生成AIの利用が弁護士と依頼者間の秘匿特権を脅かす?

法律業界でもChatGPTを始めとしたAIツールの活用は始まっていますが、使用する際の弁護士と依頼人間の特権への潜在的なリスクが現在注目されています。具体的には、生成AIを使用しても弁護士と依頼人の間の機密性が担保されるのか?が問題になっています。ChatGPTは個人情報に単独でアクセスしたり保持することはできませんが、OpenAIのプライバシーポリシーに従ってユーザーとのやり取りを訓練データとして使えるよう記録しています。そのため、弁護士や依頼人は、法律の文脈でAIを使用する際には特に注意を払うように助言されており、特権を危険にさらす可能性のある機密情報や敏感な情報をプロンプトとして利用することは避けるべきです。

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ChatGPTのような人工知能(AI)ツールの人気は急速に高まっており、AIはすでに法律業界に浸透しています。良くも悪くも、法曹界はChatGPTを法的調査や契約書、準備書面、その他の法的文書の作成に活用しています。しかし、進行中の訴訟でChatGPTを使用する場合、潜在的な予期せぬ結果を防ぐために慎重な配慮が必要なことは言うまでもないでしょう。

このような急速な環境変化により、現在、多くの弁護士にとっての大きな関心事は、ChatGPTやそのような他のAIツールの使用が弁護士と依頼人の間の秘匿特権(attorney-client privilege)を危険にさらす可能性があるかということです。

「弁護士と依頼者間の秘匿特権は、法的助言を得る目的で、法律顧問として活動する弁護士に対して依頼者が行ったコミュニケーションに適用されます。」Herald Co., Inc. v Ann Arbor Pub. Sch. 「弁護士と依頼人の間の秘匿特権は、依頼人が、そのコミュニケーションが開示されることのない安全なものであることを知りながら、弁護士に秘密を打ち明けることを許可するように設計されています。」 McCartney v Attorney General.

秘密保持は弁護士業務を行うための重要な要素の1つ

秘密保持は弁護士と依頼人の関係において極めて重要な要素です。なぜなら、弁護士と依頼人のコミュニケーションが秘密保持された環境で行われなければ、適切な保護が担保されず、ディスカバリーなどで情報を開示しないといけない可能性があるからです。しかし、クライアントと弁護士がChatGPTのようなAIシステムを使用する場合、この守秘義務について深刻な懸念が生じる可能性が指摘されています。

ChatGPTは、機械学習アルゴリズムを使用した大規模な言語モデルで、ユーザーが入力した質問や問い合わせに対して、人間のような回答や対話を生成します。言い換えれば、ChatGPTはユーザーの入力から学習した情報を使って回答を生成します。そのため、ChatGPTは学習したデータに基づいた回答しか提供できないという制約があります。

ChatGPTに書き込んだ情報は秘匿特権で保護されるのか?

ChatGPTは、メール作成、ソーシャルメディア投稿のキュレーション、エッセイの下書き、作曲、法的調査や執筆など、幅広い用途で活用されています。

しかし、弁護士と依頼人の秘匿特権に関係するように、ChatGPTは、ユーザーによって共有された個人データを含むすべての会話を記録し、それをシステムが学習データとして使用する可能性があるため、秘匿性が担保されない可能性があります。ChatGPTの生みの親であるOpenAIのプライバシーポリシーには、ユーザーがChatGPTやその他のサービスに提供する「入力、ファイルのアップロード、フィードバック」に含まれる個人情報は収集されていることが明示されています。

実際、OpenAIは、AI言語モデルを改善するために会話を使用し、人間のAIトレーナーによってチャットがレビューされる可能性があると明言しています。さらに、OpenAIは、ユーザーが入力した特定の質問やリクエストをユーザーの履歴から削除することはできず、個人情報や機密情報をChatGPTと共有しないよう忠告しています。

断面的なインプットでは秘匿情報の特定は難しく、秘匿情報の漏洩には損失リスクもありえる

ChatGPTの利用が弁護士と依頼人の間の秘匿特権に影響するかどうか、ChatGPTに直接尋ねてみると、以下のような回答が返ってきました:

>私はAI言語モデルであり、会話中に共有されない限り、個人情報にアクセスしたり、保持したりする能力はありません。私はユーザーのプライバシーと秘密を尊重するように設計されています。私の主な役割は、私の知識と能力の範囲内で情報を提供し、質問にお答えすることです。しかし、私は弁護士ではなく、私が提供する情報は法的助言とみなされるべきものではないことにご注意ください。弁護士と依頼人の間の秘匿特権について懸念がある場合は、常に資格のある法律の専門家に相談し、特定の状況に基づいた正確で信頼できるアドバイスを受けることをお勧めします。

しかし、ChatGPTは、実際に起きている(うる)ことを全て伝えているわけではありません。例えば、ある質問でうっかり機密事項が漏れた場合、ChatGPTはそれを今後どのように利用するのでしょうか?弁護士が合併契約について質問し、うっかり小さな上場企業が買収されることを明らかにしてしまったらどうでしょう。ChatGPTは、取引そのものが秘密であることを認識するのでしょうか、それとも質問をした弁護士の名前だけを認識するのでしょうか?このモデルは、他のユーザーからの会社に関する将来の質問に答えるために、その情報をどのように使用するのでしょうか?弁護士が秘密を暴露し、弁護士と依頼人の秘匿特権を侵害する可能性があるだけでなく、取引を危うくする損失リスクを作り出す可能性もあります。

このような情報を念頭に置き、弁護士もクライアントも、法的な問題や事件に関連してChatGPTを使用する際には注意する必要があります。例えば、クライアントが時間がないにもかかわらず、弁護士に新しい関連情報を提供するためにChatGPTを起動し、その情報を含む電子メールを作成するとします。しかし、ChatGPTには与えたれた情報を機密情報として取り扱う機能はないので、システムはこの情報を保持し、第三者と共有する可能性があります。

関連記事:ChatGPTの利用は特許法上の「公開」にあたるのか?

避けるのではなく賢く使う

勘違いしてほしくないことは、法的な場面でChatGPTの利用を完全に禁止するべきと言っているわけではないということです。ChatGPTは、準備書面をどのように書き始めるかについてブレインストーミングをしたり、ライターのスランプを克服するためのインスピレーションを得るために使用することができます。しかし、その際、重要なことは、弁護士と依頼人の間に存在する基本的な特権を危険にさらす可能性のある機密情報をChatGPTに入力することを控えることです。

参考記事:Is Artificial Intelligence jeopardizing the attorney-client privilege in your case?

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