特許庁による偽物標本の取り締まり

特許庁は、2018年3月、商標出願に関わる不正標本の取り締まりのためにパイロットプログラムを発表しました。このプログラムでは、一般の人がグラフィックソフトウェア等で編集された標本や偽造された標本を専用メールアドレスに報告することができます。アメリカでは、中国から大量の商標出願があり、その多くが基準を満たしていなかったり、違法性のあるもので、特許庁は対策に迫られていました。ルールの変更等も視野に入れていますが、今回の取り組みは、いつ終わるかわからないパイロットプログラムですが、すでに運用されていて、誰でも簡単に偽物標本を報告することができます。

パイロットプログラムの概要

商標登録や延長には標本が必要ですが、その標本の偽物を第三者がレポートするシステムです。使い方は簡単で、第三者が不正を見つけたら、専用のメールアドレス(TMSpecimenProtest@uspto.gov)に報告するだけです。しかし、条件があり、商標がopposition(登録前に公に審査中の商標を公開し、一般から商標登録に関する反対意見や主張を募る手続き)の際に公開されてから、30日以内にメールで報告しなければいけません。また、証拠として以下のいずれかが求められます:

  1. 審査中の商標は表示されていないが、第三者が全く同じ標本を開示していた証拠(ウェブサイトのアドレスやスクリーンショット、印刷された広告のコピーや雑誌名やその情報など)
  2. 全く同じ標本に特許庁に出願された様々な商標が表示されている証拠

1.の証拠は商標とは関係ないものを商標の標本として使っているので、不正標本です。2.の証拠は不正に大量の商標を得るための標本である可能性があるので、不正表の可能性があります。

パイロットプログラムの今後

特許庁はこのパイロットプログラムは必要の応じて運用するとし、特に終了までの期限を設けてはいません。しかし、大量の「不正」商標出願がある中、このプログラムはある程度の期間、運用されると考えられています。

提出された証拠の活用

提出された証拠は、他のメタデータと共に、提出された標本の信憑性の判断を助けることができます。また、出願人の過去の履歴なども考慮することで、商標出願の信憑性をある程度把握できることが期待されています。

専門家の反応

特許庁が不正商標出願対策に乗り出したことに対して、専門家は喜んでいます。しかし、これ以上のより厳しい取り締まりを期待する専門家も少なくはありません。

まとめ

不正商標出願対策に乗り出した特許庁は、偽物標本の取り締まり強化のために専用のメールアドレスを設け、一般からの不正証拠を集めやすくしました。このような取り締まりは、他の情報と組み合わせ、提出された標本の信憑性の判断に使われることが予想されます。専門家も喜ぶ取り組みですが、より厳しい取り締まりを希望する声も少なくありません。

まとめ作成者:野口剛史

元記事著者: Tim Lince. World Trademark Review (元記事を見る

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