先し、通常、個々のクエリーを保存したり、将来のモデルトレーニングに使用したりしません。このようにデータ保護に重点を置くということは、それぞれのクエリが、記憶やバイアスのないユニークなインタラクションとして扱われることを意味します。この慣行は、研究履歴を保存したり共有したりしない法律専門データベースの慣行を反映しています。このような厳格なプロトコルは、与えられた機密情報が保護され、アクセスできないことを保証します。

結論

特許法が技術の進歩に絶えず適応していく中で、これらの新しい能力とその意味を理解することがとても重要になります。特許ポートフォリオ作成への現代技術の導入は、デジタル時代における専門職のダイナミックな進化を強調するものです。特許出願準備におけるLLMは、慎重に適用されることで、弁護士と依頼人の秘匿特権の神聖さを維持します。これらの技術を取り入れることは、この分野の進歩を示すだけでなく、伝統的な法律的洞察力と最先端の技術力を調和させるものです。

参考記事:Use of AI-Generated Patent Documents: Maintaining Attorney-Client Privilege in Patent Application Preparation

ニュースレター、会員制コミュニティ

最新のアメリカ知財情報が詰まったニュースレターはこちら。

最新の判例からアメリカ知財のトレンドまで現役アメリカ特許弁護士が現地からお届け(無料)

日米を中心とした知財プロフェッショナルのためのオンラインコミュニティーを運営しています。アメリカの知財最新情報やトレンドはもちろん、現地で日々実務に携わる弁護士やパテントエージェントの生の声が聞け、気軽にコミュニケーションが取れる会員制コミュニティです。

会員制知財コミュニティの詳細はこちらから。

お問い合わせはメール(koji.noguchi@openlegalcommunity.com)でもうかがいます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

OLCとは?

OLCは、「アメリカ知財をもっと身近なものにしよう」という思いで作られた日本人のためのアメリカ知財情報提供サイトです。より詳しく>>

追加記事

time-delay-clock
特許出願
野口 剛史

国際特許出願の審査期間を早めるかもしれない共同検索試験プログラムが拡大

2022年3月29日、USPTOは連邦官報に公告し、拡大共同検索試験(Expanded CSP: Collaborative Search Pilot)プログラムへの参加を容易にすることを発表しました。具体的には、USPTOはカウンターパートである日本特許庁(JPO)および韓国知的財産庁(KIPO)と協力し、両パートナーIPオフィスへの個別の請願書(petition)ではなく、どちらか一方のパートナー特許庁のみに提出する必要のある統合請願書(combined petition)を作成しました。拡大されたCSPの恩恵を受けようとする出願人は、USPTO、KIPOおよびJPOのいずれかまたは両方に未審査の対応する出願があることが必要です。

Read More »
money
特許出願
野口 剛史

特許コストを抑えるための6つのポイント

特許は企業にとって大切な資産ですが、権利化までのコストは高額で、海外への出願も検討する場合、翻訳費用などの費用もかかります。今回は、そのような特許権利化までのコストを抑えるための6つのポイントを教えます。

Read More »
特許出願
野口 剛史

クレームのPreambleには気をつける

大部分の特許において、クレームのPreambleは特に重要なものとして扱われていません。しかし、場合によっては侵害や有効性を左右する重要な条件の1つになりえます。

Read More »