WIPOがArtificial Intelligence and Intellectual Property Policy に関する意見を公募すると発表しました。この公募に伴い、WIPOはIssues Paper を発行することで、AI関連ですぐに対応が必要な問題を定義し、AIと知財のポリシーに関して幅広いフィードバックを求めています。
WIPOのこれまでの動き
このIssues Paperは、WIPOが近年に行ってきたAI関連の知財問題に関する活動に沿っています。例えば、2019年1月、WIPOは publication において、1950年代以降のAI関連の発明ランドスケープを調査しました。また、2019年9月には、WIPOはConversation on IP and AIを開きました。
USPTOでもAIに関する動きが
OLCでも取り上げましたが、AIと知財の関係の重要性を認識したUSPTOも、独自に一般から意見を取り入れています。例:2019年8月の “Request for Comments on Patenting Artificial Intelligence Inventions” や、2019年10月の “Request for Comments on Intellectual Property Protection for Artificial Intelligence Innovation” など。
WIPOのIssues Paperの範囲
Issues Paperは以下の6つの分野を特定しています:
- 特許
- コピーライト
- データ
- デザイン
- Technology Gap and Capacity Building
- Accountability for IP Administrative Decisions
特に特許では以下の5つの問題が特定されています。
- 発明権利と所有権利の問題: Inventorship and ownership, including whether the law should permit or require a patent applicant to name an AI (software) application as the inventor, or whether the law should require that a human being be named as the inventor.
- 特許適格性と特許性に関わるガイドライン:Patentable subject matter and patentability guidelines, including whether the law should exclude from patent eligibility inventions that are autonomously generated by an AI application.
- 新規性・進歩性に関する基準:The standard applied for assessing whether there is an inventive step or non-obviousness, including whether the standard of a person skilled in the art should be maintained where the invention is autonomously generated by an AI application.
- 開示義務:Disclosure requirements that will sufficiently enable a person skilled in the relevant art to reproduce the invention, including the issues that AI-assisted or AI-generated inventions present for the disclosure requirement.
- 一般的なポリシー:General policy considerations for the patent system, including whether consideration should be given to a sui generis system of IP rights for AI-generated inventions in order to adjust innovation incentives for AI.
WIPOの意図
現時点において、WIPOは上記で示されたような問題に対する「答え」を求めてはいません。(これはUSPTOのりすけストとは異なるところです。)
そうではなく、WIPOは問題提議が正しく特定されているかについてのコメントを求めています。コメントは2020年2月14日まで受け付けているとのことです。
まとめ
WIPOはAIに関する知財ポリシーについて積極的に行動しています。ここで提出されたコメントは今後のWIPOにおけるAI関連知財ポリシーに大きな影響を与えるかもしれません。AIと知財は今後切っても切り離せない関係になっていくのは間違いありません。そのため、環境を整え、どのようなポリシーにおいて、AIに関する知財を取り扱っていくのかを議論する必要があるのです。
今後もこのような活動は活発になっていくでしょう。そして、権利化や判例を経て、徐々にAIに関する知財ポリシーが形成されていきます。
まとめ作成者:野口剛史
元記事著者:Gregory Discher. Covington & Burling LLP (元記事を見る)
4件のフィードバック
「進歩性・肘名声に関する基準」のところの「肘名声」は誤記のように思われます。
芹田さん
間違えを指摘していただきありがとうございました。内容を訂正しました。
芹田さんはAI関連の発明に関わっておられるのですか?AI関連の発明に対する特許周りの整備はこれから本格化されると思います。特にAIを発明者として出願したDABUSなどをきっかけにAIの取り扱いに関する議論が世界で活発化していきます。
野口さん
聞いて頂き、ありがとうございます。
以前勤めていた会社でAI関連の特許に関わってました。
当時、AI関連の特許のDD(due diligence)にかなり苦労した事や、元々が信号処理が専門だったこともあり、今後のAI関連の知財動向に興味を持っております。
侵害発見が難しいのに、どのように活用していくか、コーデックや無線通信と異なり、インターフェース関連ではないため、標準化してSEPの世界に持っていくのも難しいと思うので、単発の特許での活用はかなり難しいと思われます。
そのため、IBMのように件数取って、どれか当たってるだろう的な権利活用の仕方になるのかな、と勉強不足ながらもぼんやりイメージしておりますが、昔のMPEGのパテントプールのように、何かAI知財に特化した活用のシステムが新しくできるのが一番好ましいのではないか、と考えております。
そのようなシステムがなければ、やはりAI特許は侵害発見が難しいため、自社実施保護(というか、使ってても大丈夫だろうという安心感確保)のツールという感じになってしまうのかな、と考えております。
ただ、それでは企業としても、AI関連特許出願/権利化の費用に対して効果が見合わなくなるので、きっと頭に良い人が何かよい仕組みを思い付いてくれるのではないか、と期待しています。
確かにAIの用途にもよるかもしれませんが、侵害発見は難しそうですね。AIの分野は技術的にも・知財的にもまだ発展途上ですが、どう成長していくのかとても楽しみな分野です。