ITC調査のための弁護士を雇う上でのポイント

ITC調査の弁護のために弁護士を雇う場合、特別な配慮が必要です。通常の地裁における特許訴訟の弁護士とは違うものが求めれれるので、特許侵害におけるITC調査を専門に行っている弁護士を雇うのがベストです。ここでは、ITC調査のための弁護士を雇う上でのポイントを幾つかまとめてみました。

1.スピードが命:

ITC調査はとにかく手続きが速く進みます。地裁では数年かかる手続きをITCでは12ヶ月以内に行なってしまいます。手続きが進むスピードが早いということは、それだけ対応するコスト(時間、お金、リソース)がかかることになります。ITCは時間との勝負と言っても過言ではないでしょう。担当弁護士・事務所がこのITCのスピードに対応できる体制が整っていることが重要です。

2.担当ALJをよく知っている:
地裁では陪審員による公判が行えますが、ITC調査では、ALJ(Administrative law judge)と呼ばれる行政法判事によって公判が行われます。地裁における陪審員による公判では、とにかく素人にもわかりやすい説明と主張が求められます。しかし、ALJは特許に関わる仕事を頻繁に行っているので、担当ALJの理解度や性格にあった説明や主張を行う必要があります。

3.証拠法がITCオリジナル:

地裁では連邦証拠法(Federal rule of evidence)が用いられますが、ITCではITC専用に変更が加えられた証拠法が用いられます。また、各ALJごとに独自のルールを設けています。ここでの違いで特に大きな点は、Discoveryの速さと適用範囲の大きさだと思います。日本サイドで、証拠法の違いの詳細を知っている必要はないと思いますが、弁護士を雇う上で、担当弁護士がITC独自のルールに精通しているか事前に確認しておくことが大切なポイントだと思います。

4.ALJはスペシャリスト:

地裁では、陪審員や特許訴訟に慣れていない地裁判事というジェネラリストが事実認証を行なったり、判決を下します。しかし。ITCではALJという特許問題を頻繁に扱うALJが担当するので、この違いを考慮して説明や主張ができる弁護士が必要です。

5.担当ALJは5人の中から選ばれる:

現在ITCには、5人のALJ(Administrative law judge)と呼ばれる行政法判事がいます。特許侵害によるITC調査が行われる場合、この5人の内の1人が担当ALJになります。各ALJは、専任の助手がいます。また、各ALJごとに、独自のルールを設けていて、性格も違うので、自社の担当弁護士が担当ALJの前で弁護した経験があり、担当ALJの性格をよく知っていることは大切なことです。ITC調査を申し立てる際、担当ALJが誰になるのかはわかりませんが、雇う弁護士が複数のALJの前でITC調査を経験していればプラスです。被告側の場合、担当ALJはわかります。

6.Staff attorneyと両力できる弁護士:

Staff attorneyとは対立関係になるのではなく、手続きの早い時期から協力関係を築くことが大切です。Staff attorneyによっては、当事者との個別の協議なども積極的に受け入れているので、早期からStaff attorneyとの関係づくりを行うことが重要です。

7.国内産業要件をおろそかにしない人:

ITC調査を依頼する申立人(特許権者)は、国内産業要件を満たす必要があります。この国内産業要件の証明は、ALJによっては難しい場合があります。特に申立人の場合、ITC調査の申し立てを行う前に、どのように国内産業要件を証明するか、そのための証拠としてどのようなものが必要かを相談できる弁護士が必要です。

8.ITC特有の手続きを知っている:

Discoveryが進む中、公判に向けて様々な書類を提出したり、手続きを行う必要があります。ここで特に注意したいのが、公判前の弁論書(Prehearing brief)です。ALJによっては公判前の弁論書を公判前には読まないという判事もいたり、逆に、綿密に読むという判事もいるので、そこはITCの経験が豊富な担当弁護士と協議することがいいと思います。

これは、2月に行なったウェビナー「 米国特許訴訟戦略のために知っておきたい米ITC調査 」の一部です。本編では、ITCという組織の説明に始まり、地裁での特許訴訟と比較したITC調査の特徴(国内産業要件、救済方法、調査の概要)を説明した後に、最後に日本企業としてITC調査に関わった際の知っておきたいポイントを紹介しています。以下のリンクからウェビナー動画と日本語のまとめが見れるので参考にしてみてください。

まとめ作成者:野口剛史

講師:Aamir Kazi, Ben Thompson. Fish & Richardson法律事務所

http://openlegalcommunity.com/itc_patent_investigation

ニュースレター、公式Lineアカウント、会員制コミュニティ

最新のアメリカ知財情報が詰まったニュースレターはこちら。

最新の判例からアメリカ知財のトレンドまで現役アメリカ特許弁護士が現地からお届け(無料)

公式Lineアカウントでも知財の情報配信を行っています。

Open Legal Community(OLC)公式アカウントはこちらから

日米を中心とした知財プロフェッショナルのためのオンラインコミュニティーを運営しています。アメリカの知財最新情報やトレンドはもちろん、現地で日々実務に携わる弁護士やパテントエージェントの生の声が聞け、気軽にコミュニケーションが取れる会員制コミュニティです。

会員制知財コミュニティの詳細はこちらから。

お問い合わせはメール(koji.noguchi@openlegalcommunity.com)でもうかがいます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

OLCとは?

OLCは、「アメリカ知財をもっと身近なものにしよう」という思いで作られた日本人のためのアメリカ知財情報提供サイトです。より詳しく>>

追加記事

mistake
訴訟
野口 剛史

先行技術と重なるクレーム範囲をもつ特許の権利行使は要注意

先行技術と重なるクレーム範囲であっても、クレームされた範囲だけで起こる特徴を示すことで特許が取れることもあります。しかし、そのような特許の権利行使には注意した方がいいというのが今回の判例です。CAFCは、地方裁判所の分析において一部の誤りがあったことを示しましたが、重複する範囲による明白性の判断を支持し、予期しない結果や商業的な成功の主張を退けました。先行技術と重なるクレーム範囲をもつ特許を取得する場合、クレーム範囲の特徴が程度の差ではなく、種類の差(例えば、新しい特性)である発明を選ぶと良いでしょう。

Read More »
AI
野口 剛史

AIが作成した作品は芸術の理解や定義を変えるものなのか?

長年芸術作品は、技術や道具を使うことがあっても、人間が創造的想像力を意識的に用いることで、主に絵画や彫刻のような視覚形態で、その美しさや感情力を表し、評価されてきました。 しかし、その創造における重要な役割を人工知能(AI)が担うようになったら、芸術に対する理解や定義を変えるものになるのでしょうか?

Read More »