Raw alternative text: Image discussing methods to determine reasonable royalty rates from a RAND license using insights from the EcoFactor, Inc. v. Google LLC case.

ランプサムライセンスから合理的なロイヤリティ料率を決定する方法:EcoFactor, Inc. v. Google LLC事件からの考察

スマートサーモスタットをめぐる特許侵害訴訟で、ランプサムライセンス契約から合理的なロイヤリティ料率を導き出すことの是非が争われた、EcoFactor, Inc. v. Google LLC事件。本件の連邦巡回区控訴裁判所(CAFC)判決は、ランプサムライセンスに基づくロイヤリティ料率の算定に関する重要な指針を示すものとして注目されています。

従来、CAFCの判例は、ランプサムライセンスからロイヤリティ料率を導出することに消極的な立場を取ってきました。しかし本判決は、一定の条件の下でランプサムライセンスも合理的なロイヤリティ料率の根拠となり得ることを明らかにしたものです。もっとも、そのためには、ランプサム金額とロイヤリティ料率との関連性を丁寧に説明し、事案の個別事情を適切に考慮することが求められます。

本稿では、EcoFactor v. Google事件の経緯を概観した上で、同判決がランプサムライセンスからロイヤリティ料率を決定する際の実務にどのような示唆を与えるのかを検討します。CAFCにおける多数意見と反対意見の対立も踏まえつつ、ランプサムライセンスの合理的なロイヤリティ算定における位置づけを探ってみたいと思います。

訴訟の背景

スマートサーモスタットの運用に関する特許を巡り、EcoFactor, Inc.(以下、EcoFactor)がGoogle LLCを特許侵害で提訴した事件において、複数の重要な争点が浮き彫りになりました。EcoFactorは、米国特許第8,738,327号(以下、「’327特許」)を保有しており、Googleのスマートサーモスタット製品「Nest」が同特許を侵害していると主張しました。

訴訟では、Googleは’327特許のうちのクレーム5が特許適格性を欠く(35 U.S.C. § 101)として無効であると主張しましたが、地裁はこの主張を退けました。また、地裁は、EcoFactorの損害賠償専門家証人であるケネディ氏の意見の信頼性が欠けていてGoogleに不利益を与えるというGoogleの主張を斥け、ケネディ氏の証言の許容性を認めました。

陪審員は、6日間の審理を経て、Googleがクレーム5を侵害したと認定し、EcoFactorに損害賠償を認める評決を下しました。Googleは、’327特許の非侵害に関する法律問題の判断を求める審理後申し立て(JMOL)を行いましたが、これも地裁に退けられました。さらにGoogleは、EcoFactorの損害賠償専門家証人の意見が思索的で信頼性を欠くため新たな審理が必要だと主張しましたが、こちらも地裁に認められませんでした。

審理後申し立て(Judgment as a matter of law、略してJMOL): 米国の裁判所において、法的問題に対する判決を求める審理後申し立てのことで、当事者が相手方の主張を支持する証拠が不十分であると主張するものです。この申し立てでは、陪審員の判断にかかわらず、証拠に基づく唯一の合理的な結論が申し立てた当事者の勝訴であると主張します。JMOLは「指示評決(directed verdict)」とも呼ばれます。

そこでGoogleは、1) クレーム5の特許適格性欠如を理由とした地裁のサマリージャッジメント否定、 2) 非侵害JMOLの却下、3) 損害賠償専門家証言の許容性判断の 3点を不服として控訴したのです。

合理的なロイヤリティ料率の算定の背景

特許侵害訴訟における損害賠償額の算定では、合理的なロイヤリティ(reasonable royalty)の考え方が重要な役割を果たします。合理的なロイヤリティとは、特許権者と侵害者が仮に侵害開始前に自発的にライセンス交渉を行っていたら合意したであろう料率のことを指します。

1. 仮想的交渉アプローチ

合理的なロイヤリティの算定には、様々なアプローチがありますが、最も一般的なのが仮想的交渉アプローチ(hypothetical negotiation approach)です。このアプローチでは、特許権者と侵害者が侵害開始直前の時点で交渉を行ったと仮定し、その交渉で合意されたであろうロイヤリティ料率を推定します。仮想的交渉では、特許権者の特許による独占力と侵害者の代替技術の有無などの要素を考慮しながら、双方にとって合理的な料率を導出します。

2. ランプサムライセンスからロイヤリティ料率を導出する際の課題

特許ライセンス契約では、ランプサム(一括払い)方式が採用されることも少なくありません。ランプサム方式の場合、実施料はロイヤリティ料率ではなく固定金額で合意されるため、そこからロイヤリティ料率を直接的に導出することは困難です。また、ランプサムの金額がどのようにして算定されたのかが不明確なことも多く、それがロイヤリティ料率の推定を一層難しくしています。

この問題に関する連邦巡回区控訴裁判所(CAFC)の先例

合理的なロイヤリティの算定におけるランプサムライセンスの扱いについては、CAFCの判例が重要な指針となります。例えば、Lucent Techs., Inc. v. Gateway, Inc.事件(580 F.3d 1301, 1330 (Fed. Cir. 2009))では、「ランプサム支払いは、それが事案の事実関係にどのように適用されるかについての証言がなければ、ロイヤリティ料率を裏付けるものとはなり得ない」と判示されました。また、Whitserve, LLC v. Comput. Packages, Inc.事件(694 F.3d 10, 30 (Fed. Cir. 2012))では、ランプサムからロイヤリティ料率への変換方法を説明する証言がないことを理由に、損害賠償額が否定されています。

このようにCAFCは従来、ランプサムライセンスに基づく料率算定については慎重な姿勢を見せてきました。ランプサムからロイヤリティ料率を導き出すためには、事案の事実関係との関連性を丁寧に説明し、説得力のある論理を展開する必要があるというのが、先例の示すところです。本件は、まさにその点が問題となった事例だったのです。

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EcoFactorの損害賠償専門家の証言

EcoFactorの損害賠償専門家証人であるケネディ氏は、Googleとの仮想的交渉において$Xのロイヤリティ料率でライセンス合意がなされただろうと証言しました(ロイヤリティ単価の金額である$Xは、保護命令の対象となる企業秘密情報であるため、意見書には数値が記載されていません)。ケネディ氏の見解を裏付ける根拠として重視されたのが、3つのランプサムライセンス契約の存在です。

A. 専門家は3つの比較可能なランプサムライセンスに依拠

ケネディ氏は、EcoFactorがサードパーティーのスマートサーモスタットメーカーと締結した3つのライセンス契約(シュナイダー社、ダイキン社、ジョンソン社)を参照しました。これらの契約はいずれもランプサム方式を採用しており、ケネディ氏の主張する$Xの料率が記載されていたのです。

1. ライセンスには「whereas」条項にロイヤリティ料率が記載されていた

3つのライセンス契約には、前文(whereas条項)に以下のような記載があることがケネディ氏によって指摘されました。

「EcoFactorは、本契約に定めるランプサム金額が、『訴訟対象製品について過去及び将来の推定販売数量に、合理的なロイヤリティ料率である1台あたり$Xを乗じた額』であると信じている」(set forth in this Agreement based on what EcoFactor believes is a reasonable royalty calculation of [$X] per-unit for … estimated past and [] projected future sales of products accused of infringement in the Litigation)

2. ランプサム金額は記載されたロイヤリティ料率に「基づいて」いた

ケネディ氏は、ライセンス契約において規定されたランプサムの金額は、EcoFactorが合理的と考える料率である$Xに基づいて算出(based on what EcoFactor believes is a reasonable royalty calculation)されたものだと指摘しました。つまり、whereas条項に記載の料率が実際の金額の根拠になっているというのです。

B. 専門家はライセンスと仮想的交渉の相違点を考慮

ケネディ氏は、ライセンス契約がGoogleとのライセンスとは状況が異なることも考慮しました。例えば、3つのライセンスは訴訟の結果として締結されたものであるため、EcoFactorの特許が無効や非侵害とされるリスクが料率に織り込まれている可能性があります。他方、Googleとの仮想的交渉においては、特許が有効で侵害されていることが前提となります。したがって、単純にライセンス契約の料率をそのまま適用するのではなく、これらの相違点を料率に反映させる必要があると指摘しました。

C. 専門家はGoogleの利益とアンケートデータに基づいて価値を按分

さらにケネディ氏は、Googleの内部データを用いて、’327特許の機能がNest製品の利益にどの程度寄与しているかを分析しました。Googleの顧客アンケートと技術専門家の証言によれば、’327特許の機能はNest製品の利益の約Z%を生み出しているとのことです(このZ%という割合は、保護命令の対象となる業務上の機密情報であるので、意見書には数値が記載されていません)。ケネディ氏は、この利益寄与度の分析結果から、’327特許に帰属すべき適切な実施料は$Xを大きく上回ると指摘し、$Xという料率は控え目な数字だと主張しました。

CAFCの判断

EcoFactorの損害賠償専門家証人の証言を巡っては、CAFCの判事の間でも意見が分かれました。多数意見は証言の許容性を支持する一方、反対意見は証言の信頼性に疑問を呈したのです。 

A. 多数意見は専門家の証言は信頼でき許容されると判示

リーナ判事による多数意見は、ケネディ氏の証言は十分に信頼でき、許容されるべきだったとの立場を取りました。

1. ライセンスと補強証拠がロイヤリティ料率を十分に裏付けている

多数意見は、ケネディ氏が依拠した3つのライセンス契約とそれを補強するEcoFactor CEOの証言が、$Xという料率の妥当性を十分に裏付けていると判断しました。whereas条項の記載は一方当事者の主観にすぎないという点は認めつつも、契約の文言や関連する証言を総合的に評価すれば、料率の根拠として採用できると結論づけたのです。

2. 専門家は経済的な比較可能性と按分を適切に考慮した

また多数意見は、ケネディ氏が3つのライセンスとGoogleとの仮想的交渉の経済的な相違点を適切に考慮し、Googleの利益データ等に基づいて’327特許の価値を按分していることを高く評価しました。ライセンス契約をそのまま適用するのではなく、事案の個別事情を料率に反映させる努力が払われている以上、その意見は尊重されるべきだというのが多数意見の立場です。

B. 反対意見は証言は信頼性を欠き新たな審理が必要と主張

他方、プロスト判事による反対意見は、ケネディ氏の証言は信頼性に欠け、新たな審理が必要だと主張しました。反対意見の眼目は、ランプサム契約から料率を導出する方法の不合理性にあります。whereas条項はEcoFactorの一方的な見解を示すにすぎず、料率の根拠として採用すべきではないというのが反対意見の骨子です。加えて、ケネディ氏は3つのライセンスに含まれる’327特許以外の特許の価値を適切に考慮していないとも指摘しています。

C. 許容性基準とその判断における地裁の裁量が重要であることを強調

本件で特筆すべきは、証言の許容性の判断基準と、それに対する控訴審の姿勢が明確に示されたことです。多数意見は、地裁による許容性の判断は広範な裁量に委ねられていると述べ、証言の信頼性はむしろ陪審による事実認定の問題だと指摘しました。そのため、証言の許容性判断については控訴審は謙抑的であるべきだとの立場を鮮明にしたのです。他方、反対意見は、専門家証言の信頼性審査は陪審の役割を適切に果たすために不可欠の「ゲートキーピング」機能だと力説しています。

いずれにせよ、本判決は、専門家証言の採否をめぐる許容性の基準や、控訴審による審査密度のあり方について、重要な指針を示したものといえるでしょう。

ランプサムライセンスからロイヤリティ料率を決定する際の実務的示唆

EcoFactor v. Google事件のCAFC判決は、ランプサムライセンスに基づいて合理的なロイヤリティ料率を決定する際の実務に重要な示唆を与えるものです。

A. ランプサムライセンスから適切な事実関係の裏付けがあればロイヤリティ料率の根拠となり得る

本判決は、ランプサムライセンスであっても、それが合理的なロイヤリティ料率の根拠として採用され得ることを示しました。従来のCAFCの判例は、ランプサムからロイヤリティ料率を導出することには消極的でしたが、本判決は、適切な事実関係の裏付けがあれば、ランプサム契約も料率算定の基礎となり得ることを明らかにしたのです。もっとも、それには、ランプサムの金額とロイヤリティ料率との関連性を丁寧に説明する必要があります。本件では、whereas条項の記載や証言がそのような説明として機能したといえます。

B. 補強証拠と経済的比較可能性分析の重要性

また、ランプサムライセンスを合理的なロイヤリティ料率の根拠とするためには、それを補強する証拠の重要性も指摘されています。本件では、EcoFactor CEOの証言がランプサム契約の金額と料率の関係を裏付けるものとして重視されました。加えて、ライセンサーとライセンシーの経済的な状況の違いを考慮し、ライセンス料率をそのまま適用するのではなく、事案に応じて調整を加えることも求められます。単に形式的に先行ライセンスを援用するのではなく、個別事情を丹念に分析し、説得的な論理を展開する必要があるでしょう。

C. 比較可能なライセンスであっても、価値按分は不可欠

さらに、本判決は、ライセンス契約の対象に問題特許以外の特許が含まれている場合の価値按分の重要性も浮き彫りにしました。ケネディ氏は、Googleの利益データ等を用いて’327特許の価値を適切に按分したことが、多数意見によって高く評価されています。たとえライセンス契約が技術的に比較可能であっても、複数の特許が対象に含まれている以上、対象特許の価値を切り分ける作業は不可欠なのです。

以上のとおり、本判決は、ランプサムライセンスから合理的なロイヤリティ料率を導出する際の実務的留意点を示したものといえます。事案の個別事情を丹念に分析し、説得力ある論理を構築することが何より重要だといえるでしょう。比較可能なライセンスを形式的に援用するのではなく、ライセンサーとライセンシーの経済状況の違いや、対象特許の価値按分など、事案に応じたきめ細かな調整を施す必要があります。本判決は、そのような実務上の指針を示した点で、大いに参考になる判例だと言えそうです。

結論

EcoFactor v. Google事件のCAFC判決は、ランプサムライセンスから合理的なロイヤリティ料率を導出する際の重要な指針を示すものです。従来のCAFCの判例はランプサムからのロイヤリティ料率の算定には消極的でしたが、本判決は一定の条件の下でそれが可能であることを明らかにしました。ただし、そのためには、ランプサムの金額とロイヤリティ料率との関連性について説得力のある説明が求められます。また、ライセンサーとライセンシーの経済状況の違いや対象特許の価値按分など、事案の個別事情を丁寧に分析し、きめ細かな調整を施す必要があります。本判決は、ランプサムライセンスに基づく合理的なロイヤリティ料率の算定が認められる余地を広げたという点で、実務上重要な意義を有するものといえるでしょう。

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