1. はじめに
米国特許商標庁(United States Patent and Trademark Office、USPTO)は、一部の特許期間調整(Patent Term Adjustment、PTA)の計算に関し、誤りがあったことを認めました。USPTOが公開した情報によると、特許期間調整ソフトウェアの更新時に導入されたコーディングエラーにより、特許の一部でPTAの計算に誤りが生じた可能性があるとのことです。
特許期間調整は、USPTOの審査遅延を補償するために設けられた重要な制度です。そのため、このエラーは特許権者の権利に直接的な影響を与える可能性があり、早急な対応が求められています。本記事では、このエラーの詳細、影響を受ける可能性のある特許、そして特許権者が取るべき対応策について詳しく解説していきます。
2. 特許期間調整(PTA)ソフトウェアの計算エラーについて
2.1. エラーの概要と影響範囲
USPTOが公表した情報によると、特許期間調整の計算エラーは、2024年3月19日から7月30日までに発行された特許に影響を与えている可能性があります。具体的には、35 U.S.C. 154(b)(1)(A)に基づく遅延(「A」遅延)と35 U.S.C. 154(b)(2)(A)に基づく重複(「Overlap」)の計算に誤りが生じています。
USPTOは多くの特許において、不正確な「A」遅延の量が不正確な「Overlap」の量と等しくなったため、全体的なPTAの量は正確なままである可能性が高いと述べています。しかし、一部のケースでは、「Overlap」の不正確な量が「A」遅延の不正確さと一致せず、特許権者が不正確な全体的なPTAを受け取る可能性があります。
2.2. エラーが発生した原因
エラーの原因は、USPTOのソフトウェア更新時に導入されたコーディングエラーにあります。USPTOは、ワンパテントサービスゲートウェイ(One Patent Service Gateway、OPSG)システムに記録された情報を使用して、特許期間調整の自動計算を行っています。このシステムは、2013年1月14日に制定されたAIA技術修正法(AIA Technical Corrections Act)に基づいて運用されています。
今回のエラーは、このシステムの更新過程で発生したものと考えられます。USPTOは、エラーの原因を特定し、コンピュータプログラムを修正したと発表しています。
2.3. 影響を受ける特許の割合
USPTOの推定によると、2024年3月19日から7月30日までに発行された特許のうち、約1%がこのコーディングエラーの影響を受けた可能性があります。これは決して小さな数字ではありません。
影響を受ける特許の中には、全体的なPTA量が正確なままのものもありますが、一部の特許では不正確なPTAが付与されている可能性があります。特許権者は、自身の特許が影響を受けているかどうかを確認し、必要に応じて対応を取ることが重要です。
この問題は、特許の価値に直接影響を与える可能性があるため、特許権者や知的財産専門家にとって重大な関心事となっています。特に、医薬品や技術分野など、特許期間が事業戦略に大きく影響する業界では、このエラーの影響を慎重に評価する必要があります。
3. 特許権者への影響
3.1. PTAの誤計算による不利益
特許期間調整(PTA)の誤計算は、特許権者に様々な不利益をもたらす可能性があります。最も直接的な影響は、特許の有効期間の変更です。PTAは特許の有効期間を延長するものであるため、誤って短く計算された場合、特許権者は本来得られるはずだった保護期間を失うことになります。
一方で、PTAが誤って長く計算された場合、特許権者は一時的に長い保護期間を享受できるように見えますが、後に修正された場合には予期せぬ特許期間の短縮に直面する可能性があります。これは、特に製品開発や市場戦略に大きく影響を与える可能性があります。
さらに、PTAの誤計算は、特許の価値評価にも影響を与えます。特許の価値は、その有効期間と密接に関連しているため、PTAの誤りは特許ポートフォリオの価値評価に誤差を生じさせる可能性があります。これは、特許の売買、ライセンス供与、あるいは特許を担保とした資金調達などの取引に影響を及ぼす可能性があります。
また、競合他社との関係においても、PTAの誤計算は問題を引き起こす可能性があります。誤って短いPTAが付与された場合、競合他社が早期に市場参入できる可能性が生じ、特許権者の市場独占期間が予期せず短縮される恐れがあります。
3.2. 再計算が必要となるケース
USPTOの発表によると、2024年3月19日から7月30日までに発行された特許の約1%がこのエラーの影響を受けている可能性があります。しかし、全ての影響を受けた特許で再計算が必要というわけではありません。
再計算が特に重要となるケースは以下の通りです:
- 「A」遅延と「Overlap」の不一致:多くの場合、不正確な「A」遅延の量が不正確な「Overlap」の量と等しくなり、全体的なPTAは正確なままである可能性が高いとUSPTOは述べています。しかし、これらの値が一致しない場合、全体的なPTAが不正確となる可能性が高く、再計算が必要です。
- 重要な特許:特許ポートフォリオの中核を成す重要な特許や、高い経済的価値を持つ特許については、たとえ影響が小さいと思われる場合でも、正確性を期すために再計算を検討する価値があります。
- 特許期間が重要な技術分野:医薬品や一部の技術分野では、特許期間が事業戦略に大きく影響します。これらの分野の特許については、わずかなPTAの変更でも大きな影響を及ぼす可能性があるため、再計算を検討すべきです。
- ライセンス供与や訴訟に関わる特許:現在ライセンス交渉中の特許や、訴訟に関わっている特許については、正確なPTAが重要となるため、再計算を検討する必要があります。
特許権者は、まず自身の特許ポートフォリオを慎重に評価し、これらのケースに該当する特許がないか確認することが重要です。
4. USPTOの対応と是正措置
USPTOは、特許期間調整(PTA)ソフトウェアのエラーを発見後、迅速に対応策を講じています。まず、エラーの原因となったコーディングの問題を特定し、修正を行いました。これにより、今後発行される特許については正確なPTA計算が行われることが期待されます。
再計算プロセスについては、USPTOは特許権者からの再考申請(request for reconsideration)に基づいて個別に対応する方針を示しています。この申請は、37 CFR 1.705(b)に基づいて行われます。特許庁は、請願局(Office of Petitions)が手動で再考申請をレビューし、37 CFR 1.702から1.704の規制に照らしてPTA計算の正確性を確認するとしています。
注目すべき点として、USPTOは「A」遅延と「Overlap」の計算エラーのみが原因で再考申請を行う場合、37 CFR 1.705(b)(1)に定められた申請料金を免除すると発表しています。これは、特許権者の負担を軽減し、エラーの迅速な修正を促進するための措置と言えるでしょう。
対応の詳細は、USPTOの公式声明で確認してください。
5. 結論
USPTOの特許期間調整(PTA)ソフトウェアにおける計算エラーは、特許制度の信頼性と特許権者の権利保護に関する重要な問題を提起しました。このエラーは、2024年3月19日から7月30日までに発行された特許の約1%に影響を与えた可能性があり、特許権者に潜在的な不利益をもたらす可能性があります。USPTOは迅速に対応し、エラーの修正と再計算プロセスを確立しましたが、特許権者自身も自らの権利を守るために積極的な行動が求められます。