標準必須特許(SEP)を所有していてもライセンスをリクエストしたすべての組織にFRAND条件のライセンスを提供する義務がないということが今回の判例で改めて明確になりました。特に、ライセンサーが積極的にサプライチェーンの下流に対してライセンスを行っている場合、ライセンスを拒否されても何も言えない可能性があります。
米国第5巡回区控訴裁判所は、自動車部品サプライヤーが、サプライヤーに対して公正、合理的かつ非差別的な条件(FRAND)におけるSEPの直接ライセンスを拒絶した標準必須特許(SEP)所有者に対して反トラスト法上の訴訟を提起することは憲法上許されないと判断しました。
サプライチェーンの位置づけとSEPライセンスの縛り
Continental社は、コネクテッドカーに組み込まれるテレマティックコントロールユニットを供給しています。テレマティックコントロールユニットは、2G、3G、4Gの携帯電話規格を用いた無線接続を提供し、ユーザーは自動車から直接、音楽のストリーミング、目的地へのナビゲーション、緊急援助の要請を行うことができるようになります。
今回訴えられたAvanci側のNokia、PanOptis、シャープはいずれも、標準化団体(SSO:standard-setting organizations )が定めた2G、3G、4G携帯電話規格に不可欠なSEPを所有またはライセンス供与していると主張。特許ライセンシングを促進するために、これらの個々の特許権者(その他多数)は、特許権者のライセンシングエージェントとして機能するAvanciと契約を締結しています。この契約では、Avanciは、自動車メーカーまたはOEM(original equipment manufacturers)メーカーにのみに対して特許ライセンスを販売することができることになっており、ライセンス対象の会社はすべてContinental社のサプライチェーンの下流に位置しています。そして、この契約では、特許権者が個別に(Avanciを通さず)Continental社のようなサプライヤーに対して、FRANDレートで自社のSEPをライセンスすることが認められています。
Continental社は、AvanciにFRANDレートでのライセンス供与を求めましたが、交渉に失敗。Avanciによれば、Continental社は、個々のSEP保有者からFRAND条件でライセンスを受けることができ、AvanciはContinental社の製品を組み込んだ先にライセンスを提供しているため、Continental社はSEPライセンスを必要としないとの見解を示しました。しかし、Continental社は、AvanciがFRAND条件でのライセンス販売を拒否したことは、Sherman Antitrust Actに違反する反競争的行為であると主張し、Avanciおよび個々の特許権者を提訴しました。
SEPホルダーのライセンス義務は?独禁法違反になるのか?
Avanciは、この訴えの棄却を求めました。
憲法上の権利に関する閾値(threshold issue)の問題に関して、Continental社は2つの損害理論を提示し、それが権利の付与につながると主張しました。第1の損害理論は、Avanciおよび個々の特許権者がOEMに対して非FRANDレートでライセンス供与することに成功した場合、そのライセンスにかかるロイヤリティが補償契約(indemnity agreements)を通じてContinental社に転嫁される可能性があるという主張。第2の損害理論は、Avanciおよび個々の特許権者がContinental社に対してFRAND条件でのライセンスを提供することを拒否した、この拒否した事実だけでも原告適格(standing)を確立するのに十分な損害であるという主張。
連邦地裁は、Continental社の第1の理論を否定しましたが、第2の理論を受け入れ、Continenta社lがFRAND条件でのライセンス取得に失敗したことは、憲法上の原告適格(standing)を与える損害であると判断。しかし、連邦地裁は、Continental社が憲法上の原告適格を有していると判断したにもかかわらず、反トラスト法上における原告適格の欠如および特定の要素に関して十分な主張ができていなかったとして、、Continental社のSherman Antitrust Actに関する請求を棄却しました。それを不服にContinental社は控訴。
標準化団体に所属していないのであればSEPホルダーはFRANDライセンスを行う義務はなし
連邦巡回控訴裁は、Continental社の損害に関するいずれの主張も、憲法上の原告適格(standing)を与えるには不十分であると結論づけました。最初の損害の主張については、連邦地裁の判断に同意し、OEMによる幾重もの決定、すなわち、非FRANDライセンスを受け入れ、Continental社に対する補償権を行使するという決定に依存しているため、あまりにも推測に基づいたものであると判断しています。さらに同裁判所は、いずれのOEMも非FRANDライセンスを受け入れたこと、または補償権を行使したことを立証していないことにも言及しました。
続いて、第二の損害について、連邦巡回控訴裁は連邦地裁と意見が異なり、Avanciと個々の特許権者によるライセンス販売の拒否は、Continental社に認識しうる損害(cognizable injury )をもたらすものではなかったと判断。同裁判所は、閾値問題(threshold matter)として、ContinentalはSSOの一員ではないため、個々の特許権者とAvanciとの間のFRAND契約を行使する権利を有しないと説明。さらに裁判所は、Continental社が契約上FRAND条件でのライセンスを受ける権利を有していたとしても、個々の特許権者は、OEMに対して積極的にライセンスを提供することでSSOに対する義務を果たしており、これは、FRAND条件でのSEPライセンスがContinental社に提供されていたことを意味するので、契約違反には当たらないと判断。また、同裁判所は、Continental社が事業を運営するためにSEPライセンスを個人的に所有する必要はなく、したがって、権利を有する財産を否定されたわけではないことにも言及しています。
このような見解を示した後、連邦地裁は、Continental社が憲法上の原告適格(standing)を有していないと判断し、連邦地裁の判決を取り消し、原告適格の欠如を理由にContinental社の請求を棄却するよう指示して差し戻しました。
参考記事:Supplier Can’t Complain when SEP Holder Refuses to License