バイデン大統領の下では、知財は改革されるよりも進化する可能性が高い

前回はバイデン政権下における特許庁や次の長官の話をしたので、今回は司法省や裁判所など政治的な観点から知財の動向を語る上では外せない行政や司法機関を見ていきましょう。例えば司法省の反トラスト部門はSEPに関わる重要な行政機関です。また、特許訴訟が行われる連邦裁判所の判事の任命権は大統領にあります。そこで今回は政治と知財の話パート2として、司法省や裁判所の話をします。


司法省の人事は?

司法省(Department of Justice)の反トラスト部門(antitrust division)のトップが誰になるのか、これは注目すべき人事です。かつてはそれほど重要ではなかったかもしれませんが、今は重要になっています。というのも、現職のMakan Delrahim氏ほど知財政策に大きな影響を与えた人物はいないからです。

Delrahim氏は反トラスト部門に就任した最初の特許弁護士であり、クアルコム社を含む以前の個人事務所での仕事で培った顧客基盤から、前任者よりもSEP所有者に同情的なアプローチを提供するのではないかとの憶測が最初からありました。しかし、最も楽観的な見方をしている人でさえ、特許権者にとってはるかに有利な形で標準化を再構築しようとするDelrahim氏の努力に驚いたことでしょう。

一部の企業がSEPライセンスから数十億ドルを得ていることを考えれば、アメリカの独禁当局は特許市場に大きな影響力を持つことになります。バイデン司法省では、誰がトップの座に就くかだけでなく、その努力の中でどれだけ知的財産に関連したものがあるかが注目されるかもしれません。特に、大手ハイテク企業の市場力が注目されている今、その傾向が顕著に現れています。

バイデン・ホワイトハウスでの反トラスト法のスポットライトが、アマゾン、フェイスブック、グーグル、アップルなどの強大な権力に向けられているとすれば、知的財産権者は、司法省からの反トラスト法の適用を心配することはないかもしれません。しかし、FRANDとSEPの問題がハイテク分野だけでなく、それ以上に影響を与えるようになった今、Delrahim氏のスタンスの一部を見直すような要求が出てくるのは間違いありません。

例えば、自動車メーカーがこの分野で声を上げるようになることも考えられます。ミシガン州のような州で青い壁を再建したバイデン政権は、彼らの声に耳を傾けるかもしれません。しかし、コインの反対側では、米国がFRANDとSEPsの実施者に味方すればするほど、欧州、中国、そしてますますインドを中心とした世界の他の国々にルールの設定を任せることになります。それは賢い選択ではないかもしれません。

政治

知財オブザーバーの間では,特許に関しては,バイデン・ホワイトハウスはオバマ・パート2になると主張するのが一般的になってきています。トランプ氏とIancu氏は、Kappos後のオバマ大統領時代の知財政策から180度転換したと言われていますが、バイデン氏が副大統領に就任したことで、2013年から2017年の間に見てきたような、特にシリコンバレーに有利なアプローチに戻るのではないかという説が有力視されています。その結果、特許権の威力が弱まってくるので、多くの知的財産権者にとって、それは怖い見通しかもしれません。

しかし、バイデンの知財界で最も重要な人物であろうDemocrat Chris Coons氏の存在は無視できません。デラウェア州のバイデンの古い上院の議席に選出された議員は、知的財産権の問題に積極的に取り組んでおり、次期大統領に特に近いCapitol Hillの数少ない人物の一人です。今年初めのPolitico誌に掲載されたプロフィールによると、Coons氏は「上院のバイデン・ウィスパラー」と呼ばれ、注目度の高い内閣の役職に就くことについて語っています(おそらく国務長官も)。Coons氏がそのような役職に就けば、米国と中国との関係において知的財産権が優先されることを確実にする上で、非常に有利な立場にあることになるでしょう。

また、共和党が上院の支配権を維持した場合、バイデン政権が生命科学分野の特許権を削減するような改革を実施することが難しくなる可能性もあります。しかし、カマラ・ハリスを含む民主党の大統領候補者が、製薬会社の知的財産権保護を抑制するために背筋が凍るような約束をしたように、バイデンは比較的静かなままでした。彼の故郷であるデラウェア州は、製薬業界と長く深いつながりを持っています。それほどまでに、少なくとも次の大統領は、共和党上院の多数派を阻止することを歓迎するかもしれません。

裁判所の人事は?

全体的に見ると、バイデン政権は知財政策を策定し、物事の進め方に多少の変更を加えることができますが、もし大きな変化が起こるとすれば、法制化されるか、裁判所が手を加えるかのどちらか 1 つを取ることになります。

現状では、ホワイトハウスから「アメリカ発明法2.0」の提案がすぐに出てくるとは思えませんし、新しい101法案への支持もありません。そうなると、司法にこの問題は委ねられます。

ここでは、今後数年間、原告が選択する裁判地として、オルブライト判事のテキサス州西部地区に匹敵する裁判所が現れる可能性は低いでしょう。一方、被告(特に技術側)は、北カリフォルニアでの訴訟の審理を続けていくことになるでしょう。最高裁はこれまでのように特許訴訟の審理にはあまり関心がないようで、CAFCでの審理が中心となるでしょう。

全体的に見ると、今回の選挙は非常に重要なものであるにもかかわらず、知財界に とっては比較的小さな変化であると思われます。革命ではなく、進化が期待されるべきです。

実際、Iancu氏とDelrahim氏が行った作業と、トランプ大統領が行った連邦裁判所の任命数と、トランプ大統領が行った3人の最高裁判事の任命数を組み合わせて、2016年から2024年までの歴史を書くと、バイデン大統領よりもトランプ大統領の方が特許法と実務の発展に大きな影響力を持っていたと見られるかもしれません。

解説

アメリカにおける政権の交代は大きな変化を及ぼします。それは、オバマ政権からトランプ政権に変わってから4年間の間にどのようなことが起きたかを見ればわかると思います。しかし、知財という観点で見れば、他の分野ほどの政権ごとの違いはないので、極端に心配する必要もありませんが、政権交代のタイミングで、「知財と政治」について語られることが多いので、このタイミングで知財に関する政治的な要素を学んでおくのはいいと思います。

今回紹介した記事を理解するために知っておいきたいことは、プロパテントとアンチパテントの考え方です。これは時代によって変わってくるので、今どこにいて、これからどこに向かうかを知っておくことが大切です。次に、どちらがどの業界にとっていいのかということです。生命科学分野や製薬分野は、プロパテントを望みます。その逆に、IT企業はアンチパテントを望む傾向にあります。しかし、アメリカにとってITもバイオもとても重要な産業です。そのため、政権としてはプロパテントであってもアンチパテントであっても、その時代時代においてバランスを取ることが求められます。

現在、トランプ政権においては、プロパテントでこれからもプロパテントよりに進むことが予測されていました。しかし、バイデン政権下ではどうなるのか?オバマ政権に似たようなIT業界よりのアンチパテント政策が行われるのかも懸念されています。

その中でも、独禁法と特許の問題は、FTCがQualcommを訴えたことで大きな話題になりました。その反面、DOJは特許庁などとSEPに対する権利者有利のポリシーを発表するなど、行政機関の間でもねじれ現象のような状況になっているので、バイデン政権下で独禁法の観点からSEPのライセンスに関する取締が強化されるのかが1つの注目点になっています。

しかし、バイデン政権下ですぐに特許法の改正が行われる様子もなく、司法だけではすでに解決できない特許適格性についての問題も、議会で法整備されるような動きもまだありません。

司法に関しても、政権は大きく関与でき、特に大きいのは人事です。例えば、トランプ政権が行った3人の最高裁判事任命は大きな話題を呼びましたね。これはトランプ政権が終わった後も続く大きな変化の1つです。そして、大統領は連邦判事の任命もできます。トランプ政権は、司法での影響力を強めるために積極的に連邦判事の任命を行ってきました。特許訴訟も連邦地裁で取り扱われるので、トランプ政権が行ってきたことに関する影響は大きいです。

しかし、バイデン政権が同じような手法で、司法に影響を持つようなことをするかはまだ未知数で、今後どのような任命が行われるかに注目していくことが大切だと思います。

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まとめ作成者:野口剛史

元記事著者:Joff Wild. IAM(元記事を見る

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