CAFCが示す機能的クレーム解釈の新基準と実務への影響:Vascular Solutions LLC v. Medtronic, Inc.事件の画期的判決を解説。

CAFCが示す機能的クレーム解釈の新基準と実務への影響:Vascular Solutions LLC v. Medtronic, Inc.事件

1. はじめに

特許法の世界において、クレーム解釈は常に重要な論点です。

2024年9月16日、米国連邦巡回区控訴裁判所(CAFC)は、Vascular Solutions LLC v. Medtronic, Inc.事件において、クレーム解釈に関する重要な判断を下しました。この判決は、機能的限定(functional limitation)の解釈を巡る争いに新たな視点をもたらしました。

CAFCは、地方裁判所が示した「相互排他性」(mutually exclusive)の概念を否定し、クレーム解釈における機能的アプローチを支持しました。この判断は、特許権者にとって柔軟なクレームドラフティングと解釈の可能性を広げる一方で、新たな課題も提起しています。

本稿では、この判決の背景、CAFCの主要な判断、そしてこの判決が特許実務に与える影響について詳細に解説します。特許弁護士や知財専門家にとって、この判決の意義を理解することは、今後の特許戦略を考える上で極めて重要です。

2. 事件の背景

2.1 特許紛争の概要

Vascular Solutions事件の中心にあるのは、ガイド延長カテーテル(guide extension catheter)に関する特許です。このカテーテルは、心臓手術において、ステントなどのデバイスを冠状動脈の難しい部位に届けるために使用される重要な医療機器です。

Vascular Solutions社とその関連会社(以下、総称してTeleflex社)は、7つの特許にわたる40のクレームについて、Medtronic社による侵害を主張しました。これらの特許はすべて、2006年5月3日に出願された共通の親出願に由来するものです。

争点となったのは、「実質的に硬い部分/セグメント」(substantially rigid portion/segment)というクレーム用語の解釈でした。特許の中には、この「実質的に硬い部分」にサイドオープニングを含むものと、サイドオープニングを別個の部分として記述するものがありました。この違いが、後の法的議論の焦点となりました。

2.2 手続きの経緯

本件の訴訟手続きは複雑な道筋をたどりました。Teleflex社が特許侵害訴訟を提起した後、Medtronic社は特許審判部(Patent Trial and Appeal Board、PTAB)に異議を申し立てました。PTABは15件の当事者系レビュー(Inter Partes Review、IPR)を開始しましたが、最終的には全ての係争中のクレームについて、Medtronic社が特許性の欠如を証明できなかったと判断しました。

地方裁判所では、Teleflex社の2回目の仮差止命令の申立てを却下する中で、クレーム解釈に関する重要な問題を提起しました。裁判所は、クレームを「グループ1」と「グループ2」に分類し、これらが「相互に排他的」(mutually exclusive)であるという見解を示しました。

この複雑な状況を打開するため、裁判所は元米国特許商標庁(USPTO)長官のAndrei Iancuを独立専門家として任命し、「実質的に硬い部分/セグメント」という用語の解釈を依頼しました。Iancu氏は、この用語が不明確(indefinite)であるとは考えませんでしたが、Teleflex社の主張に対しては懐疑的な姿勢を示しました。

最終的に、地方裁判所はMedtronic社の主張を支持し、全てのクレームが不明確であるとして無効と判断しました。この判断に対し、Teleflex社はCAFCに控訴しました。

この一連の経緯は、特許クレームの解釈が如何に複雑で論争の的となりうるかを示しています。次のセクションでは、CAFCがこの問題にどのようにアプローチし、どのような判断を下したかを詳しく見ていきます。

3. CAFCの主要な判断

3.1 「相互排他性」の概念の否定

CAFCは、地方裁判所が示した「相互排他性」(mutually exclusive)の概念を明確に否定しました。この判断は、特許実務に大きな影響を与える可能性があります。

CAFCの見解によれば、地方裁判所の結論は事実上、(1)特許のクレームが開示された主題を請求する方法を変えることができない、(2)独立クレームは他の独立クレームと完全に一貫している必要がある、という2つの前提に基づいていました。しかし、CAFCはこのような制限は存在しないと断言しました。

クレーム作成の技術は、時として開示された主題を様々な方法でカバーするためにクレームを多様な形で起草することを含むと、CAFCは指摘しています。重要なのは、各クレームが発明の範囲について当業者に「合理的な確実性」(reasonable certainty)を持って伝えることです。

CAFCは地方裁判所に対し、クレーム解釈を「クレームごとに」行うよう指示しました。この際、クレーム解釈の段階では、クレームが必ずしも「相互排他的」ではないことを理解する必要があります。なぜなら、各独立クレームは異なる限定の組み合わせを持つからです。

この判断は、特許権者にとって有利な展開と言えるでしょう。複数の異なるクレームを用いて発明を保護する戦略が、より強固な法的根拠を得たと考えられます。

3.2 クレーム解釈における機能的アプローチ

CAFCはさらに、「実質的に硬い部分/セグメント」の境界が全てのクレームで一貫している必要はないと判断しました。これは、クレーム解釈における機能的アプローチを支持するものです。

CAFCの見解によれば、「実質的に硬い部分/セグメント」という限定は「機能的限定」(functional limitation)であり、カテーテルの一部が何らかの機能を達成するのに十分な硬さを持つことを意味します。一部のクレームでは、この部分にサイドオープニングが含まれ、他のクレームではサイドオープニングが「実質的に硬い部分/セグメント」の遠位にあるとされていますが、いずれの場合も、その部分はガイドカテーテル内で前進できるだけの十分な硬さを維持する必要があります。

CAFCは、クレーム用語は同じ特許または関連特許の中で一貫して解釈されるべきだという従来の法理を認めつつも、この判決はその法理から逸脱するものではないと強調しました。むしろ、「実質的に硬い部分」という用語は特許全体で同じように解釈されるべきですが、その解釈は機能的なものであり、「実質的に硬い部分」の境界を特定する必要はないとCAFCは明確にしました。

この機能的アプローチは、特許権者により柔軟なクレーム解釈の余地を与えるものです。同時に、発明の本質的な機能を保護しつつ、異なる実施形態をカバーすることを可能にします。

CAFCのこれらの判断は、特許クレームの解釈に新たな視点をもたらし、特許実務に大きな影響を与える可能性があります。次のセクションでは、この判決が実務にどのような影響を与えるかを詳しく見ていきます。

4. 判決の実務への影響

4.1 クレーム ドラフティング 戦略への示唆

CAFCの判決は、特許弁護士や出願人のクレームドラフティング戦略に重要な示唆を与えています。この判決を踏まえ、以下のような戦略が有効となる可能性があります。

1. 機能的言語の効果的な使用: CAFCが機能的アプローチを支持したことから、クレームにおいて機能的言語をより積極的に使用することが考えられます。例えば、「実質的に硬い部分」のような機能的表現を用いることで、より広範な保護を得られる可能性があります。

2. 多様なクレームの記載: 「相互排他性」の概念が否定されたことで、同一の発明に対して異なる観点から複数のクレームを記載する戦略がより有効になりました。これにより、発明の様々な側面を保護し、潜在的な侵害者に対してより強力な特許ポートフォリオを構築できます。

3. クレームセットの柔軟性: 独立クレーム間で完全な一貫性を求める必要がなくなったことから、より柔軟なクレームセットの作成が可能になりました。これは特に、複雑な技術や多様な実施形態を持つ発明に対して有効です。

4. 境界の明確化と曖昧さのバランス: 「実質的に硬い部分」の境界を特定する必要がないとされたことから、クレームの境界を意図的に曖昧にすることで、より広い保護範囲を得る戦略が考えられます。ただし、不明確性による無効化リスクとのバランスに注意が必要です。

4.2 クレーム解釈論への影響

本判決は、クレーム解釈の実務にも大きな影響を与えることが予想されます。

1. 機能的側面の強調: クレーム解釈において、構造的な側面だけでなく、機能的な側面により重点を置くことが重要になります。特許権者は、クレームされた要素が果たす機能を明確に説明し、その機能が発明の本質的な部分であることを主張することが効果的になるでしょう。

2. クレームごとの個別解釈: CAFCが「クレームごとに」解釈を行うよう指示したことから、各クレームを独立して解釈する必要性が高まります。これは、特許侵害訴訟における証拠開示(ディスカバリー)や専門家証言の準備に影響を与える可能性があります。

3. 一貫性と柔軟性のバランス: クレーム用語の解釈において、特許全体での一貫性を保ちつつも、各クレームの文脈に応じた柔軟な解釈を行うことが求められます。これは、特許権者と被疑侵害者の双方にとって、より複雑な法的議論を必要とする可能性があります。

4. 機能的限定の範囲: 「実質的に硬い部分」のような機能的限定の範囲をどこまで広く解釈できるかが、今後の争点となる可能性があります。特許権者は、この判決を根拠に広い解釈を主張し、被疑侵害者はその範囲を限定しようとするでしょう。

5. 不明確性の基準の再考: 本判決により、クレームの不明確性を判断する基準が変わる可能性があります。機能的言語の使用がより許容されることで、不明確性の主張がより困難になる可能性があります。

これらの影響は、特許出願の段階から訴訟に至るまで、特許実務の様々な局面で現れると予想されます。特許実務家は、この判決の影響を十分に理解し、クライアントに最適なアドバイスを提供することが求められるでしょう。

5. 残された課題

CAFCの判決は多くの問題を解決しましたが、同時に新たな課題も浮き彫りになりました。

第一に、機能的クレーム言語の許容範囲に関する不確実性が残されています。どの程度まで機能的な記載が許されるのか、また、それがどのように解釈されるべきかについて、さらなる判例の蓄積が必要です。

第二に、クレーム間の「相互排他性」の概念が否定されたことで、特許の範囲が不当に広がるリスクが懸念されます。これは、特許の質や技術革新へのインセンティブに影響を与える可能性があります。

第三に、クレームごとの個別解釈の必要性が高まったことで、特許訴訟がより複雑化し、コストが増大する可能性があります。これは、特に中小企業や個人発明家にとって大きな負担となる可能性があります。

第四に、この判決が特許の明確性要件(definiteness requirement)にどのような影響を与えるかについて、さらなる検討が必要です。機能的言語の使用が増えることで、特許の境界があいまいになるリスクがあります。

最後に、この判決がどのように他の技術分野に適用されるかについても課題が残されています。医療機器分野での判決ですが、ソフトウェアや電子機器など他の分野での適用についても検討が必要です。

これらの課題に対しては、今後の判例や立法による対応が期待されます。特許実務家は、これらの課題を念頭に置きつつ、クライアントに最適なアドバイスを提供していく必要があるでしょう。

6. 結論

Vascular Solutions LLC v. Medtronic, Inc.事件におけるCAFCの判決は、特許クレームの解釈に新たな指針をもたらしました。「相互排他性」の概念を否定し、機能的アプローチを支持することで、特許権者にとってより柔軟なクレームドラフティングと解釈の可能性を開きました。この判決は、特許実務に広範な影響を与え、クレームドラフティング戦略やクレーム解釈論に新たな視点をもたらしています。一方で、機能的言語の許容範囲や特許の明確性要件に関する新たな課題も浮上しています。

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