クレームの不明瞭性は「クレーム文単独」で判断されるべきではない

35 U.S.C. § 112に基づき、特許クレームが十分に「明瞭」(definite) であるかどうかを評価するためには、クレームの文言そのものだけでなく、出願に関わるその他の情報を見ることが必要です。CAFCは、連邦地裁の狭すぎる不明瞭性分析を覆す最近の判決において、この基本原則を再確認しました。

判例:Nature Simulations Systems, Inc. v. Autodesk, Inc.

クレームの明瞭性に関する地裁の狭すぎる解釈

この事件において、特許権者であるNatureは、3Dモデルの構築方法に関する2つの特許を主張しました。連邦地裁は、複数のクレーム用語が「未解決の問題」(“unanswered questions”)を引き起こし、クレームを不明瞭(indefinite)にしているとして、両特許を無効としました。連邦地裁はさらに、明細書がこれらの問題に回答しているとの特許権者の主張を退けました。連邦地裁によれば、このような問題点はクレームの文言そのものによって答えられるべきであり、そうでない場合、法律上、クレームは不明瞭(indefinite)となると判断しました。

明細書や審査経過などクレーム文言以外の情報も考慮してクレームの明瞭性は判断するべき

連邦巡回控訴裁(CAFC)は、2対1の判決を下し、連邦地裁の「未解決の問題」分析(“unanswered questions” analysis )は不適切であるとし、これを覆しました。「クレーム文言を単独で考慮する」ことは正しい法的基準(legal standard)ではないとし、特許クレームは、明細書、審査経過、および当業者が発明の範囲をどのように理解するかを示すその他の関連証拠に照らして読み、理解されなければならないとしました。従って、連邦地裁は、クレームの文言のみに焦点を絞り、特許明細書や審査経過のいずれをも考慮しなかったことは誤りであったとCAFCは判断しました。

適切な法的基準を明確にした上で、多数派は次に明細書と審査経過を検討し、特許クレームは不明瞭ではないと判断しました。また、特許明細書のクレームされた方法を記述している部分を特定し、「明細書にクレームされた方法の実施方法が記述され、その方法を可能にする(enables practice of the claimed method)ことは議論の余地がない」としました。

不明瞭とされる文言が誰によって追加されたかも注意

さらに、CAFCは、問題のクレーム文が、特許権者ではなく、審査官によって審査中に追加されたものであることにも注目。この事実を踏まえ、多数派は、審査官によるクレーム文言の選択を尊重し、「審査官が、出願を許可できる状態にすることを目的としてクレームを修正することを選択した場合、クレームに不明瞭な用語を導入しないものと推定する」とし、以前のCAFCの判決を引用して、その理由を述べました。

反対意見

Dyk裁判官は反対意見を述べ、多数派は審査官によって追加されたクレームの文言を過度に尊重していると主張した。Dyk判事によれば、クレームの文言には、特許明細書に記載も定義もされていない限定が含まれていたとのこと。そして、その用語の意味に関する唯一の証拠は、被告の専門家によるものであり、専門家は、追加された制限は「あいまい」「不明確」であり、特許の数字と矛盾していると証言していると指摘しました。

実務上のアドバイス 

特許クレーム用語が十分に明確であるか否かをめぐる紛争においては、双方は、出願経過および特許明細書を考慮するよう注意する必要があるでしょう。さらに、異議を唱えられたクレーム文が審査官によって審査中に追加された場合、クレームを無効にしたい被告人側は、裁判所が審査官のクレーム文の選択に従うべきでない理由を詳細に説明する必要があります。

参考文献:Federal Circuit: Indefiniteness Is Not Judged by the “Claim Language, Standing Alone”

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