IPRを回避するためのヒント: 裁判地の選択

特許訴訟を起こす特許権者にとって、一番避けたいのがIPRです。今回は特許権者がIPRを避けるためにできることの1つとして、裁判地の選択を紹介します。なぜ裁判地選びが大切なのか、そしてどのような裁判地がIPRを回避するために優れているのかを詳しく見ていきます。


裁判地(venue)の選択は、今日のようなPTABが登場する以前から、特許権利行使戦略にとって非常に重要な要素でした。現在では、裁判地の重要性はさらに高まっており、特許訴訟のスピード(すなわち、裁判までの時間)や審理期間の統計は、Fintivの要素を考慮して特許に対するIPRが提起されるかどうかに直接的な影響を与えるからです。

裁判地の選択は特許権者のコントロールの範囲内にあるため、特許権利行使戦略を成功させるには、他の要因に加えて、選択した裁判地がIPRの発生を回避する可能性を考慮しなければなりません。

今年の初めに、PTABは判例としてApple Inc. v. Fintiv, Inc. IPR2020-00019, Paper 11 (PTAB Mar. 20, 2020)を指定しましたが、この判例では、IRPの審査開始(Institution)を拒否するために裁量を行使するかどうかを決定する際に審査会パネルが考慮しなければならない要素が記載されています。

その中の2つの要素は、事件が進行する裁判地に直接関係しています。

(1) 裁判所が延期を認めたかどうか、または手続が開始された場合に延期が認められる可能性があるという証拠が存在するかどうか(whether the court granted a stay or evidence exists that one may be granted if a proceeding is instituted)

(2) 裁判所の審理日が、最終的な書面による決定(Final Written Decision)のために審査会が予想している法定期限に近いかどうか(proximity of the court’s trial date to the Board’s projected statutory deadline for a final written decision)

PTABは、リソースを節約し、冗長で重複した手続を行わないようにするという指令を出しています。つまり、IPRの審査開始(Institution)に関わらず地方裁判所で訴訟が進行する可能性が高い場合や、PTABよりも早く裁判で問題が解決する場合は、審査開始(Institution)の裁量的な拒否が適切である可能性があるということです。多くの場合、訴訟を扱っている地方裁判所が裁判までの時間が短いか、原則として付与後の手続きのために訴訟を停止しないか、またはその両方であるかどうかで判断されています。

すべての訴訟当事者は、裁判地を選択する際には、公判までの時間と一時停止(Stay)の統計を確認し、ケースマネジメント会議の後に発せられるモデルスケジューリング命令を確認する必要があります。請願者が Fintiv の法則を付与後(post-grant)の戦略に組み入れると、請願書の提出時期が早くなるかもしれません。このように、積極的な審理日(aggressive trial date)を設定した既存のスケジュールは、特許権者がPTABでFintivの要素を説明する際に役立つ可能性が高いです。実際、Fintiv要素がPTABの実務に与える影響を実証するために、AppleやGoogleなどの実施者グループが最近、裁量的拒絶のためのFintiv要素の使用と適用を差し止めるためにUSPTOを提訴しました。

迅速に裁判に至るか、または迅速に裁判に至ると思われる裁判地を選択することは今までも重要な要素でありましたが、現在では、これらの基準は、特定の裁判地の他の潜在的な利点をさらに上回る可能性があり、裁判までの時間は、PTABでのIPRの手続き開始を回避するか、またはその結果として裁判に至るかの違いとなり得ます。IPRの手続き開始を回避することは、エンフォースメントアクションが裁判を受けることを確実にするために最も有用な行動であり、IPR手続き開始が拒否される可能性を最大限に高める裁判地を確実に選択することが重要です。

解説

特許権者として特許訴訟を起こす場合、裁判地選びは大切でしたが、Fintive要素の影響で、IPRを回避するという点からも更に重要になっているという内容の記事です。

IPRは訴訟と平行して使われることが多く、過去のデータによれば、IPR手続きの開始(institution)を回避しなければ、80%の確率で、対象特許の少なくとも1つ以上のクレームが無効化されてしまいます。特許権者としては、クレームが無効になってしまうと特許訴訟における侵害の損害賠償金にも影響が出てくる可能性もあるし、侵害が疑われる会社による回避デザインを容易にさせてしまう恐れもあります。また、最悪の場合、すべてのクレームが無効になってしまったら、訴訟が継続できないという問題も出てきます。

そのため、特許権者としては、特許訴訟を起こしたときにIPRは避けたい問題で、IPRの申立が行われたとしても、手続き開始(Institution)の判断の際にPTABがIPRの手続きを開始しないという判決を下すことが望ましいです。

PTABがIPRの手続きを開始するか・しないかという判断を行う際、Fintive要素が用いられ、その要素の2つは直接裁判地が関わってくるので、裁判地が選べる立場の特許権者としては、裁判地選びがとても重要になってきます。

そうは言っても、TC Heartlandの影響で、裁判地の選択肢は以前より限られています。限られたオプションですが、その中でもなるべく自社に有利な裁判地を選ぶことが、訴訟戦略において重要な点になっています。考慮する点は多岐に渡りますが、その中でもIPR対策は重要になってきているので、何が自社の特許権利行使戦略に大切なのかを優先順位をしっかりと持ち、多岐に渡る要素を相対的に評価しながら裁判地を決める必要があります。

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まとめ作成者:野口剛史

元記事著者:Daniel B. Weinger, Michael C. Newman and Peter J. Cuomo. Mintz(元記事を見る

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