1. はじめに
米国著作権局(U.S. Copyright Office)は2025年1月29日、人工知能(AI)が生成する著作物の著作権保護に関する包括的な報告書を公表しました。この報告書は、AIを利用した創作物の著作権保護について、人間の創作性を中心に据えた明確な指針を示しています。特に重要なのは、AIをツールとして使用する場合と完全にAIに依存する場合を区別し、人間の創作的コントロールの程度に基づいて保護の可否を判断するというアプローチです。
この新たな指針は、知的財産の専門家にとって重要な意味を持ちます。なぜなら、多くのクライアントが著作物の作成や創作的コンテンツの生成にAIを活用し始めているからです。また、AIを活用した創作物の保護においても、AIの利用方法によって著作権保護の範囲が変わる可能性があることを理解しておく必要があります。
報告書で特に注目すべきは、プロンプトのみによる生成物には著作権保護を認めないという明確な立場を示した点です。これは、現在の技術水準では、プロンプトだけでは人間による十分な創作的コントロールが及んでいないと判断されたためです。一方で、人間が創作した著作物をAIに入力し、その要素が最終的な成果物に認識可能な形で残っている場合や、AI生成物に対して人間が実質的な創造的修正を加えた場合には、著作権保護の可能性を認めています。
このような著作権局の新たな方針は、AIと知的財産権の関係について、より明確な法的枠組みを提供するものといえます。本稿では、この報告書の重要なポイントを解説するとともに、知的財産の専門家が知っておくべき実務上の留意点について詳しく説明していきます。AIと著作権の交点に関する明確な指針は、今後の知的財産実務における重要な指標となるでしょう。
2. 報告書の背景と重要性
2.1. 報告書公表の経緯
生成AI技術の急速な発展と普及を背景に、米国著作権局は2023年初頭からAIと著作権の交点に関する包括的な調査を開始しました。この取り組みの一環として、2023年3月にはAI生成コンテンツを含む著作物の登録に関する政策声明を発表し、同年8月には一般からの意見募集を実施しています。
今回の報告書は、1万件を超える意見提出を分析した結果として公表されたものです。意見提出者には、作家、作曲家、アーティスト、出版社、プロデューサー、弁護士、学者、テクノロジー企業、図書館、スポーツリーグ、業界団体など、幅広い利害関係者が含まれていました。特筆すべきは、これらの意見が全米50州のみならず、67カ国からも寄せられたという点で、この問題に対する国際的な関心の高さを示しています。
このような広範な意見収集プロセスを経て、著作権局は既存の著作権法の枠組みでAI生成物の著作権保護問題に対応できるという結論に至りました。立法的な対応は不要との判断は、法的安定性の観点から実務家にとって重要な意味を持ちます。
2.2. 米国著作権制度における人間の著作者性要件
米国著作権法における人間の著作者性(human authorship)の要件は、単なる技術的な要件ではなく、憲法上の要請に基づくものです。米国憲法第1条8節8項(Copyright Clause)は、「著作者」に対して「著作物」の独占的権利を付与する権限を議会に与えています。この「著作者」という概念は、人間の創造性を前提としているというのが、長年の判例法理の立場です。
この原則は、過去のいくつかの重要な判例でも確認されています。たとえば、Burrow-Giles Lithographic Co. v. Sarony事件では、「著作者」を「何かの起源となる者、創作者、作り手」と定義し、著作権を「人間の知性の産物に対する独占的権利」として位置づけました。この解釈は、現代のAI技術が登場する遥か以前に確立されたものですが、今日でもなお重要な意味を持っています。
直近では、米国コロンビア特別区連邦地方裁判所が2023年8月のThaler v. Perlmutter事件において、AIによって自律的に生成された作品の著作権登録を拒絶した著作権局の判断を支持しました。この判決は、人間の著作者性要件が現代のAI時代においても揺るぎない原則であることを改めて確認したものといえます。同事件は現在控訴審に係属中ですが、著作権局は今回の報告書において、人間の著作者性要件に関する従来の立場を強く再確認しています。
3. AIの利用形態による著作権保護の判断基準
3.1. AIをツールとして使用する場合
著作権局は、AIの利用形態を「ツールとしての使用」と「創作的表現の代替」という2つの類型に分けて判断基準を示しています。AIをツールとして使用する場合、つまり人間の創造性を補助する手段としてAIを活用する場合には、従来の著作権保護が維持されます。
例えば、映画製作におけるビジュアルエフェクトの生成や、音楽制作における音声の編集にAIを利用する場合が、この類型に該当します。著作権局は、このような利用方法は、カメラやワープロといった従来の創作補助ツールの延長線上にあるものとして捉えています。実際、Burrow-Giles Lithographic Co. v. Sarony事件で示された原則は、機械(カメラ)の使用自体は人間の創作性を否定する要因とはならないことを明確にしています。
3.2. AIが創作的表現を代替する場合
一方、AIが人間の創作的表現を代替する場合、つまりAIが実質的な創作的判断を行う場合には、著作権保護は認められません。著作権局は、このような場合には、人間による創作的コントロール(human control over expressive elements)が欠如しているとの立場を取っています。
特に重要なのは、AIによる創作的表現の代替が作品の一部分にとどまる場合の取り扱いです。報告書によれば、人間が創作した大きな作品の中にAI生成物が含まれている場合、作品全体としての著作権保護は否定されません。これは、映画における特殊効果や背景アートにAIを使用する場合などが該当します。ただし、AI生成部分自体は保護対象から除外されることに注意が必要です。
3.3. プロンプトのみによる生成と著作権保護
現在の技術水準では、プロンプト(prompts)のみによる生成物には著作権保護が認められないというのが、著作権局の明確な立場です。詳細なプロンプトエンジニアリング(prompt engineering)を行った場合でも、プロンプトは本質的には「指示」にすぎず、表現の方法をAIシステムが決定している以上、人間による十分な創作的コントロールがあるとは認められないとされています。
著作権局は、この判断の根拠として、現在のAIシステムが「ブラックボックス」的な性質を持つことを指摘しています。同じプロンプトを使用しても、異なる出力が生成される可能性があり、プロンプトに明示的に指定していない要素が出力に含まれたり、指定した要素が出力から欠落したりする現象が一般的に観察されます。つまり、プロンプトによって最終的な表現をコントロールすることは、技術的に困難だというわけです。
また、プロンプトを繰り返し修正することによって目的の出力を得る手法についても、これは単に「サイコロを振り直している」にすぎず、創作的コントロールとは認められないとしています。この判断は、著作権保護には「アイデアの表現方法」に対する人間のコントロールが必要であるという基本原則に基づいています。
4. 著作権保護が認められる具体的なケース
4.1. 人間が創作した表現的入力が認識可能な場合
著作権局は、人間が創作した表現的入力(expressive inputs)がAI生成物に認識可能な形で残っている場合、その部分について著作権保護を認めています。この判断は、派生的著作物(derivative works)の保護に関する考え方を応用したものといえます。

具体的な例として、著作権局は実際の登録事例を挙げています。ある事例では、アーティストが手描きのイラストをAIに入力し、写実的な画像を生成しました。この作品では、マスクの輪郭、鼻や口、頬骨の位置、茎とバラのつぼみの配置、4枚の葉の形状と配置など、元の手描きイラストの表現的要素が最終的なAI生成物に明確に認識できました。著作権局は、これらの人間による創作的要素に限定して著作権登録を認めましたが、AIが生成した写実的な表現や背景の陰影などは保護の対象から除外しています。
4.2. AI生成物の創造的な選択・配列・修正
AI生成物に対して人間が創造的な選択、配列、または修正を加えた場合、その創造的貢献部分について著作権保護が認められます。これは、編集著作物(compilation)の保護に関する法理を応用したアプローチです。多くのAIプラットフォームが提供している選択、編集、適応のためのツールを使用して、人間がAI生成物に対して実質的な創造的コントロールを及ぼした場合が、この類型に該当します。
ただし、著作権局は、このような創造的貢献が著作権法上の「最小限の創作性(minimum creativity)」の基準を満たす必要があると強調しています。たとえば、2つか3つの要素の選択や配列だけでは、通常、この基準を満たさないとされています。つまり、単なる機械的な選択や配列ではなく、実質的な創造的判断が必要とされるわけです。
4.3. 人間の創作物とAI生成物の組み合わせ
人間の創作物とAI生成物を組み合わせた作品については、人間が創作した部分とその創造的な組み合わせについて著作権保護が認められます。著作権局は、この判断の具体例として、テキストと画像を組み合わせたコミック作品の登録事例を紹介しています。この事例では、人間が執筆したテキストと、AIで生成した画像の選択・配置について創造的な判断がなされていたため、編集著作物としての保護が認められました。
著作権局は、この類型の保護において重要なのは、単なる機械的な組み合わせではなく、作品全体を通じて一貫した創造的判断が示されていることだと説明しています。たとえば、映画作品においてAIで生成した特殊効果や背景アートを使用する場合、それらの要素をどのように組み込むかについての創造的な判断が、作品全体の著作権保護に影響を与えることになります。
なお、これらのケースにおいても、AI生成部分それ自体は保護対象とならないという原則は維持されています。つまり、著作権保護は、人間の創造的貢献が及ぶ範囲に限定されるということです。
5. 実務上の留意点
5.1. 著作権登録申請時の注意事項
著作権登録申請時には、AI使用の開示と人間の創作的貢献の明確な説明が求められます。特に、作品にAI生成要素が実質的に含まれている場合(more than de minimis amount)、申請者はその旨を開示し、人間の著作者による貢献について簡潔な説明を提供する必要があります。こうした開示は、登録の有効性を確保する上で極めて重要です。
著作権局は、登録申請時の説明において、人間の創作的貢献とAI生成部分を明確に区別することを推奨しています。たとえば、手描きイラストをAIに入力して生成した作品を登録する場合、「非人間による表現(any non-human expression)」を明示的に権利主張から除外する注釈を付すことが有効です。このような除外注釈により、保護範囲が明確になり、将来の権利行使における予見可能性が高まります。
5.2. AIの使用に関する記録の保持
AIを利用した創作プロセスの詳細な記録を保持することは、著作権保護を主張する上で重要な意味を持ちます。創作過程における人間の実質的な関与を立証するため、以下の情報を体系的に記録することが推奨されます:使用したAIシステムの種類、入力した人間の創作物の内容、選択や修正の過程、最終的な成果物における人間の創造的判断の内容などです。
特に重要なのは、入力として使用した人間の創作物と最終的なAI生成物の関係性を示す証拠の保持です。訴訟等で著作権保護の範囲が争われた場合、これらの記録が人間の創作的貢献の立証に決定的な役割を果たす可能性があります。また、複数回の修正や選択を経て最終的な作品が完成した場合、その過程での創造的判断の記録も重要な証拠となります。
5.3. 国際的な保護の動向への対応
現在、AI生成物の著作権保護に関する各国の対応は発展途上にあります。韓国著作権委員会および文化体育観光部が2023年に公表した「生成AIと著作権に関するガイド(A Guide on Generative AI and Copyright)」や、日本の文化審議会著作権分科会法制度小委員会が2024年3月に発表した「AI と著作権に関する考え方について(General Understanding on AI and Copyright)」など、各国が独自のガイドラインを策定しています。
各国の保護基準は、人間の著作者性を要求する点では概ね一致していますが、具体的な判断基準は異なる場合があります。たとえば、中国の北京インターネット裁判所は、150以上のプロンプトの選択と事後の調整・修正を組み合わせたAI生成画像について、著作権保護を認める判断を示しています。こうした国際的な動向の違いを踏まえ、クライアントの作品を国際的に保護する戦略を検討する必要があります。
6. 結論
米国著作権局が示した新たな指針は、AI時代における著作権保護の実務的な枠組みを明確化し、人間の創作性を中心に据えた判断基準を確立しました。AIをツールとして使用する場合と創作的表現の代替として使用する場合を区別し、プロンプトのみによる生成物には著作権保護を認めない一方で、人間の創作的入力が認識可能な場合や実質的な創造的修正が加えられた場合には保護を認めるという具体的な基準は、実務家にとって重要な指針となります。今後は、AIの利用に関する詳細な記録の保持や国際的な保護動向への対応など、実務上の留意点を踏まえながら、クライアントの権利保護を適切に行っていくことが求められます。