アメリカで企業機密搾取の疑いがあると民事に加え、刑事事件に発展することもあります。今回はそのような刑事事件で、大陪審において起訴はされたものの、陪審員による審議で無罪になったケースを紹介します。
2年ほど前に、the Northern District of California の大陪審(grand jury)が起訴したFitbitの元従業員が2週間にわたる審議を得て、陪審員により無罪となりました。 USA v. Mogal et al Criminal Court Docket Sheet Northern District of California 5:2018-cr-00259-327992 (cand)
大陪審という仕組み
大陪審(grand jury)制度の詳細は、他のリソース(例えばここ)を参考にしてもらいたいのですが、簡単に言うと、検事が刑事事件で被告を起訴するかを判断するときに用いられることがあります。大陪審が起訴を決めるにあたって全員一致する必要はありませんが、ある程度の数の賛成が求められます。また、大陪審の賛成が得られなくても、検事が独断で起訴することを決めることもできます。(私は刑法の専門ではないので、詳しくは、関係する州や連邦管轄の刑法と刑法手続きに詳しい専門家に問い合わせて下さい。)
とりあえず言えることは、アメリカの場合、起訴されても必ずしも有罪になるというわけではありません。日本のように、検察に起訴されたらほぼ有罪確定ということではないので、そのあたりの違いを認識しておくのは大切だと思います。
刑事における企業機密搾取の追求
疑われていた容疑は、被告が務めていたJawboneというFitbitの競合他社から盗まれた企業機密の受け取りと保有の罪です。
ちなみに、知財系の訴訟は主に民法(企業などの組織や個人が損害賠償などを求めて訴える)がほとんどですが、企業機密搾取(theft of trade secret)では、民法における訴訟の他に、刑法での処罰もあり、有罪になれば、懲役の可能性もあるとても重大な犯罪です。
Katherine MogalというJawboneの元director of market and customer experience insights(ともう1人の元従業員)に対して、6つの罪の疑いがかけられていましたが、そのすべての点について有罪ではないという判決が下りました。
この案件において、検察官は、Mogal氏がFitbitに入社した後もJawboneの機密書類にアクセス可能であったと主張。検察側は、それらの書類はDropboxやCrashPlanなどのクラウドサービスに保存されていたと争いますが、Mogal氏はそれらの書類はルーティンのバックアップの際に記録されたと主張し、また、それらの書類はFitbitでは使っていなかったし、企業機密で守られている書類ではなかったと主張。
陪審員はMogal氏の主張を支持し、彼女を無罪としました。
他の刑事事件への影響
Jawboneの企業機密搾取に関する刑事事件では他にも容疑者がいます。しかし、今回の無罪判決がどのように他の案件に影響するかは未知数です。また、このMogal氏に対する公判が行われる前に、Ana Rosaria氏に対する容疑が取り下げられました。
検察官は、関連している案件でも個別案件として扱うので、どのようになるかはわかりませんが、今回の判決を考慮して、他の案件の追求も行うということをほのめかしました。
まとめ
アメリカの企業機密搾取は、民事のみでなく、刑事事件による追求もあります。それぞれ異なる手続きなので、それぞれ専門の弁護士による弁護が必須です。また、今回のように大陪審で起訴されたとしても、公判で無罪になることは十分ありえるので、起訴されても戦う姿勢を崩さないことは大切です。
またこのようなDropboxなどのクラウドサービスが疑われることもあるので、会社としてはこのような訴訟を回避する取り組みが求められます。OLCにも協力してくれているKazi弁護士の記事が役にたつと思うので、ここにリンクを張っておきます。
まとめ作成者:野口剛史
元記事著者:Steven Grimes, Shannon T. Murphy and Justin M. Bongco. Winston & Strawn LLP (元記事を見る)