特許ライセンス契約書を作成するときに気をつけたいこと

特許ライセンス契約は知財のマネタイズとして重要で、特に医療機器のような業界では特許がライセンスされることが多くあります。しかし、契約書が正しく書かれていないと、費用のかかる紛争になり、問題解決に多くの費用とリソースを費やす可能性があります。そこで、今回は特許ライセンス契約書を作成するときに気をつけたいことを3つ紹介します。

ライセンス契約やその他の技術移転契約は、新技術の研究開発に多額の投資を行い、その成果を知的財産として保護した医療機器企業にとって、非常に重要なものでです。しかし、これらの契約が慎重に作成されないと、解決するよりも多くの問題を引き起こす可能性があります。

特許ライセンス契約において問題を引き起こしがちな落とし穴を避けるため、契約書作成の際に起こりがちな間違いをここで解説します。

契約書における曖昧な用語を避け、定義をする

ライセンス契約では、何よりもまず、曖昧で漠然とした用語を避ける必要があります。不正確な表現は、ライセンス対象、ライセンスの範囲、その他の条件など、契約当事者双方に不確実性をもたらす可能性があります。そのような不確実性は、訴訟を含む紛争につながる可能性があります。

他の優れた法律文書と同様、契約書の主要用語は適切に定義される必要があります。特許ライセンス契約の場合、主要用語には、ライセンスされる特許、ライセンス製品、ライセンス付与に含まれる改良、および使用分野の制限が含まれます。契約の重要な構成要素を注意深く定義し、合意することは、契約の根幹に関わる紛争を回避する上で大きな意味を持ちます。

契約書のあいまいさや曖昧さは、広範で定義が不十分な用語を使用することによって生じることがあります。「関連する」(“relating to”)または「から流れる」(“flowing from” )などの用語があると制限が難しく、明確な境界がありません。そのため、このような用語を避けるか、関連するコンポーネントやデバイスに関連するもの、しないもの、またはそこから派生するものについての非網羅的な記述を含め、将来契約書を見介したときに境界線の方向性を示すような記載を検討すべきでしょう。

曖昧さのもう一つの原因は、不正確な言葉から生じる可能性があります。これは同義語が選ばれている場合でも問題となります。語彙の多様性は小説などには良いかもしれませんが、特許ライセンス契約には適切ではありません。契約書のドラフトでは、ライセンス契約全体を通して、一貫して、正確な言葉を使うように努力すべきです。SiRF Technology Incorporated v. ITC のケースは、曖昧な言葉遣いの良い例です。従業員が、「[雇用主] の事業に関連または有用なすべての発明」を雇用主に譲渡したのです。ある発明が特定のビジネスに関連している、あるいは有用であるとは、どういう意味なのでしょうか? 裁判所が指摘するように、この言葉は「本質的に曖昧」です。最終的に、この特許が雇用主に帰属するか否かの判断は訴訟で争われることになってしまいました。

医療機器技術に関わる契約では、独占権、使用分野、改良に関する用語を定義する際にも、正確さが役立つ場合があります。例えば、技術は異なる分野で使用されることがあります。しかし、技術の所有者が全分野のライセン スを一括して取得しなければならない、というわけではありません。理想的には、各ライセン ス契約は、ライセンシーが技術を使用しようとする特定の用途分野(例えば、ペーシングに使用するパルスジェネレー タと脊髄刺激との間)に合わせて調整されることになります。使用分野のライセンスでは、特許権者は、ライセンシーにライセンスされた分野以外では実施しないよう約束させることも求めるべきです。このような明示的な約束を含めることで、特許権者は、ライセンシーがライセンス分野外で技術を使用することは契約違反ではないと裁判所が判断するリスクを軽減することができます。

不正確なライセンスを与えない

特許ライセンスの場合、ライセンス付与の範囲は、契約に基づいてどのような行為が許可されるかを当事者に示す、最も重要な条件の 1 つです。特許法の下では、特許権者は、特許発明の製造、使用、販売、販売のための提供、および輸入から他者を排除する権利を持っています。特許権者は、これらの権利のすべて、または一部をライセンスすることができます。当事者はライセンシーが製品を製造・販売できることのみを意図しているのか、それともライセンシーが製品を輸入することもできるのか? 許諾規定は、何が許諾されるかが曖昧であってはいけません。「製造、使用、販売」という文言は一見いいように見えますが、「輸入」という行為を含んでいません。また、特許の「実施」(“practice”)や「活用」(“exploit”)といった表現は、どのような行為が特許の実施や活用にあたるのかが明確でないため、避けるべきでしょう。そのような文言は法令にはなく、法令に基づく特定の権利に特に関連するものではありません。特許ライセンス契約をドラフトする場合、当事者が法定以下の権利に同意することを明確に意図していない限り、関連する法令の文言に固執することが推奨されています。特許については、35 U.S.C. § 271の文言を参照。

もう1つの重要な考慮点は、誰がライセンスを受けるかという点です。また、ライセンシーが他社に買収されたり、ある企業を買収したりした場合はどうなる のか。これらの問題は、後で起こりうる紛争を避けるために対処する必要があります。

支払いと報告の間違い

特許ライセンス契約のもう一つの重要な部分は、支払い期間です。ライセンシーが支払わなければならない金額はいくらでしょうか。その金額はどのように決定されるのでしょうか。支払期限はいつなのか?これらはすべて、契約書の中で答えられるべき質問です。

一般に、ライセンス契約では、製品の販売ごとに支払うべき特定のロイヤルティが規定されます。しかし、ロイヤリティを適用する際のベースは何でしょうか。最も一般的なロイヤリティのベースは、販売価格です。しかし、このような一般的な表現であっても、税金、保険料、送料、その他の関連費用など、「純売上高」に到達するために総売上高からどのような控除が可能かについて、慎重に定義する必要があります。

また、支払遅延に対する利息や、当事者が過払いをした場合にどうすべきかを規定していないライセンスもよくあります。もう1つのよくある間違いは、リース、寄付、サンプルなど、「販売」ではない状況をライセンスが考慮していないことです。その他、通貨換算や時間軸、源泉徴収の記載漏れなども避けなければならないミスです。

これらの誤りを避けることは、最終的なライセンス契約が当事者の意図を反映していることを確認するのに役立ち、できれば不必要な訴訟を回避することができます。医療機器技術がライセンスされることが多いことを考えると、よくある落とし穴を理解し、特定の技術の開発の早い段階でライセンス戦略について話し合うことが重要です。

参考文献:Medical Device Licensing Pitfalls to Avoid

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