特許出願人が米国輸出管理規制の基礎知識や実務上の留意点を解説した画像

特許出願人が知っておくべき米国輸出管理規制の基礎知識

近年、グローバル化の進展に伴い、企業の研究開発活動は国境を越えて行われるようになっています。特許出願においても、発明者が複数の国に跨っていたり、出願業務を外国の特許事務所に依頼したりするケースが増えてきました。しかし、特許出願に関わる技術情報の国外移転には、米国輸出管理規制の観点から注意が必要です。

米国には、国家安全保障を目的として、先端技術の流出を防ぐための輸出管理法規があります。これらの法規は、特許出願のプロセスにも大きな影響を与えます。例えば、「米国内で生まれた発明」(inventions made in the U.S.) を外国に特許出願する際には、事前に米国特許商標庁(USPTO)から外国出願ライセンスを取得する必要があります。また、米国企業が外国の企業や個人と技術情報をやりとりする場合やアメリカ国内でも特定の条件下で「みなし輸出」として取り扱われ、輸出管理法規の対象となる可能性があります

これらの輸出管理法規に違反すると、刑事罰や民事制裁など重大なペナルティが科される可能性があります。したがって、特許出願人は、輸出管理法規の基本的な枠組みを理解し、適切な対策を取ることが重要です。

本記事では、米国の輸出管理法規の概要を説明した上で、特許出願における具体的な問題点を解説します。また、出願前の技術情報の取り扱いに関するリスクについても触れます。最後に、輸出管理法規違反のペナルティと、実務上の対策についてもお伝えします。本記事が、特許出願人の皆様にとって、輸出管理コンプライアンスの指針となれば幸いです。

輸出管理法規の概要

米国の輸出管理法規は、大きく分けて「輸出管理規則(EAR)」と「国際武器取引規制(ITAR)」の2つがあります。これらの法規は、国家安全保障に関わる重要な技術や情報が外国に流出することを防ぐことを目的としています。

1. 輸出管理規則(Export Administration Regulations: EAR)

輸出管理規則(EAR)は、商務省産業安全保障局(BIS)が管轄する法規です。EARは、軍民両用品(デュアルユース品)や機微な商用技術の輸出を規制しています。

EARの対象となる品目は、商務省管理リスト(Commerce Control List (CCL))で定められています。CCLは、核関連品目、材料加工、エレクトロニクス、コンピュータ、通信・情報セキュリティ、センサー・レーザー、航法・航空電子、推進システムなど、10のカテゴリーに分類されています。

これらのCCL品目を輸出する場合、その品目の輸出管理分類番号(ECCN)、仕向地、エンドユース、エンドユーザーなどに基づいて、輸出ライセンスが必要かどうかが決まります。ライセンスが必要な場合は、BISに輸出ライセンスを申請しなければなりません。

2.国際武器取引規制(International Traffic in Arms Regulations: ITAR)

国際武器取引規制(ITAR)は、国務省国防貿易管理局(DDTC)が管轄する法規です。ITARは、武器や軍事関連品目、防衛サービスの輸出を規制しています。

ITARの対象となる品目は、米国軍需品リスト(USML)で定められています。USMLは、firearms、砲弾、爆発物、ミサイル、軍用機、軍用船舶など、21のカテゴリーに分類されています。原則として、USMLに掲載された品目の輸出には、国務省DDTCの承認が必要です。

ITARの対象となる技術情報は、「技術データ」と呼ばれます。技術データには、設計図、図面、写真、マニュアル、ソフトウェアなどが含まれます。これらの技術データを外国人に開示する場合にも、ITARの規制対象となります。

以上のように、EARとITARは、それぞれ異なる品目・技術を規制しています。特許出願人は、自社の技術がEARやITARの対象となるかどうかを見極め、必要なライセンスを取得することが求められます。次章では、特許出願プロセスにおける具体的な輸出管理法規の問題点を説明します。

「米国内で生まれた発明」の外国出願における輸出管理法規の問題

「米国内で生まれた発明」を外国に特許出願する際には、輸出管理法規の観点から特有の問題が生じます。ここで言う「米国内で生まれた発明」とは、1)米国内で発明が完成した場合、2)発明の重要な部分が米国内で生まれた場合、3)発明者が米国に居住している場合のいずれかに該当する発明を指します。これらの米国内で生まれた発明をアメリカ以外の国で特許出願する場合、事前に外国出願ライセンス (Foreign Filing License) を取得する必要があります。

1. USPTOによる国家安全保障に関する出願審査と外国出願ライセンス

米国特許商標庁(USPTO)は、特許出願に含まれる技術が国家安全保障に影響を与える可能性がある場合、その出願を追加審査の対象とします。USPTOは、国防総省(DOD)やエネルギー省(DOE)など、他の政府機関とも協力して審査を行います。

審査の結果、出願された技術が国家安全保障に影響を与えないと判断された場合、USPTOは外国出願ライセンスを付与します。このライセンスは、出願人が外国での特許出願を行うことを許可するものです。通常、外国出願ライセンスは、上記のようにUSPTO出願の受領通知に記載されます。

一方、出願された技術が国家安全保障に影響を与える可能性があると判断された場合、USPTOはその出願に秘密保持命令(Secrecy Order)を発行し、出願の公開や特許の付与を一定期間留保することがあります。また、秘密指定が行われた出願は、外国出願が禁止されます。

2. 外国出願ライセンスを得るための一般的なスキーム

アメリカに出願される大部分の発明内容は国家安全保障に影響を与えないものです。そのため、特定の技術分野や特殊な環境でない限り、特許出願の受領通知において出願日から1から2ヶ月程度で外国出願ライセンスが付与されます。

そのため、多くの企業ではアメリカ発の発明に関して外国出願ライセンスを取得するために、次のようなスキームを採用しています。

  1. 発明が米国内で生まれた場合、まず米国での仮出願を行う。
  2. 仮出願の受領通知で外国出願ライセンスが付与されたことを確認する。
  3. 外国出願ライセンスを得た後に、PCT出願や各国への直接出願を行う。

このスキームを採用することで、アメリカ発の発明の外国特許出願に関する輸出管理法規のクリアランスをすることができます。

出願前の技術情報の取り扱いに関する米国輸出管理規制のリスク

特許出願に関する米国輸出管理規制をクリアーする上で便利な外国出願ライセンスですが、その許諾の内容は以外にも限定的です。USPTOから外国出願ライセンスを得れば何をやってもいいというわけではないので、注意してください。ここでは、よく勘違いされている外国出願ライセンスの誤解を解消していきます。

1. 外国出願ライセンスの範囲

前章で説明したように、USPTOが付与する外国出願ライセンスは、USPTO出願に含まれる技術情報の外国出願を許可するものです。しかし、このライセンスは、出願前の技術情報の共有や出願に含まれていない追加の技術情報の輸出を許可するものではありません。

つまり、外国出願ライセンスを得たからといって、出願前の技術情報を自由に外国人や外国企業と共有できるわけではないのです。そのため出願前の技術情報の共有には、別途輸出管理法規の適用を検討する必要があります。

2. 外国人への「みなし輸出」

また、外国人に技術情報を開示する行為はアメリカ内であっても輸出管理法規の対象となりえます。このようなことは、「みなし輸出」(deemed exports)と呼ばれ、アメリカ国内の同じ会社の従業員であっても、米国籍や永住権を保有していない人であれば、その人は輸出管理法規上、「外国人」とみなされ、その人に対する技術情報の開示は輸出とみなされます。

これらのケースでは、EARやITARの許可を得ることなく技術情報を開示すると、輸出管理法規違反になるリスクがあります。

3. 非米国企業との協力における注意点

グローバルな研究開発活動が増える中、米国企業が非米国企業と協力して特許出願を行うケースも増えています。しかし、この場合も輸出管理法規の適用には十分な注意が必要です。

例えば、以下のようなケースでは、輸出管理法規違反のリスクがあります。

  • 非米国企業の従業員に技術情報を開示する
  • 非米国企業に特許出願の準備を依頼する際に、技術情報を提供する

これらのケースでは、EARやITARの許可を得ることなく技術情報を輸出すると、法規違反になる可能性があります。

したがって、非米国企業と協力して特許出願を行う場合は、事前にEARやITARの適用を検討し、必要なライセンスを取得することが重要です。また、輸出管理法規の専門家に相談することも有益でしょう。

次章では、輸出管理法規違反のペナルティについて説明します。

輸出管理法規違反のペナルティ

輸出管理法規に違反した場合、個人と企業に対して刑事罰と民事制裁が科されます。違反の内容や程度によって、ペナルティの内容は異なりますが、いずれも重大な結果 を伴います。

EARに違反した場合、刑事罰として最大100万ドルの罰金と20年以下の禁固刑が科されます。民事制裁としては、最大30万ドルの罰金や、輸出権限の停止・取消しなどがあります。

ITARに違反した場合、刑事罰として最大100万ドルの罰金と10年以下の禁固刑が科されます。民事制裁としては、最大120万ドルの罰金や、輸出権限の停止・取消しなどがあります。

また、輸出管理法規違反は、企業の信頼を大きく損なうことにもつながります。米国政府との契約を失ったり、ビジネスパートナーから取引を打ち切られたりするリスクもあるのです。

したがって、特許出願人は、輸出管理法規を十分に理解し、違反のリスクを最小限に抑えることが重要です。次節では、そのための実務上の対策について説明します。

実務上の対策

特許出願における輸出管理法規違反のリスクを最小限に抑えるには、社内の体制を整備し、従業員の教育を徹底することが重要です。ここでは、外国出願前のチェックリストと、社内教育・コンプライアンス体制の構築について説明します。

1 外国出願前のチェックリスト

外国出願を行う前に、以下のチェックリストを確認することで、輸出管理法規違反のリスクを最小限に抑えることができます。

  1. 出願する技術がEARやITARの対象となるか確認する
  2. 外国出願ライセンスが必要か確認する
  3. 出願に含まれる技術情報の範囲を明確にする
  4. 出願に含まれていない技術情報を外国へ輸出する場合、別途輸出ライセンスが必要か確認する
  5. 外国人への「みなし輸出」が発生するか確認する
  6. 非米国企業との協力がある場合、輸出管理法規の適用を検討する

このチェックリストを活用することで、輸出管理法規違反のリスクを早期に発見し、適切な対策を取ることができます。

2 社内教育とコンプライアンス体制の構築

輸出管理法規のコンプライアンスを徹底するには、社内教育と体制の構築が不可欠です。具体的には、以下のような取り組みが有効でしょう。

  • 輸出管理法規に関する社内研修を定期的に実施する
  • 輸出管理法規の責任者を任命し、社内の相談窓口とする
  • 輸出管理法規のコンプライアンスを監査する体制を整備する
  • 輸出管理法規違反が発生した場合の対応手順を定める
  • 輸出管理法規の最新動向を定期的にフォローする

これらの取り組みを通じて、従業員の輸出管理法規に対する理解を深め、違反のリスクを最小限に抑えることができます。

また、輸出管理法規の専門家と連携し、最新の情報を入手することも重要です。弁護士や輸出管理コンサルタントなどの専門家に相談することで、自社の状況に合ったコンプライアンス体制を構築することができるでしょう。

まとめ

米国の輸出管理法規は、特許出願プロセスにおいて重要な役割を果たしています。特許出願人は、自社の技術がEARやITARの対象となるかどうかを見極め、必要な輸出ライセンスを取得することが求められます。特に、「米国内で生まれた発明」を外国に特許出願する際には、USPTO外国出願ライセンスの取得が必要です。また、出願前の技術情報の取り扱いには十分な注意が必要であり、外国人への「みなし輸出」や非米国企業との協力における輸出管理法規の適用について理解しておくことが重要です。輸出管理法規違反のペナルティは重大であるため、社内の体制を整備し、従業員教育を徹底することが求められます。本記事を参考に、特許出願における輸出管理コンプライアンスの取り組みを強化していただければ幸いです。

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