アメリカの先住民に対する特別な配慮を応用して自社特許がIPRにかけられることを回避しようとした製薬会社Allerganでしたが、IPRを取り扱う特許庁下のPatent Trial and Appeal Board (PTAB)は、Allerganの先住民との契約上の問題点をいくつも指摘し、先住民に対する免責特権を認めませんでした。
先住民に対する特権:
アメリカ先住民の部族は、連邦法において独立国家としてのステータス(sovereign status)を与えられているので、部族の同意がない限りアメリカ先住民の部族が法廷に引きずり出されることはありません。このような免責特権は、アメリカ連邦政府とアメリカ先住民の部族の間の歴史的な背景から生まれました。アメリカ先住民の部族は連邦政府への税金も免除されているので、部族の土地と認められている場所をカジノの経営者に貸したり、部族が自ら賭博などのエンターテインメント施設を経営している場合もあります。
経緯:
このような先住民に対する特権を利用しようと考えたのが、Allerganです。Allerganは、PTABにおけるIPR手続きを回避するため、Saint Regis Mohawk Tribeに複数の特許を譲渡。数百万ドルに及ぶ頭金と年間のロイアルティ支払いを条件に、譲渡した特許のライセンスを受け、譲渡された特許に対するIPR手続きに対して部族が免責特権を主張するという契約が結ばれました。
今回、Mylan PharmaceuticalsによるAllerganの特許に対するIPR手続きにおいて、上記のようなスキームによる免責特権が認められるのか否かが焦点になりました。
今回問題になったAllerganとSaint Regis Mohawk Tribeの間の契約は、Allerganに圧倒的に有利な内容になっていました。
例えば、契約内で、Allerganの特許に対する独占権(Exclusive license)は解約不可能で、特許の満了、または、無効になるまで継続し、(関連製品の販売や最低売上条件などの)商業的な制約もなく、Allerganのみが特許侵害に対して権利行使をできる権限を持っていました。
また、部族はAllerganの特許をサブライセンスする権利に対する制限はできず、特許の所有権を単独で第三者に譲渡できず、訴訟やAllerganのライセンスによる収入に対しても金銭的な恩恵は受けれなくなっていて、IPRの際の必要当事者ではないという、特許権者である部族に多くの制限がかけられていた。
このようなAllerganに一方的に有利な契約内容だが、その中でもPTABは、Allerganの単独特許権利行使に関する項目に注目しました。
その結果、PTABは、Allerganが実質的な特許権者であると宣言し、先住民に対する免責特権を認めないで、IPRの手続きを進める判断をしました。
ここで重要な点は、譲渡書という形ではなく、その契約内容が重視された点です。今回の事件では、形式上、Allerganが部族に特許を譲渡しましたが、実質的な権利者はAllerganであることは契約書の内容を見れば明らかです。
またPTABは、連邦行政機関における手続きであるIPRなどに対して部族に対する免責特権が適用された判例や法律による適用義務もないので、もし部族が特許権者としてみなされる場合でも、先住民に対する免責特権はIPR手続きに適用されないと結論付けました。また、IPR手続きの対象は特許であり、特許権者ではないので、部族に対する免責特権が適用できる手続きではないとしました。
まとめ作成者:野口剛史
元記事著者:Charles A. Meeker. Workman Nydegger