AI時代の不透明な著作権と特許保護であっても今からやれること

AIによって生成された発明やコンテンツに関する知的財産法の進化はまだ発展途上です。それは立法、司法、または規制行動が追いつくまでは少なくとも数年はかかるでしょう。しかし、AI生成作品において保護を確保するためには人間の介入が重要であるは強調されており、今から発明家や著作者は自分たちの貢献を慎重に文書化するようにした方がいいでしょう。

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人工知能技術の進歩は、新しい発明、テキスト、画像、映像、その他のコンテンツを、かつてないスピードと容易さで生み出すことを可能にしました。しかし、この進歩は同時に重要な問「 知的財産法は、AIを使用して作成されたものをどのように保護するのだろうか?」という問題を生じさせました。

著作権法も特許法も、その答えは時代や技術の進歩とともに進化しています。

AI関連の最近の判決や通達を見ると、AIが人間の知性、技能、創造性を完全に代替することはできないことを示しています。しかし、すべてのAI支援コンテンツが現在、米国での保護を禁じられているわけではありません。

特許法

特許法は発明者を自然人と定めています。

昨年、米連邦巡回控訴裁判所(U.S. Court of Appeals for the Federal Circuit)において、米国特許商標庁(USPTO)は、出願人が作成したAIソフトウェアから生成された出力に関する特許の出願を却下しました。

関連記事:連邦巡回控訴裁が「発明者」はAIではなく人間でなければならないことを確認

USPTOは、発明者は個人でなければならず、個人は自然人でなければならないため、AIを発明者とすることはできないと判断しました。米連邦巡回控訴裁判所(以下CAFC)はこれに同意しましたが、「人間がAIの助けを借りて行った発明が特許保護の対象となるかどうか」については言及しませんでした。

連邦最高裁判所は、CAFCの判決をそのまま維持し、上訴を却下しました。

この案件以来、USPTOはAI and emerging technology partnership initiativeを通じ、また2月の意見募集で一般からの意見を求め、発明者としてのAIの役割と知的財産政策への影響を探ってきました。

これらの意見聴取では、AIシステムがイノベーション・エコシステムに与える影響の程度、AIシステムへの依存が発明の着想における他の技術ツールの使用とどのように異なるか、共同発明者責任の法理に基づきAIシステムが人間と同じレベルで発明に貢献した場合、どのような特許保護が受けられるべきかが検討されています。

今後は、ソフトウェアから医療機器に至るまで、あらゆる発明においてAIの支援が鍵となり、そのようなアウトプットがいつ特許可能な発明として認められるべきか、またそのような製品を使用、製造、販売する排他的権利が付随して認められるべきかを決定する制度の輪郭が注目されます。

著作権法

著作権法は、人間による著作を必要とすると繰り返し解釈されてきました。

著作者は、著作権の対象となる作品の創作を支援するために技術的ツールを利用することはできますが、それらの作品は人間によって創作されなければなりません。今年8月、Thaler v. Perlmutter事件において、コロンビア特別区連邦地方裁判所は、米国著作権局に略式判決を認め、原告のStephen Thalerが提出した略式判決のための反対申し立てを却下しました。

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Thaler氏は、Thaler氏が発明し “creativity machine “と命名した 「マシン上で動作するコンピュータ・アルゴリズムによって自律的に創作された」作品の著作権登録を拒否したのは著作権局の誤りであると主張しました。

著作権局は、登録を拒否するにあたり、著作権は人間の著作者によって創作された作品にのみ適用され、AIによって完全に創作された作品には適用されないと主張しました。

裁判所は、著作権には「作品に対する人間の関与と最終的な創造的コントロール」が必要であり、「人間の創造性は、その人間の創造性が新しいツールや新しいメディアを通して流されるとしても、著作権性の核となるものである」という著作権局の見解に同意しました。

人間以外が創作した作品は著作権法では保護されません。しかし、人間の創造性がテクノロジーと組み合わさることで、人間がカメラを使って撮影した写真のように、著作権で保護される作品が生まれる可能性があります

裁判所は、「われわれは著作権における新たなフロンティアに近づきつつある」とし、以下のような多くの未解決の問題が残っていることを認めました。

  • AIシステムのユーザーを、生成された作品の「著作者」として認定するためにどれだけの人間の入力が必要なのか?
  • 結果として得られる画像に対して得られる保護の範囲は?
  • システムが未知の既存の作品について訓練された可能性がある場合に、AIが生成した作品の独創性をどのように評価するのか?
  • AIが関与する創造的な作品にインセンティブを与えるために著作権をどのように利用するのが最善なのか?

などです。

Thaler事件を取り扱った裁判所は、人間の創造性を伴わない人工知能によって創作された作品が著作権で保護されるかどうかという狭い問題を扱っていましたが、著作権局は、著作権登録にどの程度の人間の関与が必要かという新たなフロンティアと格闘しています。

著作権局によると、今年6月の時点で、ジェネレーティブAIを用いて創作されたコンテンツを組み込んだとされる作品の提出は100件未満しか受けていないとのことでした。

著作権局は、2021年版米国著作権庁実務大要(2021 Compendium of U.S. Copyright Office Practices)において、「『著作者』の著作物として認められるためには、著作物は人間によって創作されなければならない」とし、「人間の著作者からの創作的な入力や介入なしに無作為または自動的に動作する機械または単なる機械的なプロセスによって制作された著作物は登録されない」ということを明確にしました。

また、AIが生成した素材を含む作品の審査と登録に関する実務をさらに明確にするため、著作権局はこれらの作品に関する著作権登録ガイダンスを発表し、登録のために提出された作品に、請求不可能なAIが生成したコンテンツが含まれていることと、請求可能な人間の貢献が含まれていることの開示を要求しました。

これらの原則を適用し、コミック「暁のザリヤ」に関する登録決定において、著作権局は、ジェネレーティブAIアートプラットフォームであるMidjourney Inc.を使用して作成された画像の保護を拒否しました。

関連記事:AIを活用した漫画が限定的な著作権登録を受ける

著作権局は、Midjourneyは作者が「自分の望むイメージに到達するようコントロールし導くツール」ではなく、「予測不可能な方法でイメージを生成するツール」であると指摘しました。この見解によれば、ユーザーが提供するプロンプトは、コンテンツ出力がどのように見えるかを指示するのではなく、単に示唆するに過ぎないとのことです。

著作権局は、申請者であるKris Kashtanovaが、Kashtanova氏がこれらの要素に単独で責任を負うことを証明した場合、テキスト、画像とテキストの選択と配置の登録を認めました。

Kashtanova氏の2つ目の申請(現在も申請中)は、新たな法学的フロンティアを示しています。この申請は、「ローズ・エニグマ」(”Rose Enigma”)と題された、人間の作者による著作権で保護されたドローイングに端を発し、その後AIツールで色と立体感を追加するために反復されましたが、それ以外は元の表現との実質的な類似性を保持する画像を、著作権法が二次的著作物としてカバーするかどうかという問題を提起しています。

著作権局はこの作品についてまだ見解を示していませんが、AIが生成したコンテンツを含む著作物の登録ガイダンスに関する6月のウェビナーでは、AIが開発または修正した著作物は著作権法による保護の対象にはならないという同局の立場が、AIによって修正されたイラストの例を用いて繰り返し述べられています:

「人間の著作者によって作成された写真またはイラストに、AIを使用してかなりの変更を加えることを計画している場合、公的に表示または公的に頒布する予定のバージョンが変更されたAIのバージョンだけであっても、AIの変更を加えずに人間が作成した写真またはイラストを登録することは可能です。しかし、AIによる変更がたとえ最小限であっても、そのような場合は、登録時にAIの使用を明確に表示しなければいけません。」

保護は、人間が作成した構成要素にのみ発生し、AIツールの操作には発生しませんが、それでも、結果として生じる画像や作品は、元の著作権のあるものと実質的に類似している可能性があり、第三者が許可なく複製できない保護可能な二次的著作物を構成します。

「ローズ・エニグマ」の登録可能性に関する著作権局の判断は、この問題を決定するものであり、また、著作者がAIツールに対して十分な支配力を行使する状況、例えば、詳細なプロンプトに著作物を含めることによって、生成されるものを制御することができ、その結果、著作権法の下で保護される出力が得られるかどうかを解明する可能性もあります。

今後の展望

議会、裁判所、あるいは規制当局がより明確な行動を起こすまでは、急速に進歩するテクノロジーが、時代遅れのルールに支配され、そのスピードについていけないという状況が続くことが予想されます。

それでも生成AIを用いた発明やコンテンツの知財保護の可能性は十分あります。

米国特許商標庁(USPTO)も著作権局(Copyright Office)も、AIが支援する作品が特許法や著作権法で保護される可能性を残しており、AIを活用したイノベーションに対して何らかの知的財産権保護を可能にする方法を調査しているところです。

例えば、発明者や著作者がAIに対して十分な制御を行い、ユーザー主導のアウトプットを実証する場合、保護が生じる可能性があります。

現在のガイダンスによれば、ジェネレーティブAI技術のすべての使用が著作権登録可能なコンテンツを生み出すわけではありませんが、著作権局は、人為的な指示が十分であったかどうかを判断する際に、AIによる貢献が著作者の「(著作者が)目に見える形を与えた、独自の心的構想」であるかどうかを考慮しています。

著作権局はこの判断をケースバイケースで行い、「答えは状況、特にAIツールがどのように動作し、最終的な作品を創作するためにどのように使用されたかによる。」としています。

著作権局は、生成AIについてまだ学習中であることを認めており、今後の展開や方針は注目していく必要があります。

著作権局は、より多くの著作権申請を審査し、それらの申請の対象となる作品を創作するために使用される技術を研究する機会を得るにつれて、著作者性と、AIツールで全体的または部分的に創作された作品の保護範囲について、より多くのガイダンスを提供することを期待しています。その分析においては、支配と指示が重要な要素となる可能性が高いと思われます。

同様に、特許の分野では、人間の発明者がAIからの支援を受けながらも、発明に対する主要な新規貢献を行った場合、より多くの保護が期待されるかもしれません。

法律の不確実性を考慮すると、今のところ、著作者や発明者になる人は、AI技術による貢献とは対照的に、自分の著作物や発明に対する個人的な貢献を綿密に文書化する必要があります。

著作権登録を利用しようとする者は、AIによって生成されたコンテンツや構成要素の存在も著作権局に開示しなければならないため、これは著作者にとって特に重要です。

このような法的問題が発展する可能性があることを考慮すると、著作者や発明者は、AIがどのような技術でどのように作品に貢献したかを特定できるように準備しておく必要があります。

AIを使用する著作者や発明者により有利なアプローチが特許庁や著作権局によって採用され、人間の発明者がAIによって支援された場合の保護が認められるようになれば、知的財産権の保護をサポートするためにこの文書化が重要になるでしょう。

今後数年間でAI関連の知財の枠組みができると考えていますが、法制度がどれだけバランスを取れる仕組みになるのかが注目されます。

参考記事:Uncertain Copyright and Patent Protections in the AI Age

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