2019年を振り返って、特に影響の大きそうな企業機密訴訟の判決を見ていきます。Defend Trade Secrets Actが2016年に成立してから、連邦法でも取り締まりが出来るようになり、企業機密は知的財産権としての魅力が高まっています。
無形の企業機密も保護対象
Pelican Bay Forest Prods., Inc. v. Western Timber Prods., Inc., 443 P.3d 651 (Or. App. 2019)
Pelicanの従業員が義理の息子に顧客リストの一部を与えました。その後、義理の息子はWesternで働くようになり、業務でその与えられた顧客リストを使い始めました。
この訴訟で、Westernは顧客リストの情報は従業員の頭の中にある(つまり、有形なものではなく、無形なもの)ので、顧客リストは企業機密にならないと主張しました。
しかし、Oregon Court of Appealsはその主張を受け入れず、Uniform Trade Secrets Act (“UTSA”)には情報を無形の形で取ることで企業機密のステータスを失うとは書かれていないとし、UTSAの条項は広く書かれており、どのような形で情報が搾取されても企業機密で保護されるべきとしました。
企業機密か一般的なビジネス上の知識か
University Accounting Service, LLC v. Schulton, No. 3:18-cv-1486-SI, 2019 WL 2425122 (D. Or. June 10, 2019)
University Accounting Service (“UAS”) がScholarChipを雇い学費を徴収するソフトのデザインと維持を依頼。しかし、ScholarChip の開発者がUASのメール、顧客リスト、ウェビナー、その他の機密情報を持ち出し、UASと競合する製品を開発。このことを受け、UASはScholarChipと競合ソフトを開発した元従業員を訴えます。
UASはコピーされた顧客リストやウェビナーの情報は企業機密だと主張。一方のScholarChipはそのような情報は保護されていない一般的なビジネス上の知識であると主張。また、ScholarChipは十分なUASのデータの保護をおこなっていたので、元従業員による行動に関しては責任がないと主張。
裁判所は、UASのクライアントは公に知られているためそれ自体が企業機密ではないが、顧客特有の要望や公開されていない顧客リストは保護されるべき企業機密であるとしました。
この判決は、Summary judgementで行われたので、ScholarChipのデータ保護が適切だったのか、顧客リストを持ち去ることが不正利用になるのかについては、重要な事実に関する問題(genuine issue of material fact)、Summary judgementで判断することは避けました。
原料を特許で公開しても、プロセスの企業機密が失われるわけではない
Global Protein Prods., Inc. v. Le, No. H044628, 2019 WL 6167395 (Cal. Ct. App. 2019)
問題になったのはレタスにかける防腐剤のようなものです。Globalはその防腐剤の原料を特許出願したため、公開情報になった。そのため、企業機密による保護を失ったと、WCA(被告側)は主張。
しかし、California appellate courtは、企業機密訴訟における主張は、防腐剤の原料だけにとどまらず、機密の方式やプロセスに関するものも含まれるため、特許出願をしたからと行って、自動的に企業機密が失われることはないとしました。
その他のケース
記事には他にも3つのケースを取り上げています。
U.S. v. Anthony Levandowski, No. 3:19-cr-00377 (N.D. Cal. 2019). これはWaymo(Google)の元従業員がデータを持ち去ってUberで同じ自動運転技術に関する仕事をしていた問題です。この訴訟、民事ではなく、刑事の案件(企業機密訴訟は刑事でも扱われる場合がある)なので、今回は特に詳しく取り上げませんでした。
Board of Regents of the University System of Georgia v. One Sixty Over Ninety, LLC, 830 S.E.2d 503 (Ga. App. 2019)は、Sovereign immunity(主権免除)の問題で、ある特定の法律に関しては、州などの政府機関を訴えることができないというものです。これはあまり日本企業さんには関係ないと思ったので、詳しくは取り上げませんでした。
最後に、Liqwd, Inc. and Olaplex LLC v. L’Oreal USA, Inc., No. 1:17- cv-00014 (D. Del. 2019) は、OLCでも取り上げたので、それを見てください。
まとめ作成者:野口剛史
元記事著者: Kelsey I. Nix and Marlee Hartenstein. Jones Day(元記事を見る)