特許審判不服審査会(PTAB)は、Apple Inc. v. Fintiv, Inc. IPR 2020-00019, Paper 11(2020年3月20日)を判例として指定しました。この判決は、PTABが35 U.S.C.第314条(a)に基づき、IPRと平行して継続している地方裁判がIPR開始判断に影響を与える6つのポイントを説明し、PTABが当事者間審査(IPR)の実施を拒否する裁量を行使するかについて言及しています。
背景
特許権者のFintivは、米国特許第8,843,125号(以下「125号特許」)の侵害を主張してAppleを提訴しました。Appleは、’125特許のクレームに異議を唱える申立書を提出し、同じ無効性の異議を含む連邦地裁における並行して行われている訴訟にもかかわらず、地裁における公判日が設定されていないため、PTABはIPRの実施を拒否する自主権を行使すべきではないと主張しました。しかし、その申立書の提出後、連邦地裁は、IPRの最終判決が予定されている期限よりも前に公判を行うというスケジューリングを組みました。
効率性、公平性、メリットに焦点を当て、並行して行われている地方裁判の手続を考慮して、IPR実施に関する自主権を適用するか否かについて、PTABは以下の6つの考慮すべきポイントを提示しました。
PTAB が考慮すべき6つのポイント
1. 裁判が停止(stay )を認めたか、また訴訟が提起された場合に停止が認められる可能性があるという証拠が存在するかどうか
並行して継続している地裁の停止は、IPRを実施することによる非効率性と努力の重複に対する懸念を和らげることができるため、IPR実施を拒否することに強く不利に働きます。停止が認められる可能性がある証拠としては、地裁が訴訟停止を否定したものの、PTAB手続きが開始された場合のその判断を再度考慮する申立をできる場合などが挙げられます。逆に、裁判所がそのような申立てを検討する意思を示さないまま、訴訟停止を拒否した場合、IPRの実施を拒否することに有利な場合があります。国際貿易委員会(ITC)の調査が並行して行われている場合には、PTABは並行して行われている地方裁判が停止されているかどうか、また、ITCにおいて当事者間の特許に関わる問題が実質すべて解決されるかどうかを示すように当事者に指示しています。
2. PTABによる判決期限と裁判所の公判日の近さ
地方裁判所の公判日がPTABによる法律で定められている判決期限よりも前の場合、IPR実施を拒否することが有利になります。公判日がPTABによる判決期限よりも遅い場合、他のポイントにも影響を与える可能性が高いです。
3. 裁判所と当事者による並行手続への投資
PTABは、裁判所と当事者の双方が並行して行っている訴訟手続きで既に完了している作業の量と種類も考慮します。クレーム解釈のような、特許に関する重要な手続きがある場合、IPRの実施否定に有利な場合があります。逆にそのような手続きがない場合、特許に関連する命令がないことは、IPRの実施が有利になります。
PTABは、当事者に対し、申立書の提出時期に関連する事実を説明するよう指示しています。もし申立人が並行訴訟手続でどのクレームが権利行使されるかを知った後すぐ、速やかにIPRの申立書を提出した場合、IPRの実施に有利になります。一方、申立人が迅速に申立を行わなかった場合や、申立の遅れを説明できない場合、これらの事実はIPRの実施拒否が有利になります。
4. 申立書と並行手続で提起された問題の重複
非効率性と矛盾する可能性のある決定の懸念は、申立書の内容が地方裁判所で争点となっている主張と一致する場合、特に強くなります。したがって、このような事実がある場合、IPR実施の拒否が有利になります。逆に、地方裁判所で提出されたものとは実質的に異なる主張や証拠を提出した申立書は、IPR実施が有利になる要素です。類似性の程度を評価することは、事実に依存します。そのため、PTABは、申立書で争われている請求項の全部または一部が地方裁判所でも争われているかどうかを示すように当事者に指示します。申立書に含まれる重複しない請求項の課題は、地方裁判所で争点となっている請求項との類似性に応じて、IPR実施の判断に影響を与えることになります。
5. 並行訴訟の申立人と被告が同一当事者であるかどうか
申立人が平行して行われている訴訟手続の被告と無関係であった場合、この事実はIPRを実施するのに有利に働きます。しかし、申立人が無関係であっても、PTABは、申立人に対して、対象となる特許に関連する他の手続に関して、なぜ同じ問題または実質的に同じ問題を扱うことが他の手続と重複しないのかという理由を説明するように指示しています。
6. 有利性を含め、PTABの裁量権行使に影響を与えるその他の状況
PTABは、IPRの実施を拒否する裁量を行使するかどうかを決定する際、関連するすべての状況を考慮します。したがって、上記の5つの要素に加えて、申立書で提起された理由の是非などの他の状況も考慮されます。
実務ポイント
並行している地方裁判所における訴訟が進行中の場合、PTABに申立書を提訴する当事者は、これら6つの要素を戦略的に評価するべきです。タイミングが重要です。申立人は、地方裁判所の訴訟と申立書の問題が異なる部分を強調し、できるだけ早く申立書を提出する必要があります。並行で進行している訴訟における特許権者は、予備応答において裁量的なIPR実施の拒否を求める際に、これらのポイントについて言及する必要があります。
解説
OLCでも何度も言っていますが、特許訴訟において、IPRはとても重要な戦略ポイントです。IPRが実施される(institute)かされないかという事実は、平行して行われている訴訟の進行はもちろん、水面下で行われるであろう和解交渉にも影響を与えます。
このようなIPRの立場から、今回PTABが判定(Precedential)と指定したApple Inc. v. Fintiv, Inc. IPR 2020-00019, Paper 11(2020年3月20日)はとても重要な判決になります。 今回紹介した6つのポイントは「factors」であって、必ずしもすべてのポイントがIPR実施(または実施拒否)を支持する内容である必要もなく、1つのポイントが他のポイントよりも尊重される場合もあります。
事実、また、PTABのALJ(行政法判事)によって判断は異なる場合がありますが、今回示された6つのポイントはIPRの実施を判断する上で重要なポイントになってくるので、訴訟の早い段階から、この6つのポイントを考慮してIPRの可能性を評価することをおすすめします。
まとめ作成者:野口剛史
元記事著者:Svetlana Pavlovic and C. Brandon Rash. Akin Gump Strauss Hauer & Feld LLP(元記事を見る)