アメリカにおける賠償金は高額になる傾向がありますが、今回、特許権者の損害賠償専門家が合理的なロイヤルティ損害賠償額を決定する際に、売上予測および「訴訟リスク倍率」を使用 することを支持する判決が下りました。これによりさらなる賠償金の増額が懸念されます。
和解を伴う訴訟での売上高の推定が賠償金算出に用いられる
原告 Arendi S.A.R.L.(以下「Arendi」)は、2012年と2013年に多数の被告に対して特許侵害訴訟を提起しました。それから約10年後、Microsoftを含む被告が和解した後、残りの被告は、Arendiの損害賠償専門家の特定の意見および証言の排除を求めました。
まず、被告側は、Arendiの損害賠償専門家が、実際の売上ではなく、ArendiのMicrosoftとの和解とMicrosoftの将来の売上高の推定に不適切に依拠していると主張します。
Microsoftとの和解に伴う1台当たりのロイヤリティを計算するために、Arendiの専門家は、和解金額を販売された、または販売されると予想される台数で割りました。
CAFCの判例は、将来のロイヤルティベースを推定するために販売予測に頼ることを専門家に許可しています。Interactive Pictures Corp. v. Infinite Pictures, Inc., 274 F.3d 1371, 1384 (Fed. Cir. 2001)
この判例に依存し、原告のArendiは、交渉当事者がその後それらの予測を満たさなかったという事実は、その当事者の仮想交渉時の心境とは無関係であるべきであり、また特許権者は、売上予測の正確性に関する意見の相違は、損害賠償専門家の意見に与えられるべき重みに関わるものであり、その容認性に関わるものではないと主張しました。
この主張と提示された証拠と議論を考慮し、裁判所は、意見書の除外に対する被告の要求を拒否しました。
潜在的な訴訟リスクと不確実性は賠償金を算出する際に考慮できる
第二に、被告側は、Arendiの専門家が、妥当なロイヤルティ損害賠償に関連する仮想交渉の一環として、当事者が直面する潜在的な訴訟リスクと不確実性を不適切に考慮したと主張しました。例えば、Arendiの専門家は、特許権者の合理的なリスク認識を、例えば、過去の訴訟歴に基づいて判断し、訴訟リスク倍率を算出しました。そして、Arendiの専門家は、Arendiの過去の和解から得られた単位当たりのロイヤリティをこの訴訟リスク倍率で増加させ、専門家が訴訟の残りの被告に対して回収可能であると考えた妥当なロイヤリティ損害額を決定しました。
特許権者が指摘するように、裁判所は、損害賠償の専門家が訴訟を継続するリスクを合理的なロイヤリティの計算に織り込むことを認めています。Spectralytics, Inc. v. Cordis Corp., 649 F.3d 1336, 1347 (Fed. Cir. 2011); Halo Elecs., Inc. v. Pulse Elecs., Inc., 136 S. Ct. 1923 (2016); Robocast, Inc. v. Microsoft Corp., No. 10-1055-RGA, 2014 WL 202399, at *3 (D. Del. Jan. 16, 2014); Saint Lawrence Commc’ns LLC v. ZTE Corp., No. 2:15-CV-349-JRG, 2017 WL 679623, at *2 (E.D. Tex. Feb. 21, 2017)
裁判所は、提示された証拠と議論に基づいて、専門家の意見の除外を求める被告の要求を再度否定しました。
特許権者有利な自由度の高い賠償金算出のツールを提供する判例
Arendiは、損害賠償専門家が合理的ロイヤルティ意見を裏付けるために、売上予測への依拠や訴訟リスクの分析など、自由に使える多くの手段を有していることを示す特許権者にとって優位な情報が詰まった判例となりました。