規格必須特許のベースに対する2つのアプローチ

IoTなどの「つながる社会」を作るためにはモノ同士がコミュニケーションを取る必要があります。他社の製品と情報をやり取りするために規格は大切ですが、規格を決めるときに避けて通れない規格必須特許(Standard Essential Patent (“SEP”))の問題があります。今回は、規格必須特許のロイヤリティに大きく影響する2つのベーズに対する2つのアプローチを判例とともに紹介していきます。

自社製品やサービスが規格に関わる場合、その規格に関わる規格必須特許のライセンスが必要になります。また、自社の技術が規格に採用された場合、ライセンスを行う必要があります。しかし、SEPのライセンスには他の特許ライセンスとは異なる条件下で行われなければいけないので、今回紹介する2つのアプローチはライセンスする側でも受ける側でも重要なコンセプトになります。

まず規格必須特許のベースに対する2つのアプローチを紹介する前に、SEPのライセンスにおけるFRAND義務というものを紹介します。FRANDとは、fair, reasonable and non-discriminatory の略で、規格必須特許をライセンスするにあたり、ライセンシーに対して公平で、合理的で差別しないロイヤリティレートを設定する義務がライセンシーにあるというものです。しかし、どのようなレートがFRANDなのかは明確ではありません。

その原因の1つとして規格必須特許のベースにおける相対する2つのアプローチあります。1つ目のアプローチは entire market value rule (EMVR) という考え方で、最終製品をベースにしたロイヤリティの計算方法で、2目のアプローチは smallest salable patent practicing unit (SSPPU) という考え方で、特許が用いられている部品をベーズにしたロイヤリティの計算方法です。裁判所はこの2つのアプローチの間を行ったり来たりしています。以下詳しく2つのアプローチを判例を交えて紹介します。

まず Rite-Hite Corp. v. Kelley Co., Inc. (1995)で、EMVRが採用されました。この事件で、CAFCは、EMVRを適用するにあたっていくつかの条件を提示しました。EMVRは最終製品をベースにしたロイヤリティの計算方法ですが、この考え方には最終製品に対する需要は特許保護されている特徴によりもたらされているという原理が採用されています。EMVRが採用された場合、特許が用いられている部品ではなく、最終製品がロイヤリティ計算のベースになります。

車輪を例にすると、特許が車輪に関わるものだとしても、ロイヤリティが車輪の売り上げではなく、車の売り上げに相関します。そうなると、車輪の売上をベースにしたロイヤリティよりも車の売り上げの方がより多くの金額が得られるようになります。そのためEMVRはライセンスをおこなうライセンシーに有利なアプローチです。

しかし、EMVRには批判もあります。一番大きな問題は、最終製品に多くの技術や特許が使われている場合、一部のライセンシーにライセンス収入が過剰なまでに集中してしまうことです。場合によっては、最終製品のほんの一部の機能にしか過ぎないものに適切な対価以上が払わられ、残りの機能に対する特許を持っているライセンシーには適切な対価が入らないという問題が発生します。また、実際にものを売るには、製造会社の企業努力がありますが、EMVRでは顧客の需要はライセンスされる特許から来ていると仮定しているので、ライセンサーが過剰に補償されてしまうという問題があります。

もう1つのアプローチ smallest salable patent practicing unit (SSPPU) で、 Cornell University v. Hewlett-Packard Co. (2009)にて提案されました。この判例で、特許権者はサーバーをSEPのロイアルティベースにするべきと主張しましたが、裁判はその主張を否定。その後、特許権者はサーバーよりも一段低いレイヤーの製品CPUをロイアルティベースにすべきと主張しました。しかし、訴訟の対象になっていた特許がCPUのinstruction bufferのみに関わる事柄だったので、 裁判所はその主張も却下し、賠償金(つまりロイアルティ)の計算は、特許で守られているクレームに最も関連するSSPPUをベースに算出するべきとしました。

このCornell Universityの判決後、SSPPUの適用が王道になりました。例えば、 Microsoft Corp. v. Motorola (2012) やn re Innovatio IP Ventures (2013)などでは、SEP特許がWiFi standardに関わる中、最終製品であるxBoxなどではなく部品であるWiFiチップがロイアルティの対象になるなど、SSPPUの考え方が広く適用される時代が数年続きました。

SSPPUが採用されると、特許が用いられている販売可能な最小部品をベーズにロイヤリティが計算されるので、特許権者としてはEMVRに比べてロイアルティの収入が期待できません。特に、ロイヤリティーのベース対象のレイヤーが上がれば上がるほど付加価値が高まる製品の場合、特許権者としてはSSPPUよりもEMVRの方が明らかにより多くの特許収入を得られます。

EMVRのようにSSPPUのアプローチも完璧ではなく、SSPPUに関する批判もあります。例えば、特許で守られている特性が最終製品の価値を高めているものであれば、部品レベルでその付加価値が必ずしも反映されているとは言えないため、SSPPUを採用すると適切な対価よりも低い金額しかライセンシーは得られないという問題があります。また、SSPPUというアプローチ自体が本来のライセンス交渉の際に用いられる条件から乖離しているという問題があります。

また、2014年の判例からSEP訴訟のロイアルティベースに関する考え方がSSPPUアプローチからEMVRアプローチに変わりつつあります。例えば Ericsson, Inc. v D-Link Sys, Inc. (Fed Cir 2014) では、EMVRが採用されました。また、CSIRO v. CISCO SYSTEMS, INC. (2015) や’TCL v. Ericsson, slip op. (2017) でもEMVRが採用されました。このような傾向を見ると、EMVRが90年台に適用され、その反発でSSPPUが2009年ごろから採用され、その後、SSPPUへの反発で2013年からEMVRへまた振り子が戻っているといった印象です。

今後は新しい技術の発展に伴いSEPのFRAND義務に対する考え方も変わってくると思われます。特に規格必須特許のベースに対する2つのアプローチは今後も進化し続けると思われます。モバイルコミュニケーションの基本原理がIoTなどの他のアプリケーションに適用されている中、既存のスキームが新しい参入企業を含めてFRAND条件を満たすかというとそうでもなさそうです。

FRAND義務や規格必須特許のベースに対するアプローチの方法は世代によって徐々に変化していくものと捉えた方がいいかもしれません。

まとめ作成者:野口剛史

元記事著者: ZHAO Biyang. Liu, Shen & Associates  (元記事を見る

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