IPRを回避することが特許権者の最善の防御策

統計的にIPRでは多くの特許クレームが無効になります。せっかく取った特許を無効化されるという特許権者にとっては悩ましい手続きですが、それでも特許権者に防御策がないわけではありません。IPRでクレームが無効になるなら、手続きを開始させなければいいのです。今回は、IPRなどのPTAB手続きのInstitutionがどれだけ重要なものかを解説します。

米国特許商標庁(USPTO)特許審判委員会(PTAB)は、特許が無効化されやすいことから、「特許の死刑所」と呼ばれることもあります。PTABは一貫してこのような特徴を否定してきましたが、最新の統計データによると、特許権者ができる当事者間審査(IPR)やその他の付与後の異議申し立てに対する最善の防御策は、手続きが開始(Institution)されるの回避をすることです。

2020年9月30日までの数字を見ると、PTABは、最終的な書面による決定が下されたほとんどの審理手続において、少なくとも一部の発行済みクレームを無効にしています。例えば、PTABの終了した手続の結果の表によると、特許付与後の手続のうち、発行されたすべてのクレームが特許可能であるとの決定が下されたのはわずか7%に過ぎません。この数字は、手続き開始の拒絶、和解、不利判決の請求(requests for adverse judgment)を差し引くと20%弱になりますが、すべてのクレームが特許不可との判決を受けたケースは62%もあり、少なくとも1つのクレームが無効と判断されたケースが18%です。

言い換えれば、特許権者がIPRやその他の付与後審査に直面している場合、過去のデータによれば、手続きの開始(institution)を回避しなければ、80%の確率で、対象特許の少なくとも1つ以上のクレームが無効化されてしまうことになります。しかし、このような厳しい数字にもかかわらず、特許所有者の観点からは、Institution率が低下し続けているという点が励みになります。

見ての通り、付与後の手続きが開始されて以来、Institution率は、2013年の87%という高値から、現在のデータでは56%にまで着実に低下しています。つまり、特許権者は、現在、44%の確率で手続きの開始を回避していることになります。4年前と現在の産業分野別に比較してみると、特許権者の視点から見ると、すべての技術グループで改善が見られます。

PTABのデータは、連邦巡回控訴裁判所(Federal Circuit)によるPTABの承認率の高さ、特に規則36を通じたPTABの承認率の高さと合わせて、初期の手続き開始(Institution)に対して積極的に反撃することの重要性を浮き彫りにしています。また、PTABの統計によると、付与後の和解の大部分は、審査会が最初に手続きの開始(Institution)を決定した後に行われていることが示されているのもそのためかもしれません。このように、手続き開始の決定後、80%の確率で一部または全てのクレームが無効化される可能性に直面した場合、最善の防御策はAIA裁判を完全に回避することです。

解説

今回の記事は、先週紹介したPTABの統計データを元にした考察です。

今回は特許権者の目線から見ていますが、特許権者としては特許クレームを無効化されないようにするのに一番の戦略はIPRを開始させない(institutionさせない)ことです。これは、Instituionされなければ、PTABにおける審査もないので、特許の有効性は維持され、平行して訴訟が行われていれば、Estoppelが適用され、IPRで提出された先行技術文献やその時点で見つけられただろうと思われる広範囲の文献が特許訴訟の手続きで使えなくなります。

つまりIPRの開始を阻止できれば、特許のクレームはすべて有効とみなされ、地裁で行われている特許訴訟がある場合、地裁で特許を無効化することがとても難しくなります。

このように特許権者が「勝つ」ためには、IPRの開始そのものを阻止することが一番の戦略になるので、Instituionの判断が行われるIPRの初期段階の手続きを最優先事項と捉え、多くのリソースを使って対応することが求められます。

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まとめ作成者:野口剛史

元記事著者:William A. Meunier, Peter J. Cuomo and Brad M. Scheller. Mintz(元記事を見る

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